相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
遺産分割調停にも出てきてくれそうもない相続人がいるときはどうなる?
相続が発生したため相続人たちで遺産をどのように分けるか話し合いをしなければならないのに、電話をしても出てくれず手紙を書いても梨のつぶて、まったく話合いが進まない。
困って知人に相談してみると、家庭裁判所に調停を申し立てればさすがに出てくるんじゃないかとアドバイスを受けたが、それでも相手が出てきてくれなかったらどうすればよいのか、調停には出頭しなければならない義務があるのか。
相続では、親族間の対立が激しかったり、あるいはそれまでまったく疎遠で顔も知らなかった相続人と話し合わなければならなくなったりすることがあり、こうした不安を抱える人も少なくないようです。
遺産分割調停とはどういうものかというと、相続人同士が家庭裁判所で相続財産の分割方法について話し合う手続です。
当事者だけで話し合いをしようとしても、感情的になったり、互いに言い分をぶつけ合うだけで整理がつかずに進展しなかったりで合意に達することができないこともあります。このようなとき、遺産分割調停を利用して中立な裁判所の調停委員に中に入ってもらうことで、話合いを進めることが期待できます。
調停委員は、当事者双方から事情をきいたり資料を出してもらったりして整理をし、それぞれの当事者がどのような分割方法を希望しているのかを把握していきます。そのうえで、合意を成立させるために有益な助言や解決案を提示してくれます。
ただ、調停も話合いなので当事者が協力してくれなければなりません。遺産分割調停を成立させるためには、相続人全員の合意が必要です。これは、調停によらず当事者同士で遺産分割協議書を作成する場合も同じです。
期日に欠席した相続人がいても、出席した当事者だけで調停期日は開かれます。こうしたときは、出席した当事者からだけ事情や希望をきいたり今後の進め方を相談したりします。
欠席した当事者には、裁判所から電話で連絡するなどして次回期日を調整して出席を促します。
なお、正当な理由なく調停を欠席した場合には、5万円以下の過料という罰則があります。つまり調停には出席することが求められているわけですが、調停期日に出頭しないからといって実際にこの条文が適用されて過料が科せられるということはまずないと思います。
当事者の一部が欠席してもそれでただちに調停が打ち切りとなるわけではありませんが、裁判所からの連絡にもかかわらず欠席を続けた場合、いつまでもそのまま調停を続けるわけにはいきません。
こうした場合、調停を申し立てた当事者は調停を取り下げることもできます。取下げを希望しない場合には、調停成立の見込みがないものとして調停は不成立となって打ち切られます。
しかし、調停が不成立になってそれで終わりというわけではありません。
遺産分割調停事件が調停不成立で終了したときは、調停申立ての時に遺産分割の審判の申立てがあったものとみなされます。つまり、あらためて審判の申立てをするまでもなく、当然に審判手続に移行するわけです。
遺産分割の審判とは、裁判官が遺産である財産(モノや権利)の種類や性質など一切の事情を考慮して分割方法について判断を下す手続です。
調停から審判に手続が移ると、家庭裁判所から当事者に陳述の機会が与えられます。具体的には、遺産の内容や評価、分割方法、特別受益や寄与分についての主張や資料提出を行うことになります。
期日に出席していなかった当事者に対しては裁判所から審判期日が通知され、期日に参加するよう促されます。
審判手続に移行しても当事者が欠席を続けて何の陳述も行わない場合には、今度は調停とは違って裁判所が遺産の分割方法を決定します。
ですから、審判中も欠席を続けていると、自分の言い分をまったく聞いてもらえないまま分割方法が指定されてしまいます。たとえば、先祖代々受け継がれてきた土地を第三者に売りたくないとか、他の相続人は生前に贈与を受けていたからそのことを考慮すべきだなどといった希望や意見を持っていたとしても、そうしたことは考慮されずに審判が下されてしまいます。
このように、まったく遺産分割手続に協力しない相続人がいても最終的には遺産分割を行うことは可能です。ただし、たとえば相続財産に不動産が含まれていて、これを当事者で協力して第三者に高く売りたいと思っていたとしても、審判で「互いに協力して第三者に売却せよ」とはしてくれないといった注意も必要です。
家庭裁判所から指定された期日の都合が悪いときは、理由をいってその期日は欠席とさせてもらって次回期日は自分の都合も聞いてもらって期日を決めてもらうとか、遠方で出席が難しい場合は電話会議を希望してみるといった対応も可能です。もちろん弁護士を代理人として弁護士に出席してもらうことも可能です。
遺産分割調停に欠席を続けても、自分の言い分がまったく反映されないため不利な結論となってしまう可能性が多く、そうしたことは避けるべきでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。