相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相続法の改正間近!?改正内容を押さえておこう その1 配偶者の居住権を保護するための方策
今年は、冬の寒さが厳しく、北陸地方では記録的な大雪が降りましたが、やっと少しずつ寒さも緩んで来たようです。これからは、三寒四温で、少しずつ春に近づいていくことでしょう。
さて、今回は、相続法改正についてお話しします。
法務大臣の諮問機関である法制審議会民法(相続法)部会は、平成30年1月16日第26回会議を開き、民法(相続関係)等の改正に関する要綱案(以下、単に「要綱案」といいます。)を決定して法務大臣に答申しました。
政府としては、今年の通常国会に民法改正法案等を提出する予定です。
まだ、法案自体は明らかではありませんが、要綱案は公開されており、新聞も今年に入って何度か相続法の改正について取り上げています。
ほとんどの新聞記事が、被相続人死亡後の配偶者の居住権の保護を大きく取り上げていますが、そのほかにも重要な改正があります。
国会のホームページを見る限り、現時点では、まだ法案の提出自体が行われていません。
しかし、新聞記事では、今年の通常国会で改正法が成立すれば、来年には施行される見通しであると書かれていました。
そこで、少し気が早いかも知れませんが、これから何回かに分けて、改正法の大まかな内容を見ていきたいと思います(なお、要綱案は、法務省のホームページで見ることができます。)
まず、要綱案の第1の配偶者の居住権を保護するための方策ですが、これは、同居していた夫婦の一方が亡くなった場合に、遺産となった自宅に、残された配偶者が住み続けることができるようにするためのものです。
例えば、夫Aと妻Bが、夫所有の土地建物(以下、「自宅土地建物」といいます。)で同居していたところ、夫Aが亡くなった場合を考えて見ましょう。
夫Aの遺産は、自宅土地建物(評価額3000万円)と預貯金1000万円であり、相続人は、妻B、長男C及び長女Dの3人とします(なお、生前贈与はないものとします。)。
上記のケースは、特に珍しいものではなく、よくあるケースと言って良いと思いますが、現在の民法の取り扱いでは、上記のケースの遺産相続は、Bにとって酷な結果となるおそれがあります。
すなわち、上記のケースでは、Aの遺言書がなければB、C及びDの3人で遺産分割をすることになりますが、Bの法定相続分は2分の1ですから、金額で見ると2000万円分しかありません。
しかし、この金額では、自宅土地建物を単独で相続するには1000万円足りませんので、この1000万円は、お金で清算するしかありません。具体的には、Bが、C及びDに対して、それぞれ500万円を支払わなければなりません。Bにこのお金がない場合は、Bが自宅土地建物を単独で取得することはできません。
この場合、自宅土地建物を売ってお金で分けるしか方法はありませんが、そうなると、Bは、住み慣れた家から出ていかなければならなくなります。
もちろん、Bに1000万円の資金がある場合は、C及びDに対して、それぞれ500万円を支払って自宅土地建物を単独で取得できますが、そうすると、Bの老後資金が不足する恐れがあります。
「実の親子なんだから、CやDは、そこまでBを追い詰めないだろう。」と思われる方も多いと思います。しかし、残念ながら、実の親子でも、いろいろな経緯から不仲となることがあります。また、BがAの後妻で、CやDの母親ではないということもあります。
いずれにせよ、上記のような事態は、必ずしも珍しいことではないのです。
そこで、上記のような事態を避けるために、要綱案では、配偶者の居住権を保護する方策を設けました。
具体的には、上記のケースで、Bが自宅建物に無償で居住する権利(配偶者居住権)を取得できるようにしました。Bの配偶者居住権は、原則としてBが亡くなるまで継続します。
ただし、Bが配偶者居住権を取得できるのは、次のいずれかの場合に限られます。
1.B、C及びDが、Bが配偶者居住権を取得するという内容の遺産分割をした場合
2.Bに配偶者居住権を遺贈する旨のAの遺言書がある場合
3.AとBの間に、Bに配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約がある場合
4.家庭裁判所が、遺産分割審判事件において、Bに配偶者居住権を取得させる旨の審判をした場合
しかし、上記のケースでは、Aの遺言もAとBの間の死因贈与契約もなく、また、C及びDには、Bがお金を払わなければ自宅建物に住み続けることを認める気持ちはないという前提ですから、上記の1.から3.はあてはまりません。
そうなると、4.の家庭裁判所の審判しか考えられませんが、要綱案では、家庭裁判所がBに配偶者居住権を取得させる審判ができるのは、次のいずれかの場合に限られます。
(1)B、C及びDが、Bが配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
(2)Bが家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者(通常はCかD)の受ける不利益の程度を考慮してもなおBの生活を維持するために特に必要があると認めるとき。
上記のケースでは、 (1)の合意が成立することはないので、結局(2)しか残りません。しかし、この(2)が具体的にはどういう場合なのかは、この制度が始まってみないとはっきりしません。
それでも、今までは認められていなかった配偶者居住権という権利が創設され、しかも、遺産である自宅建物の所有権取得者の承諾がなくても、審判によって配偶者が配偶者居住権を取得できる余地を作ったことは、大きな改正と言えます。
要綱案は、このほかにも短期の配偶者居住権を定めています。
これは、遺産分割や遺言で遺産である自宅建物の取得者が決まっても、自宅建物に被相続人と同居していた配偶者は、一定の期間(6ヶ月。起算日はケースによって異なりますが、ここでは取り上げません。)は自宅建物を無償で使用する権利があるというものです。簡単に言えば、配偶者以外の相続人が自宅建物を取得することが決まっても、引っ越しに必要な期間くらいは、住み続けられるということです。
次回は、第2の遺産分割に関する見直しについてお話しします。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。