

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
不公平だけれど、打つ手なし 親の会社からの給付と特別受益
通常の訴訟は、大体、毎月1回のペースで裁判期日が開かれ、当事者双方が、主張を書いた書面と証拠を交互に出し合う形で進みます。
具体的には、第1回期日に、原告が、訴状の内容を主張し、第2回期日に、被告が、原告の訴状に対する反論の書面と証拠を出します。原告は、この被告の反論の書面と証拠に対して、第3回期日に、再反論の書面と証拠を出します。こんなやり取りを、その後も何回か繰り返します。
このような形で訴訟の手続きは進行しますので、どちらかの弁護士が、前回の期日で打ち合わせた書類の提出を怠ると、審理は止まってしまいます。
ところが、最近、この書類の提出を平気ですっぽかす弁護士が、ときどきいます。しかも、2回から3回続けてすっぽかすのです。
しかし、多くの裁判官は、怒ることなく、「次回は提出してください。」と言って、辛抱強く待ってあげます。
こちらとしては、内心では、いい加減にしてほしいと思うのですが、このような事件では、まず負けることはないので、文句を言わずに、裁判官の顔を立てることにしています。
さて、今回は、遺産分割において、どう考えても不公平であるにもかかわらず、打つ手のない特別受益もどきのお話です。
先日、Aさんから、こんな相談を受けました。
Aさんのお父さんは、中小企業(X社)を経営しており、なかなかよい業績を上げていましたが、昨年亡くなってしまいました。
Aさんは、X社とは関係のない会社に勤務していますが、Aさんの弟のBは、お父さんが亡くなる5年ほど前に、自分の勤めていた会社を退職し、X社に就職しました。
当然、Bは、それまでのX社の業績には全く貢献しておらず、また、X社の業務にも精通していませんので、入社後も、大して会社の役に立っていませんでした。
ところが、亡くなったお父さんは、生前、Bを入社早々取締役に昇格させ、月額200万円もの極めて高額の給与を支払い、さらに、会社が借り上げた高級マンションに居住させていました。
Aさんのお母さんは数年前に亡くなっており、また、Aさんの兄弟はBだけなので、AさんがBとお父さんの遺産について分割協議をすることになりました。
協議を開始すると、Aさんのお父さんの預貯金は、ほとんど残っておらず、めぼしい遺産としては、時価1億円ほどの自宅土地及び建物があるだけだということが分かりました。また、X社のほとんどの株式は、Bのものとなっていました。
遺産として残っているめぼしい財産は、時価1億円ほどの自宅土地及び建物だけですので、AさんとBは、これを分けるしかないのですが、Bは、この自宅土地及び建物を売却し、その代金について法定相続分の2分の1を取得すると主張して譲りません。
Bは、この5年間、大して功績もないのに、毎年2000万円以上の給与を受け取り、会社の借り上げた高級マンションに住み、さらに、いつの間にか、X社の株式全部を手に入れています。
Aさんは、どう考えても、残った自宅土地及び建物の売却代金の半分をBが貰うのは不公平であり、納得できません。
Aさんから遺産分割事件の相談を受けましたが、最初から、Aさんには、Aさんの希望通りには進まないことをお話ししました。
Bが受け取っていたのは、あくまでX社からの給料であって、それが、不相応に高額であっても、お父様から高額のお金を受け取ったわけではありませんので、裁判所が、特別受益と認めるとは思えません。
また、Bが、いつ、どのようにしてX社の株式を取得したかは、あくまでAさん側が立証すべきことであって、Bに説明する義務はありません。従って、Bが説明を拒否すれば、打つ手がありません。
Aさんの依頼を受け、Bと交渉しましたが、Bは、それまでの主張を全く変えず、また、いつ、どのようにしてX社の株式を取得したかについて質問しても、案の定、一切答えません。
そこで、やむを得ず、遺産分割調停を申立て、調停において、調停委員に対して、Aさんの主張を伝えました。
調停ですので、調停委員は、一応、Aさんの主張をBの弁護士に伝えましたが、Bの弁護士からの回答は、「X社からの給料は、被相続人のお金ではないので、遺産分割とは関係ない。また、Bは、X社に入社するかなり前に、お父様から、少しずつX社の株式を買い取っていたが、昔のことなので資料は残っていない。」というものでした。
確かに、辛うじて提出してもらったX社の過去3期の申告書によると、3年前には、既にX社の株式のほとんどがBのものになっていました。
予想していた通りの展開ですが、今後どうするかについてAさんと協議しても、「納得いきません。」と言うばかりです。
このように、被相続人から特定の相続人に対して、被相続人の経営する会社の給料という形でお金が渡されたり、会社の株式を秘密裏に譲渡されたりすると、他の相続人としては、打つ手がありません。
もちろん、給料には、所得税や地方税がかかり、また、株式の譲渡には、贈与であれば、一定の税法上の手続きを取らない限り贈与税がかかります。
従って、高額の給料の支払いや株式の贈与を受けた相続人は、丸儲けというわけではありません。
しかし、他の相続人からすると、不公平感を拭えません。
対策としては、せいぜい被相続人が兄弟などに株式を譲渡したという話を耳にしたら、被相続人に確認して、何か資料をもらっておくくらいしかないでしょう。
実際、株式贈与契約書のコピーを被相続人からもらっておいたという依頼者もおり、その依頼者の事件では、株式の贈与の立証ができました。
長くなりましたので、今回は、この辺で終わりとします。
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