

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
海外居住者で印鑑登録証明書がない人は、遺産分割協議書が作れない?遺産分割協議書の作り方
記録的な速さで梅雨が終わり、猛烈な暑さの日が続いていましたが、最近は雨が多く、猛暑も一休みと言う感じです。
暑くなると、さすがに屋外でマスクをするのは苦しいので、屋外ではマスクをしないことにしています。もちろん、ジョギング中も、いままでしていたスポーツ用のマスクをしないで走っています。マスクをしないで走ると、何と息が楽なことか。
夜に走ることが多く、しかも、なるべく人のいない道を選んでいるので、マスクをしていなくても人目は気になりませんが、昼間、人通りのある道で、息を切らせて走るのは、まだちょっと気が引けます。
さて、今日は、遺産分割協議書の作り方のお話です。
当事務所では、遺産分割協議の代理だけでなく、遺産分割協議書の作成の依頼を受けることがよくあります。
「遺産分割協議の代理と遺産分割協議書の作成とは、弁護士の仕事として何が違うのか。」と思われる方もいらっしゃると思いますが、遺産分割協議の代理は、複数の相続人の中の一部の人の代理人として、他の相続人と遺産の分け方を協議する仕事であるのに対して、遺産分割協議書の作成は、複数の相続人間で遺産分割協議が成立した後、つまり遺産の分け方が決まった後、その協議の内容を書類にする仕事です。
遺産分割協議の代理では、遺産の分け方を協議しますので、当然、自分の依頼者と相手方との間に利害の対立があり、多かれ少なかれ紛争性がありますので、手間も時間もかかります。
これに対して、遺産分割協議書の作成では、既に遺産の分け方は決まっており、紛争性はありません。相続人間の話し合いで決められた遺産の分け方を単に書面にするだけですので、手間も時間もかかりません。
このように、遺産分割協議の代理と遺産分割協議書の作成とでは、弁護士の手間や費やす時間が異なりますので、当然、弁護士費用は、遺産分割協議の代理の方が高額となります。
さて、遺産分割協議書の作成の話に戻ります。
弁護士によって違うと思いますが、私が作る遺産分割協議書は、大きく分けて、5つの部分からできています。
1 被相続人を特定し、協議が成立したことを記載する部分
2 相続人を特定する部分
3 遺産を特定する部分
4 遺産の分け方を記載する部分
5 相続人の署名及び押印の部分
各部分について、少し説明しましょう。
1 被相続人を特定し、協議が成立したことを記載する部分
この部分では、被相続人の氏名、生年月日、死亡日、本籍地などを記載し、この被相続人の遺産分割について、相続人の協議が成立したことを明記します。
2 相続人を特定する部分
この部分では、被相続人の相続人全員の氏名を明記し、記載された相続人以外には相続人がいないことを、相続人全員で確認します。
当然のことですが、被相続人の相続人が誰であるかは、被相続人の出生から死亡までの戸籍と相続人の戸籍を取り寄せて確認しなければなりません。
この戸籍の確認作業の中で、希ではありますが、被相続人の家族が誰も知らない相続人(たとえば被相続人と被相続人が若い頃に離婚した配偶者との間の子供)が見つかる場合があります。
遺産分割協議書は、相続人全員の署名及び押印がないと成立しませんので、こうした隠れ相続人を見逃してしまうと、折角協議書を作っても、遺産分割協議は成立していないことになります。
3 遺産を特定する部分
この部分では、判明している遺産を全て明記し、記載された遺産が確かに相続人の遺産であることを、相続人全員で確認します。
ここでも当然のことですが、判明している遺産について、その裏付けとなる資料(不動産であれば登記情報、預貯金であれば通帳類など)を取り寄せ、遺産の内容と本当に被相続人の遺産かどうかを確認します。その上で、通常は分かり易いように、遺産分割協議書の末尾に「遺産目録」という別紙をつけて、遺産を整理して列挙します。
もっとも、自宅にある価値の低い動産類(家財道具など)は、特に拘っている相続人がいなければ、記載しないか、家財道具一式と記載する程度で良いでしょう。
この遺産目録に記載されていない財産は、この協議書の対象となっていませんので、後で、「これもあったのですが、、、」と追加の遺産が出てきたときは、新たにその遺産を対象とした遺産分割協議書を作る必要があります。
4 遺産の分け方を記載する部分
この部分は、誰がどの遺産を取得するかを明確に記載します。たとえば、「相続人Aは、遺産目録記載1の土地を取得する。」というような表現になります。
遺産分割協議書の作成は、あくまで複数の相続人間で協議して決めた分割案を書面化するだけですから、私は、分け方に疑問点があっても、「この分け方は、不公平ではないですか?」とか「こういう分け方をすると、あとで揉めますよ。」などという余計なことは言わないことにしています。
5 相続人の署名及び捺印の部分
この部分では、各相続人が、自分の住所と名前を自署(自分の手で書くこと)して、押印します。
全ての相続人が、同じ1通の遺産分割協議書に署名及び押印する必要はありません。たとえば相続人が3人いる場合は、同じ遺産分割協議書を3通用意して、それぞれが別々の1通の遺産分割協議書に署名及び押印すれば、遺産分割協議は成立します。
この場合、署名は、理論的には押印してあれば自署でなくても良いはずですが、実務的には自署してもらうのが普通です。
また、押印する印鑑も、理論的には何でも良いはずですが、実際には、印鑑登録してある印鑑を押印してもらい、印鑑登録証明書を少なくとも1通提出してもらいます。
これは何故かというと、次のような理由からです。
まず、何より、自署してもらい印鑑登録された印鑑を押印してもらえば、後で、「そんな協議書は知らない。」とか「押印していない。」などと言うことはできなくなりますので、紛争の蒸し返しを防ぐことができます。
また、遺産分割協議書は、作って終わりではなく、遺産分割協議書に基づいて、不動産の所有権移転登記をしたり、預金の解約をしたりしなければなりません。その際、法務局や金融機関は、印鑑登録してある印鑑を押印してあることを確認します。また、金融機関の中には、遺産分割協議書の署名が自署でないと受け付けてくれないところがあります。
ここで困るのが、海外に移住したり、赴任していたりする人の場合です。
印鑑登録は、住民登録のある市役所や区役所などでしかできませんので、海外に移住したり、赴任していたりして、日本に住民登録がない人については、印鑑登録ができません。
では、このような人がいるときは、遺産分割協議書の作成ができないかというと、そうではありません。
このような人は、自分が住んでいる場所にある日本の在外公館に行き、領事の面前で遺産分割協議書に署名し、領事から、確かに本人が署名しましたという署名証明をもらうことにより、印鑑登録証明書に代えることができます。
このほかに、住んでいる場所が日本の在外公館から離れている場合など、領事が作成した署名証明を取得することが困難なときは、外国の公証人が作成した署名証明を印鑑登録証明書に代えることができます。
ちょっと長くなりましたが、もし遺産分割協議書を作ることがあれば、参考にしてください。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。