相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
自筆証書遺言の保管制度~その2
コロナは、落ち着くどころかまたもや感染拡大の様相を呈しています。
そんな中、7月28日の日経新聞に、コロナウイルスの感染拡大をきっかけに相続について考えることが増えた人が一定数いるという記事が載っていました。その理由でもっとも多かったのは、「万が一の備えが必要と感じた」というものだったようです。
折しも7月10日から、自筆証書遺言の保管制度が始まりました。遺言書保管制度につきましては2019年9月号でもご説明していますが、実際の運用が始まり、手数料や方式などの詳細も明らかとなりましたので、改めてこの制度についてご説明したいと思います。
これまで自筆証書遺言は、常に適切に保管されてきたというわけではありませんでした。自宅の金庫や大切な書類をしまっておく決まった場所に大切に保管していたというケースも多い反面、親が亡くなった後、子どもらが家を整理していたら思いがけず本棚などから遺言書らしきものが出てきたというようなお話をお聞きすることも珍しくありません。
たまたま発見されればよいようなものの、見つからずに他の不要物と一緒に捨てられてしまったりすると、せっかく作った遺言書が無駄になってしまい思いが伝えられないことになります。
悪くすると、遺言書が隠されてしまったり、内容が改ざんされたりするリスクもあります。こうしたリスクを未然に防ぎつつ、手軽で費用もかからないという自筆証書による遺言の利点を活かすため、法務局という公的機関で遺言書を保管する遺言書保管制度がもうけられました。
遺言書の保管を申請する手続は、以下のようになります。
① 自筆証書の遺言書を作成する。
保管制度の対象となる遺言は、自筆証書遺言だけです。
遺言書は、A4サイズの用紙に、ボールペンなどの簡単に消えない筆記具で書く、決められた余白をもうけるなど、一定の様式に従って作成する必要があります。
この様式に従った用紙は、法務省のHPからダウンロードできますので、不安であればその用紙をA4サイズで印刷して使用するとよいでしょう。
② 保管の申請書に記入する。
申請書は、全国の法務局のうち法務大臣が指定した法務局(遺言書保管所)でもらえます。また、法務省のHPからもダウンロードできます。
申請書には、遺言書保管所の名称を記載する必要があります。
保管の申請ができる遺言書保管所は、遺言者の住所、本籍地、遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所です。ただし、すでに他の遺言書を遺言書保管所に預けている場合には、その遺言書保管所となりますので注意してください。
③ 保管の申請の予約をする。
遺言書保管の手続は、原則として予約が必要とされています。
②で保管先と決めた遺言書保管所の予約サービス専用HPでいつでも予約可能なほか、電話や窓口でも予約できます。
④ 予約日時に遺言書保管所に行って保管の申請を行う。
保管の申請は代理人が行うことはできず、遺言者本人が遺言書保管所に行く必要があります。
持参するものは次のとおりです。
・遺言書(ホチキスで止めない。封筒も不要)
・②で作成した申請書
・本籍の記載のある住民票などの添付書類
・マイナンバーカードや運転免許証などの本人確認書類
・手数料(1通につき3900円。収入印紙で納付)
⑤ 保管証を受け取る。
遺言書保管所では、自筆証書遺言が民法で定められた方式に従って作られているかについての外形的な確認がなされます。
具体的には、日付と遺言書の氏名及び押印があるか、本文が手書きで書かれているか(財産目録は必ずしも自書する必要はありません)、などを確認したうえで、遺言書の原本を預かります。
申請手続が終わると、遺言者の氏名、生年月日、遺言書保管所、保管番号などが記載された保管証を渡されます。
申請が終わると、遺言書保管所は、遺言書の原本を保管し、さらにその画像情報等を遺言書保管ファイルとしてデータ保存します。
遺言書が遺言書保管所で厳重に保管され、偽造などのおそれもないため、遺言書保管所で保管された遺言書については、自筆証書遺言で必要とされる検認は不要とされています。
このようにして遺言書が遺言書保管所で保管された場合、遺言者が死亡した後は、誰でも全国の任意の遺言書保管所に遺言書保管事実証明書を申請することによって、遺言書が保管されているかどうかを確認することができます。遺言者の生存中はこうした確認はできません。
ただし、遺言書が保管されていない場合だけでなく、申請した者が遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者等の関係者(「関係相続人等」といいます)にあたらない場合も、遺言書保管事実証明書には遺言書は保管されていない旨が記載されますので、相続人や受遺者にあたると思われる人は、ご自身で確認した方がよいでしょう。
関係相続人にあたる人は、保管所に遺言書の閲覧請求をする、あるいは遺言書の内容の証明書(遺言書情報証明書)を申請するなどの方法によって、遺言書の内容を確認することもできます。
遺言書保管制度は、便利で紛失や偽造等のおそれもない安心な制度ということができ、積極的な活用が期待されます。
私の依頼者も、さっそくこの遺言書保管の申請を行い、7月中に保管証を受け取ってこられました。事前に私の方で遺言書のチェックもさせていただいておりましたので、問題なくスムーズに申請ができたそうです。
しかし、相続開始後、自動的に保管所から相続人らに遺言書の保管について通知されるようなシステムにはなっておらず、遺言書保管所に保管された遺言書については検認も不要なため、相続人らが遺言書の有無を保管所に確認しなければ、遺言書の存在や内容が知られないまま相続手続がなされてしまうおそれは残っています。
そこで、自筆証書遺言を作成したときは、遺言書保管制度を利用した場合であっても、信頼できる人に保管証の写しを渡すなどして保管所に遺言書を保管してあることを伝えておくとか、エンディングノートなどにその旨を記載して目立つ場所に置いておくなどしておくとよいでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。