相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相続法の改正間近!?改正内容を押さえておこう その4 遺留分制度の見直し
最後は、遺留分制度の見直しです。
今回は、相続法の改正要綱案の第4の遺留分制度に関する見直しです。
遺留分制度に関しては、次の3点の見直しがあげられていますが、ここでは、とくに重要と思われる1と2について説明します。
1.遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し
2.遺留分の算定方法の見直し
3.遺留分侵害額の算定における債務の見直し
1.遺留分減殺請求権の効力と法的性質に関する見直しについて
これまでは、遺留分減殺請求をすると、遺贈や贈与は遺留分を侵害する限度で当然にその効力が失われると解されてきました。
その結果、遺留分減殺請求が行われると、遺贈や贈与の目的財産が特定の物だったときは、遺贈や贈与の対象とされた財産は、受遺者または受贈者と遺留分権利者の共有ということになります。
たとえば遺贈の目的財産が不動産のときは、遺留分減殺請求の結果、贈与を受けた者と遺留分の請求を行った他の相続人との共有状態となり、その不動産の処分や利用に大きな制約を受けることとなります。
あるいは、会社を経営していた被相続人が、その会社の株式や店舗などの会社財産を後継者と目した相続人に遺贈しても、遺留分減殺請求を受けると、株式や会社財産が他の相続人と共有状態となり、せっかく承継した事業の経営に支障が生じたり財産の処分が困難になるなどの弊害が生じることがありました。
そこで、改正要綱案では、遺留分減殺請求の効果を、遺留分を侵害された額に見合うだけの金銭を請求することのできる権利としました。
こうすることにより、財産が共有状態となって新たな紛争を引き起こしたり、あるいは遺言者の意思に反して家業の経営に支障が生じたりすることが避けられます。
しかし、そうなると、金銭の支払請求をされた受遺者または受贈者が、すぐに金銭を準備することができないようなときは、遅延損害金がかさむのを防ぐために、自分の財産を売却するなどして金銭を用意しなければならない(金銭を用意できない場合には、自分の財産に強制執行を受けるおそれもある)など、受遺者または受贈者にとって酷な事態となることも予想されます。
そこで改正要綱案は、裁判所は、受遺者または受贈者の請求により、金銭債務の全部または一部の支払につき、相当の期限を付与することができるものとしています。たとえば、裁判所から、平成31年5月1日まで期限を付与するという判断が示されたときは、5月1日までは遅延損害金が発生することはなく、5月2日以降に遅延損害金が発生することになります。
2.遺留分の算定方法の見直しについて
遺留分算定の基礎となる財産の額について、現行の民法第1030条は、「贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り」、その価額を加えるものとしています。
条文の上では、贈与がだれに対してなされたものかについてとくに限定はありません。しかし、判例上も実務上も、この民法1030条の規定は、相続人以外の第三者に対して贈与がされた場合にのみ適用されるものだと解してきました。
つまり、相続人に対して生前贈与がされた場合には、相続開始前1年間という期間の制約なく、原則としてそのすべてが遺留分算定の基礎となる財産に算入されるものとされてきたのです。
この考え方によると、何十年も前に相続人に対する贈与があったときもその贈与の価額が遺留分算定の基礎となる財産に加えられることになります。
たとえば、相続人はX(法定相続分1/2)、Y(法定相続分1/4)、Z(法定相続分1/4)の3名、相続開始時点で相続財産は0円でしたが、Yに対しては30年前に1億円の生前贈与があり、相続人以外の第三者Aに対して6000万円の遺贈があったとします(民法改正中間試案の補足説明における設例より)
この場合、現行法によると、30年前であっても相続人に対する贈与は遺留分算定の基礎財産に加えますから、遺留分侵害額は次のように計算されます。
その結果、各自の取得額は次のようになります。
X:4000万円
Y:1億円(生前贈与分。減殺はなし)
Z:2000万円
A:0円(6000万円全額が減殺され、XとZへ)
これに対し、もしYに対する1億円の生前贈与を遺留分算定の基礎に算入しないと、遺留分侵害額は次のようになります。
その結果、各自の取得額は次のようになります。
X:1500万円
Y:1億円(生前贈与分、減殺なし)
Z:750万円
A:3750万円(2250万円が減殺され、XとZへ)
このように、被相続人が何十年も前にした相続人に対する贈与によって、第三者である受遺者や受贈者が受ける遺留分減殺の範囲が大きく変わることになります。ところが、相続人ではない受遺者や受贈者は、相続人に対してなされた古い贈与があったことなど知ることができないことが普通ですから、このような結果は、第三者である受遺者または受贈者に予期し得ない損害を与えることになりかねません。
そこで、改正要綱案は、現行の民法1030条に、「相続人に対する贈与は、相続開始前の10年間にされたものに限り、その額を、遺留分を算定するための財産の価額に算入する」という規定を加えることとしました。
これにより、上記のような30年も前になされた相続人に対する贈与は遺留分算定の基礎に加えられないこととなり、第三者である受遺者や受贈者の法的な安定性が守られると考えられているのです。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。