相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
自筆証書遺言の保管制度~その1
猛暑の夏も一段落し、30度を少し超えるくらいの気温の日が続いています。このまま秋に向かって涼しくなっていって欲しいものです。
さて、今回も、前回に引き続き遺言制度に関する改正についてお話しします。
前回は、自筆証書遺言の作成方式の改正についてでしたが、今回は、自筆証書遺言の保管制度についてお話しします。
この制度は、民法の改正ではなく、「法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号)という新しい法律(以下、「遺言書保管法」といいます。)によって創設されました。
遺言書保管法は、まだ施行されていませんが、令和2年7月10日(金)に施行されることが決まっています。ですから、来年の7月10日から、自筆証書遺言を法務局に預かってもらうことができることになります。
この制度ができたことにより、自筆証書遺言を書いた人が亡くなり、相続が開始すると、相続人などの関係者は、法務局に自筆証書遺言の遺言書を預かっていないか確認することになります。
これによって、自筆証書遺言をした人は、自分の自筆証書遺言の遺言書を確実に見つけてもらうことができるようになり、また、相続人にとっても、遺産分割協議が終わった後に自筆証書遺言の遺言書が出てきて、それまでの遺産分割協議が無駄になってしまうようなことはなくなります。
では、自筆証書遺言を保管する制度の具体的な内容は、どのようなものでしょうか。
① Aが自筆証書遺言の遺言書の保管を希望する場合、Aは、法務省令で定める様式に従って作成した自筆証書遺言の遺言書の保管を法務局に申請します。
この場合、Aは、法務省令で定める書式の申請書に、Aの氏名、生年月日、住所及び本籍等を記入して法務局に提出します。
② 保管の申請ができる法務局は、法務大臣が指定する法務局で、Aの住所、本籍地、あるいはAの所有する不動産の所在地を管轄する法務局です(遺言書を保管する法務局を、「遺言書保管所」と呼び、遺言書の保管を取り扱う法務事務官を「遺言書保管官」といいます。)。
また、上記の自筆証書遺言の保管の申請は、Aが自ら法務局に出頭して行う必要があります。
③ 保管の申請を受けた遺言書保管官は、提出された遺言書が民法の定める方式を守っているか確認した上で、遺言書を預かります。
Aは、いつでも自分の遺言書を保管している遺言書保管所の遺言書保管官に対し、遺言書の閲覧を請求できます。この請求も、A自身が法務局に出かけてしなければなりません。
④ 遺言書保管官は、Aから預かった自筆証書遺言について、遺言書の画像情報などの事項を記録した磁気ディスク(これを、「遺言書保管ファイル」といいます。)を作成して管理しなければなりません。
⑤ Aは、いつでも自分の遺言書を保管している遺言書保管所に出頭し、保管の申請を撤回することができます。
Aが保管の申請を撤回したときは、遺言書保管官は、Aに遺言書を返還するとともに、上記④の磁気ディスクの記録を消去しなければなりません。
⑥ Aが亡くなると、Aの相続人、遺言書でAから遺産をもらえることになっている人や遺言書で遺言執行者とされている人は、Aの遺言書を保管している遺言書保管官に対し、遺言書の閲覧を申請できます。
また、上記の人は、遺言書保管官に対し、遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面(これを「遺言書情報証明書」といいます。)の交付を請求できます。
⑦ 遺言書保管官は、Aの遺言書の閲覧あるいは遺言書情報証明書を発行したときは、閲覧や証明書の発行を請求した人以外のAの相続人、遺言書でAから遺産をもらえることになっている人及び遺言書で遺言執行者とされている人に、Aの遺言書を保管していることを通知しなければなりません。
なお、この通知のために、遺言書保管官は、上記の証明書発行の申請の際、申請者に対し、遺言者の法定相続人を確定することができる戸籍類の提出を求めることになると思われます。
⑧ 遺言書保管所が保管している遺言書については、検認の手続きをする必要はありません。
上記のように、自筆証書遺言の遺言書の保管制度は、かなりしっかりとした制度となっていますが、逆に、しっかりし過ぎて利用しづらくならないか心配です。
私が過去に接した自筆証書遺言の遺言者の方は、高齢であることは勿論、字が上手く書けなくなっている方や体調が悪くて自由に外出ができない方が多かったように思います。
そうした方々が、誰の助けも借りずに遺言書を作れるところが、自筆証書遺言のメリットでした。
そうした方々が自ら法務局に出かけていって遺言書の保管を申請するわけですから、手続きが面倒であったり、用意する必要書類が多くなったりすると、この制度を利用することを敬遠するのではないかと思います。
もちろん、法務局の窓口での職員の方々の対応も、大切な要素となってきます。
この保管制度が普及し、適切な時期に、簡易に自筆証書遺言の存在が確認できるようになることを願っています。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。