相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
現物分割が優先!遺産分割方法の優先順位
毎年、11月の初めころに衣替えをして、冬用のスーツやコートを引っ張り出してくるのですが、今年は11月に入っても気温が下がらず衣替えができませんでした。
11月下旬になって、やっと気温が下がり始めたと思ったら、今度は真冬並みの気温になり、急いで衣替えをしました。
年を追うごとに、春と秋が短くなっているようです。
さて、今回は遺産分割方法の優先順位のお話です。
先日、家庭裁判所での遺産分割審判手続でこんなことがありました。
この事件の概要は、次のとおりです。
亡くなったのは、A、B、Cの3兄弟の父親Xですが、3兄弟の実の母親は20年前に亡くなっており、Xが10年前にYと再婚していたため、相続人は後妻のYと3兄弟でした。
もっとも、XとYは数年前から不仲となり、Yは自宅から出て別居していました。
遺産としては、自宅土地建物(評価額6000万円)、アパート1棟(評価額2000万円)、預貯金3000万円でしたが、Xが高齢であったため、X所有のアパート1棟はYが管理していました。
また、Aさんは、数年前にXから自宅購入資金として1000万円の贈与を受けていました。
この事件では、X死亡時の遺産総額1億1000万円に、AがXから受けた贈与1000万円が持ち戻されますので、相続財産の総額は1億2000万円となります。
そこで、各相続人の具体的相続分は次の金額になります。
Y 1億2000万円 × 1/2 = 6000万円
A 1億2000万円 × 1/2 × 1/3 - 1000万円
= 1000万円
B 1億2000万円 × 1/2 × 1/3 = 2000万円
C 1億2000万円 × 1/2 × 1/3 = 2000万円
各相続人の具体的相続分は、上記のとおりですが、問題は実際に遺産をどう分けるかです。
既に調停が不調になって審判手続きに入っていましたので、遺産の分け方については、各相続人が遺産の分け方について自分の主張を出し、各相続人の出した遺産の分け方についての主張が対立する場合は、最終的に裁判所が審判を下すことになります。
私の依頼者はAさんですが、審判手続きに入る前の調停の段階から、A、B及びCの連合軍 vs Y という構図になっており、A、B及びCは意見を統一し、Yは自宅土地建物を取得する、B及びCは、預貯金を1500万円ずつ取得する、Aはアパート1棟を取得して代償金として500万円ずつB及びCに支払うという分割案を主張しました。
これに対して、Yは、自宅土地建物とアパート1棟を取得し、A、B及びCに対して合計2000万円の代償金を支払うという分割案を主張しました。
この事件では、このように、アパート1棟の取得について分割案が折り合わず、審判になる可能性がありましたが、裁判官は審判になったときはYの案となる可能性が高いという意見を述べました。
裁判官が、このような意見を述べたのはなぜでしょうか。
実は、遺産分割の方法としては、現物分割、代償分割、換価分割及び共有分割の4つがあるのですが、裁判所の考え方としては、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割の順で、優先順位が決まっているのです。
A、B及びCの主張とYの主張とは、Yが自宅土地建物を取得する点で一致しており、対立している点は、アパート1棟の取得者ですが、アパートの取得者については、A、B及びCの主張もYの主張も、代償分割であり、優先順位としては同じです。
このような場合、裁判官は、どちらがアパートを取得するのが合理的かを考えますが、本件の場合、Yがアパートの管理をしていますので、それ以外の事情がなければ、AよりもYがアパートを取得する方が合理的ということになります。
A、B及びCとしては、父親の持っていた不動産が全部Yに取られるのは納得いかないと主張しましたが、裁判官からするとそれは感情論であって、そのまま採用することはできません。
そこで、私はA、B及びCと協議し、Yが自宅土地建物を取得する、Bがアパート1棟を取得する、Aは預貯金1000万円を取得する、Cは預貯金2000万円を取得するという案に変更しました。
この提案を受けて、裁判官は、こちらの提案を採用することになる可能性が高いと意見を変えました。
こちらの提案は、6000万円の具体的相続分を持つYが、6000万円の自宅土地建物を取得し、また、2000万円の具体的相続分をもつBが、2000万円のアパート1棟を取得するというものですから、主な遺産を全て現物分割することになり、裁判官としては、最も採用しやすい案になったのです。
結局、Y側もこの案を受け入れ、話し合いがまとまりました。このような場合、当事者全員の同意があれば、審判から調停に戻すことができますので、審判手続から調停手続に戻し、この案で調停が成立しました。
このように、裁判官の考え方としては、①現物分割、②代償分割、③換価分割、④共有分割の順で優先順位が決まっていますので、調停が不調となり、審判手続きとなった場合は、この裁判官の考え方を考慮して分割案を考えていくことが必要となります。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。