相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
審判で「共有」することとされた不動産の共有状態を解消したい
被相続人の遺産の大半を不動産が占めていて他にはみるべき遺産がほぼなく、相続人が兄弟のAとBというように複数いるときは、法定相続分に応じて遺産分割を行うとすると、AとBはそれぞれ不動産の2分の1ずつの持分を持ち合うことになります。つまり、1つの不動産を2人で共有することになるわけです。
ですが、共有となると他の共有者の意向を無視して不動産を売却したり有効利用することができなくなるため、トラブルとなってしまうことが少なくありません。
何とか話合いで利用方法や費用負担などについて折り合いがつけばいいのですが、話合いができないとか折り合いがつかないといったときは、いっそ共有関係を解消できないか、ということになります。
前月の遺産分割方法の優先順位についてのコラム(2023年11月号)では、裁判官の考え方としては、不動産の分割方法としては4つの種類があり、現物分割は最後の手段と説明しています。しかしそれでも、他の3つの方法のいずれもが取り得ないとして、「●●の不動産を、申立人(A)及び相手方(B)の、持分各2分の1の割合による共有取得とする。」というように現物分割による審判がなされることももちろんあります。
では、話合いや調停ではまとまらず、審判で「共有すること」と定められた遺産である不動産について、共有状態を解消するためにはどうしたらよいでしょうか。
まず、あらためて話合い試みることが考えられます。
当事者の一方または双方が不動産の取得を希望している場合、他の相続人にその見返りに十分な代償金を支払えるなら、裁判所の調停や審判で代償分割という分割方法となった可能性が高いです。審判で「共有すること」とされたということはそうした状況ではなかったということが想定されますが、審判が出たことをふまえてあらためて、たとえば代償金を支払可能な額に減額してもらうとか、一時払いでなく分割払いで支払うなどといった条件を提示することで合意が成立するかもしれません。
また、不動産を共同で第三者に売却して代金を折半するのもよいのですが、これも両者の意見が一致することが必要で、それができるくらいなら調停でまとまっていたでしょう。
共同での売却でなくとも、自分(A)の持分2分の1だけなら他の共有者(B)の同意を得ることなく第三者(C)に売却することができますので、これによって共有状態から抜けることも考えられます。この場合は、不動産は、Aから持分を買い取ったCと残ったBとが共有することになります。
しかしこの方法にも難点があります。自分が不動産を保有することをあきらめなければならないうえに、AとBが共同で不動産全部を売れば5000万円の値がつく場合であっても、Aが単独でその持分2分の1だけを売った場合に5000万円の半額の2500万円となることはまずなく、それよりもかなり低い金額となってしまうことが多いのです。
買い手にしてみれば、持分だけを買い取っても不動産全部を自由に処分したり利用したりすることができるわけではなく、そのためには他の共有者(B)との調整が必要になるため、どうしても買取価格が低くなってしまうわけです。
相手方の同意は得られず、持分だけの売却もしたくないという場合には、共有物分割請求の裁判を起こすという手段があります。
民法は、「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。」と定めており(256条1項)、共有者は原則としていつでも分割の請求ができます。そして、分割の方法について協議が調わないときは裁判所に分割を請求することができます(258条1項)。なお、共有物分割訴訟の裁判所は、遺産分割とは違い、家庭裁判所ではなく地方裁判所となります。
共有物分割訴訟における裁判所の命じる分割の方法は、遺産分割の場合と同様、①現物分割、②代償分割、③換価分割の3つがありますが、そもそも共有状態の解消を求めているので④共有分割はありません。つまり、何らかの方法により共有状態の解消が実現されることになります。
相続の話から外れていってしまうのでここではこれ以上は述べませんが、共有物分割の裁判をするにあたってもいろいろと検討すべき点があります。不動産が遺産であってもそうでなくても、共有物分割の裁判をお考えのときは弁護士に相談されることをお勧めします。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。