相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相手方が遠方にいても遺産分割調停はできる~電話会議を知っていますか。
一年の中で一番寒い時期が過ぎ、やっと寒さが緩む日が多くなってきています。それどころか、4月並の気温という日もあり、出勤時にその日の気温の確認が欠かせなくなっています。
さて、今日は、遺産分割調停で使われる電話会議システムのお話です。
ご存じの通り、遺産分割では、相続人間で話がまとまらないときや、話ができないときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。
遺産分割調停は、原則として相手方となる人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをしなければなりません。ただし、申立人と相手方が合意した場合には、その合意によって決めた家庭裁判所に申立てをすることもできます。
たとえば、 札幌市に住む父親Aが亡くなり、相続人が父親と同居していた母親Bと横浜市に住む息子Cという場合、Cが遺産分割調停の申立てをするときは、相手方であるBの住所地を管轄する札幌家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
ただし、Bが、横浜家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをすることに同意してくれれば、Cは、横浜家庭裁判所に申立てをすることができますが、Bが、自分の住所地から遠く離れた場所にある横浜家庭裁判所で遺産分割調停をすることに同意することは、通常はありません。
では、CがBの住所地を管轄する札幌家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てた場合、必ず札幌に行かなければならないのでしょうか。
原則として、遺産分割調停では、当事者の出頭が要求されますので、Cは、調停の度に札幌家庭裁判所に行かなければなりません。しかし、これでは、Cの負担が大き過ぎるため、Cが遺産分割調停を躊躇することになり、調停を利用した公平な遺産の分割が実現できなくなります。
そこで、家庭裁判所の手続きを定める家事事件手続法は、「家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる。」という規定をおいています。この規定は、調停手続きにも適用されます。
この規定における「家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法」として、現在は、電話会議システムが利用されています。
具体的には、CがBの住所地を管轄する札幌家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てた場合、札幌家庭裁判所で調停手続きが行われますので、札幌市に住んでいるBは、調停期日に札幌家庭裁判所に出頭することになります。
しかし、Cは、横浜市に居る状態で、電話会議システムを使って札幌家庭裁判所の調停室にいる調停委員と話をします。電話会議システムというのは、スマートフォンのスピーカー機能と同じ機能を持っている固定電話機を真ん中において、調停委員とCが会話をするというものです。
Cと調停委員が会話をするだけなら、スピーカー機能を使わなくても、普通の電話でいいのではないかと思われる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、調停委員は2人いますし、場合によっては裁判官も話に加わることもありますので、3人以上の人が同時に話すために、スピーカー機能と同じ機能を持っている固定電話機を使う必要があるのです。
また、先ほど、「Cは横浜市に居る状態で、電話会議システムを使って札幌家庭裁判所の調停室にいる調停委員と話をします。」と書きましたが、現在の運用では、Cが自宅にいて電話会議をするということは認められておらず、Cの住所地の最寄りの家庭裁判所に出頭して、その裁判所内にある電話会議システムを使って電話会議を行うことにしているようです。
その理由としては、まずCが自宅にいる場合、裁判所側からすると、本当にCが話しているかどうか確認することができないことがあります。
また、調停手続きは、本来非公開ですので、もしCが当事者ではない人が居る場所で裁判所と電話会議をした場合、話している内容が無関係な人に知れてしまうおそれがあるということも、上記の運用の理由になっています。
話を元に戻しますが、Cが申立人ですので、最初の調停期日では、まずCから話を聞きます。Cが電話会議システムを使って札幌家庭裁判所の調停室にいる調停委員と話をした後、一旦電話を切って、Bが調停室に入り、調停委員と直接話をします。
さらに、Bの話を聞き終わった調停委員は、再びCに電話をかけ、電話会議システムを使ってCと話し、Bの意見をCに伝え、これに対するCの意見を聞きます。
これを繰り返すことによって、調停が進められることになります。
このように、現在では、調停手続きにおいて電話会議システムを使うことができるので、遠方の相続人を相手方として、その相続人の住所地の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てても、調停期日に遠方の家庭裁判所に出頭しなくてもよくなりました。
ただし、私の同僚弁護士は、大阪家庭裁判所から、「遠方でも初回の調停期日は出頭してください。」と言われましたので、大阪家庭裁判所では、初回の調停期日は、出頭させる取り扱いをしているようです。
私は、この電話会議システムのおかげで、札幌家庭裁判所、山形家庭裁判所米沢支部、鹿児島家庭裁判所加治木支部などの、遠方の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、これらの裁判所に一度も行かずに調停を行いました。
先ほど、「Bが自宅にて電話会議をすることはみとめられておらず」と書きましたが、弁護士は、自分の法律事務所の電話を使って電話会議をすることができますので、最寄りの家庭裁判所に出頭する必要はありません。
また、依頼者に私の事務所に来てもらい、依頼者と私の2人で、電話会議システムを使って調停に参加したこともあります。この場合、家庭裁判所にお願いして、私の事務所の電話ではなく、私のiPhoneに電話をしてもらい、スピーカー機能を使って、依頼者と私が同時に調停委員の話しを聞いたり、調停委員に話をしたりしました。
今はまだ電話という音声だけを使う方法ですが、5Gの通信システムが開発され、大量の情報を高速で安定的に通信できるようになれば、近い将来、法廷という場所は必要なくなり、各裁判所と法律事務所を通信システムで結び、リアルタイムの動画で裁判を進める日が来るのではないかと思っています。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。