相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
中途半端な遺言は禁物~残ってしまった遺産の分け方~その1
「ゴールデンウィーク中に家内とちょっとした旅行をしてきました。久しぶりの旅行で、ストレス解消できました。」
今日は、最近相談を受けた事件について、お話します。
亡くなった方は70歳の男性X。Xの奥さんは既に亡くなっており、相続人は長男A、次男B、三男C及び四男Dの4人の息子です。
Xの遺産は、土地4筆(土地1番から土地4番と呼びます。)だけです。各土地の価額は、計算しやすいように、次のとおりとします。
土地1番 3000万円 → 長男A
土地2番 1000万円 → 長男A
土地3番 2000万円 → 次男B
土地4番 3000万円 → 三男C
Xは、公正証書遺言をしており、この遺言書には、土地1番と土地2番は長男Aに、土地3番は次男Bに、土地4番は三男Cにそれぞれ相続させると記載されていましたが、四男Dがもらう分は何も記載されていませんでした。
Xは亡くなってしまったので、なぜXがこのような遺言をしたのか、正確なところはわかりません。しかし、私の依頼者である長男Aに聞いたところ、「四男Dは、若いころかなりやんちゃで、家族に大変迷惑をかけたため、おそらく父は、そのことを考えて、四男Dには何も残さないことにしたのではないか。」とのことでした。
Xの遺言で何ももらえなかった四男Dは、他の相続人に対して、遺留分減殺請求をしていくことになりますが、それだけの話であれば、よくあることで、何もここで取り上げる必要はありません。
ところが、この事件では、なぜか三男Cが相続放棄をしたことから、話が面倒になってしまいました。三男Cが相続放棄をすると、三男Cは、相続人ではなかったことになるので、土地4番を三男Cに相続させるという遺言は効力を生じません。つまり、土地4番については、Xの遺言では相続する人が決まっていない状態になります。
では、このような状態になったとき、土地4番はどうなるのでしょうか。
この問題には、いろいろな考え方があるのですが、次のように考えるのが一般的です。
まず、相続人全員の法定相続分に従って、遺言がなかった場合の一応の相続分を計算します。この事案では、総遺産額は9000万円であり、相続人は3人ですから、各相続人の一応の相続分は3000万円となります。
次に、Xの遺言により各相続人が相続した遺産の金額を、上記の一応の相続分から引きます。これによって、各相続人の具体的相続分が決まります。
長男A 3000万円 -(3000万円+1000万円)= -1000万円
次男B 3000万円 - 2000万円 = 1000万円
四男D 3000万円 - 0 = 3000万円
上記のとおり、長男AはXの遺言により、法定相続分よりも1000万円多い遺産を相続しています。このような相続人を超過特別受益者と言います。
超過特別受益者は、遺言で取得者が決められていない遺産があっても、その分割には参加できません。従って、長男Aは、土地4番の分割に参加することはできません。もっとも、長男Aは、次男B及び四男Dの遺留分を侵害しない限り、もらいすぎた分を返す必要はありません
一方、次男Bは、法定相続分よりも1000万円少ない遺産しか取得していませんので、あと1000万円の相続分があります。また、四男Dは、全く何も取得していないので、3000万円の相続分があります。
そこで、土地4番は、次男Bと四男Dが取得することになりますが、土地4番の価額は3000万円であり、次男Bの相続分1000万円及び四男Dの相続分3000万円の合計額4000万円に足りません。
このような場合は、次男B及び四男Dは、相続分の割合に応じて土地4番の価額を分けることになります。具体的には、次男Bが750万円分、四男Dが2250万円分を取得する権利をもつことになります。
しかし、この結果について、相談者である長男Aは、「父が四男Dに何もの残さないつもりだったことは、遺言書の記載から明らかなのに、三男Cが相続放棄したことにより、あんなに家族に迷惑をかけた四男Dが2250万円分もの遺産をもらえるのは、おかしいと思います。」と納得しません。
確かに、長男Aの言うとおり、Xは四男Dに何もの残さないつもりだったと思われますので、四男Dが2250万円分もの遺産をもらえるのは、釈然としないものが残ります。
ただ、厳密に考えると、Xは、三男Cが相続放棄することを想定していなかったはずです。そうすると、三男Cが相続放棄をした場合にXの意思がどうであったかは、わかりません。その場合でも、Xは四男Dに何もの残さないつもりだったと言えるのか、明確ではありません。
上記のとおり、土地4番の価額をについて、計算上、次男Bが750万円分、四男Dが2250万円分を取得する権利がありますが、それを実現するためには、相続人である長男A、次男B、及び四男Dの遺産分割協議が成立することが必要です。
もし、長男Aが納得しないときは、次男Bあるいは四男Dは、家庭裁判所に遺産分割調停を申立て、調停で話し合いをしますが、調停が成立しないときは、裁判所の審判で決めてもらうことになります。
このような事態は、遺言書で特定の財産を相続させると記載された相続人が相続放棄した場合だけでなく、遺言書で特定の財産を相続させると記載された相続人が遺言者より先に死亡した場合、遺言書に記載された遺産に漏れがあった場合などに起こりえます。
こうした事態を防ぐには、遺言書で特定の財産を相続させると記載された相続人が相続放棄した場合や遺言者より先に死亡した場合はどうするか、また、遺言書に記載されていない遺産が見つかった場合にはどうするかなどについて、遺言にきちんと記載しておくことが必要です。
遺言書作成の相談を受けた弁護士としても、こうしたことにも注意して遺言書案を作成するよう心掛けなければならないと思っています。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。