相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
衣食住はもらい得?親との同居と特別受益
私は、昨年コロナ禍で全ての裁判が約3ヶ月間中止になったとき、時々ジョギングをしていました。ランニングと言いたいところですが、1キロメートル7分前後のスピードでは、ランニングとは言わないそうです。
約1時間から1時間30分、同じコースを走るのですが、走っている間によく見かけたのが、救急車でした。第5波の真っ最中は、1時間のジョギングの間に5台も6台も救急車を見かけました。
昨年12月ころは、ほとんど見かけませんでしたが、最近、見かける救急車の数が増えてきています。ただ、感染者数が第5波のピークを超えているにもかかわらず、第5波の時ほどは増えていないように思います。やはりオミクロンは、あまり重症化しないのでしょうか。
さて、今回は、相続人が、長年被相続人と同居し、衣食住を親に依存していた場合、その衣食住の援助は、特別受益にならないのかというお話です。
私は、相続を巡る法律相談を、電話や面談で、月に10件以上受けていますが、「相続人の一人が、親と親の家で同居し、親の収入で生活していた場合、その居住利益や生活費は、特別受益になるのではないか。」ということを、よく質問されます。
最近は、「引きこもり」ほどではないにしろ、親が高齢になるまで、何十年もの間、親の家に同居している人が、よくいます。
その中には、いろいろな事情から働いておらず、生活費についても親に依存している人がいます。
東京で普通に生活していこうとすると、家賃や生活費で、節約しても月に10万円くらいのお金がかかります。
仮に、相続人の一人が親と30年間同居し、家賃も払わず、生活費も親に依存していた場合、単純計算では、3600万円もの利益を得ることになります。
就職したり、結婚したりして、親の家を出て、独力で生きてきた他の相続人からすると、親から3600万円もの援助を受けてきた相続人が、法定相続分どおりの遺産を受け取るのは、なかなか納得できないということになります。
特に、兄弟姉妹の場合は、法定相続分は同じですから、原則として手にできる遺産金額も同じになります。
相談の中で、「弟は、ずっと親の家にいて、生活費も負担しませんでした。それだけではなく、親のお金で、親と旅行をしたり、美味しいものを食べたりしていました。それなのに、どうして、私と弟のもらうお金が同じなんですか。この親の援助は、特別受益にならないのですか。」というような話は、よく出ます。
では、こうした衣食住の援助は、果たして特別受益になるのでしょうか。
この点について、結論から言うと、裁判所では、こうした衣食住の援助を、原則として特別受益としていません。
まず、被相続人の建物の無償使用についてですが、建物を独立して占有している場合もそうでない場合も、原則として特別受益とならないとされています。
建物を独立して占有している場合というのは、親と同居するのではなく、親の持っているアパートの一室に居住しているというような場合であり、また、独立して占有していない場合というのは、親の家の中の一室に居住して、親と同居しているというような場合です。
最も、前者の場合、つまり親の持っているアパートの一室に居住しているという場合については、本来であれば、貸し出して賃料を得ることができる部屋を相続人が使っているのだから、特別受益とするべきだという意見を言う裁判官もいます。
次に、生活費の援助ですが、東京家庭裁判所の審判で、特別受益として持ち戻すべき金銭給付(特別受益として遺産総額の計算に加算するお金)か否かの区別基準を月額10万円とした審判例があり、実務では、よくこの審判例を引用されます。
この審判例は、親と同居して生活費について親の収入に依存していたという場合ではなく、親から毎月仕送りを受けていたという事案ですが、このような仕送りの事案でも、月額10万円を超えなければ、持ち戻しの対象としていないのですから、これより少ない金額であれば、なかなか特別受益とはならないでしょう。
また、そもそも、生活費というのは、食費や光熱費などを含みますが、毎月食費がいくらかかっていたかなど、よほどきちんと家計簿でもつけていない限り、分かりません。
また、食費や光熱費は、親の分と同居している子供の分を判然と分けることも困難です。
さらに、一戸建ての家の中の居住している部屋の家賃を算出することも難しいでしょう。
結局、私は、「相続人の一人が、親と親の家で同居し、親の収入で生活していた場合、その居住利益や生活費は、特別受益になるのではないか。」という質問については、原則として、特別な事情がある場合を除いて、「特別受益とはならないと思います。」と答えています。
ちなみに、親と長年同居していた相続人は、しばしば、「親が亡くなるまで面倒を見たので、寄与分がある。」と主張します。
しかし、裁判所は、食事を作る、掃除や洗濯をする、病院への送り迎えをするという程度の世話では、寄与分を認めることはありません。
結局、親と子供の間柄では、お互いに扶養義務があるので、ある程度の援助は、特別受益や寄与分とはならないということなのです。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。