相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
遺言書に自分が遺言執行者と指定されていたらどうしたらいい?
遺言書で自分が遺言執行者と書かれているけど、やらなきゃいけないの?なにをするの?といった相談を立て続けにいただきました。
令和2年7月から法務局で自筆証書遺言を保管する自筆証書遺言書保管制度がはじまっており、令和5年4月までに遺言書の保管申請があった件数は累計で5万2696件だったようです。月平均で1500件を超えています。
とはいえ、まだ法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言の方が多いはずですし、もちろん公正証書遺言も利用されています。
そうなると遺言書の利用は今後も増えていくことが予想され、自分やまわりの人が遺言執行者に指定されることも珍しいことではなくなっていくと思います。
というわけで、今回は、遺言書で遺言執行者とされていた場合どうしたらいいのかといったことをお話しします。
遺言執行者の指定は、たとえば遺言書に
「第〇条 遺言者は、この遺言の実現のために遺言執行者として次の者を指定する。
住所 東京都××××
氏名 銀座太郎」
などというように記載されて行われます。
遺言者から前もって、「遺言書にお前を遺言執行者と書いておくから俺が死んだあとはしっかり頼むぞ。」などと言われていれば準備しておくことも可能です。しかし被相続人が亡くなってはじめて遺言書の存在を知った、まして自分が遺言執行者などというものに指定されているなんて思いもよらなかった、というような場合はあわててしまうかもしれません。
まず、遺言執行者とはどういうものかを一言でいえば、遺言の内容を実現する者ということになります。
遺言は遺言者が死亡してはじめて効力を生じるので、遺言者自身が遺言書に書いたことを実行することはできません。そこで、遺言の内容を実現するために遺言執行者を指定しておくのです。
つまり、遺言書で遺言執行者に指定されたということは、遺言者から遺言の内容を実現してほしいとお願いされたということになります。
ただし、指定されたからといって遺言執行者になることが強制されるわけではありません。
そこで相続人は、遺言執行者と指定された者に対して、遺言執行者に就任するかどうかを回答するよう催告をすることができるとされています。相当の期間内に回答がなかったときは、遺言執行者になることを承諾したものとみなされます。
よって、この催告を受けたときはもちろんすぐに回答すべきですが、催告がなくても遺言執行者になりたくない場合は、なるべく早く相続人にその旨を伝えるのがよいでしょう。
遺言執行者に指定された者がその就任を拒否したときや、もともと遺言執行者が指定されていないときでも、相続人や受遺者(遺贈を受けた人)の話合いによって遺言内容を実現できる場合、遺言執行者はいなくとも手続は進められます。つまり、一定の例外を除いて遺言執行者の存在は必須ではありません。
ですが、遺言内容に疑問があったり不満を持つ人がいたりした場合は話合いによる遺言内容の実現は難しくなります。こうした場合に備えて、相続人や受遺者(遺贈を受けた人)、遺言者の債権者など利害関係人は、家庭裁判所に遺言執行者を選任するよう請求することができるとされています。
では、遺言執行者となることを承諾したときは、そのあと具体的になにをしていったらいいのかをみていきましょう。
まず、ただちに相続人に遺言の内容を通知します。このとき合わせて自分が遺言執行者に就職したことも知らせます。
次に、遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければなりません。そのためには、相続人を確定するための戸籍を集めたり(これが意外に大変です)、不動産の全部事項証明書や預貯金の残高証明書を取り寄せるなどして遺言者の相続財産を調査していきます。
こうして財産目録が作成できたら、遺言にしたがってその内容を実現していきます。具体的な内容は遺言書によって様々ですが、一般的によくあるのは次のようなもので、遺言書にしたがって名義変更や遺産の引渡しなどを行っていきます。
・預貯金口座の解約
・不動産の相続登記
・株式や自動車の名義変更
・動産類の引渡し
こうしたこと以外に、遺言書で子どもを認知することや相続人の廃除が含まれている場合は、遺言執行者がその手続を行うことになりますが、一般的ではありませんので説明は省略します。
すべての業務が完了したときは、相続人に対して遅滞なく終了の報告をします。これも書面で行うのが通常です。
さて、遺言執行者の業務が完了したら、あとは報酬はどうなるかです。
遺言執行者の報酬は、遺言の執行に関する費用として相続財産から支払われることになります。
報酬の額は、遺言書で決められていればそれにしたがいます。
報酬の額が決められていない場合、相続人との合意により報酬の額を決めることもできます。こうしたことも実務上はよくあります。
遺言書に報酬額の定めがなく、話合いによる決定も難しいときは、家庭裁判所に申し立てて報酬を決定してもらうことができます。
なお、遺言執行者に就任した場合でも、その事務を第三者に委任することが可能です。遺言執行には法律的な知識が必要となることも多いので、親族が遺言執行者となったときなどは、弁護士や司法書士にその事務を委任することも検討されるとよいでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。