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相続の法律Q&A

相続の法律Q&A

相続の法律
Q&A

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫 鷲尾 誠

相続についての法律制度の中には、民法と相続税法の相続財産を巡る取扱に違いがある等、理解するのは難しいものとなっていますが、基本的な知識を手軽に得ることができるように解りやすく解説しています。

相続の法律についてQ&A形式で解説しています。

相続財産の評価

Q
相続財産である土地の価格の評価

 相続財産の中に土地がある場合、遺産分割の際に、その土地の価格はどのように評価されますか。

A

 遺産分割における相続財産の評価は、実務では遺産分割時の時価とされています。そこで、遺産分割の際に、相続財産である土地の価格をどのように評価するかが問題となりますが、ケースによっては、相続財産である土地の価格の評価を巡って、相続人間で激しい対立が生じることがあります。

 土地の価格の評価方法には、複数の方法があります。まず、土地の公的な評価額として、公示価格、相続税評価額(路線価)、固定資産税評価額などがあり、相続人間で合意すれば、これらの公的な評価額をそのまま土地の評価額とすることができます。

 公示価格は、国土交通省が公示する価格であり、時価に近いものですが、全ての土地の価格を公示するわけではなく、あくまで各地域に複数個所設定される標準地の地価を公示するだけですので、ほとんどの場合、相続財産である土地そのものの評価額ではありません。

 また、相続税評価額(いわゆる路線価)は、市街地にある宅地について相続税や贈与税を賦課するための財産評価の方法であり、国税庁の財産評価基本通達により定められるものですが、あくまで道路に面している標準的な間口、奥行距離を有する直角四辺形1平方メートルあたりにつけられた評価額であり、これも、相続財産である土地そのものの評価額ではありません。また、相続税評価額(いわゆる路線価)は、時価よりもやや低く定められていることが多いと言えます。

 さらに、固定資産税評価額は、地方自治体が固定資産税を算定するために定めるものですが、時価よりも相当安く定められているうえ、原則として3年に1回しか評価替えがないため、時価の変動をタイムリーに反映しません。

 このように、公的な評価額は、相続財産である特定の土地の時価を直接評価したものではありませんので、公的な評価額をそのまま相続財産である土地の評価額とすることについて、相続人間で合意が得られないこともあります。

 このような場合は、各相続人が、土地の評価を不動産業者などに依頼して、自分が納得できる評価額を出すことになりますが、それでも対立が解消しない場合は、裁判所の選任した中立の鑑定人により、土地の評価をしてもらうことになります。この場合、かなり高額の鑑定費用がかかり、この鑑定費用は、原則として鑑定を申請した者が予め裁判所に納めなければなりません(相続人全員が鑑定に合意している場合は、各相続人が分担して予納することになります)。もっとも、この鑑定費用は、調停や審判において、鑑定によって利益を得た状況に応じて、各相続人が分担して負担することになります。

〈税法との関係〉

 上記のとおり、遺産分割では、相続財産である土地の価格は、原則として遺産分割時の時価とされます。

 しかし、相続税の申告では、相続財産である土地の価格は、相続開始時の時価で評価され、また、この時価の評価も、財産評価基本通達という国税庁の定めた取扱基準によって行われます。

 従って、相続税の申告書に記載されている土地の評価額とその土地の遺産分割時の時価とは大きく異なることがありますので、注意が必要です。

Q
借地権負担付きの土地の評価

 相続財産の中に第三者に貸している土地がある場合、その土地はどのように評価されますか。

A

 第三者に土地を貸している場合、その土地の価格をどのように評価するかは、土地を借りている第三者が持っている権利によって異なります。

 第三者が、土地を建物所有目的で借りていて、土地上に建物を所有している場合は、第三者は借地借家法等に定められている借地権という権利を持っています(借地権の負担のある土地を底地と呼びます。)。

 この借地権は、借地借家法等により厚く保護されている非常に強い権利ですので、その価値も、借地の更地価格の4割から9割に当たるとされています。この割合を、借地権割合といい、ある土地の借地権割合が何割かは、国税庁が公表している路線価図に示されています。

 従って、実務では、借地権の負担のある土地が相続財産の場合は、その土地の更地価格から借地権割合を控除して評価するのが一般的です。例えば、借地の更地価格が1億円で、借地権割合が6割なら、底地の価格は4,000万円となります。

 これに対して、土地を資材置き場として一時使用目的で貸している場合や駐車場として貸している場合など建物所有目的で土地を貸しているのではない場合は、借地借家法等の適用はなく、第三者の権利に特別の保護はありません。通常は、契約により一定の予告期間をおけば解約できることになっていますので、借主を比較的簡単に退去させることができます。

 このような場合は、相続財産である土地は、ほぼ更地として評価するのが一般的です。

Q
借地権の評価

 相続財産の中に借地権がある場合、借地権はどのように評価されますか。

A

Q 借地権負担付きの土地の評価で説明しましたように、借地権の価格は、借地の更地価格に借地権割合を乗じて評価するのが一般的です。

 例えば、借地の更地価格が1億円で、借地権割合が6割なら、借地権の価格は6,000万円となります。

Q
建物の評価

 相続財産の中に建物がある場合、建物はどのように評価されますか。

A

 建物の遺産分割時の時価によって評価されます。建物の時価の算定方法には、原価法や収益還元法など、いろいろな方法があります。従って、相続人間に建物の評価額に争いがあり、評価方法を合意できないときは、土地と同様に、最終的には鑑定によって決めることになります。

 しかし、住居用の中古建物などは、建築後経過年数により、市場価格が下がります。また、建物の建っている土地の評価と離れて建物だけを評価しても、ほとんど意味がありません。従って、遺産分割調停においては、地方自治体の定める建物の固定資産税評価額で建物を評価することで相続人間の合意ができることが一般的です。

〈税法との関係〉

 上記のとおり、遺産分割では、相続財産である建物の価格は、原則として遺産分割時の時価とされます。

 しかし、相続税の申告では、相続財産である建物の評価は、土地と同様に、相続開始時の時価で評価され、また、財産評価基本通達という国税庁の定めた取扱基準によって評価されます。この評価基準によると、自用の建物の相続税評価額はその建物の固定資産税評価額と同額となります。

Q
預貯金、株式、動産の評価

 相続財産の中にある預貯金、株式、動産は、どのように評価されますか。

A

 預貯金は、遺産分割時の残高で評価します。

 株式は時価で評価されますが、相場のある株式(上場株式など)は、遺産分割時の市場価格によって評価します。これに対して、同族会社の株式など、相場のない株式の時価の評価方法には、いろいろな方法があります。従って、相場のない株式の評価額に争いがあり、評価方法を合意できないときは、土地と同様に、最終的には鑑定によって決めることになります。

 動産については、美術品や宝石などの特殊なものを除けば、ほとんど価値がないため、その評価が争いになることはほとんどありません。実際には、欲しい人がもらうか捨てるというという取り扱いになることがほとんどです。美術品や宝石などの特殊なものについては、相続人間で評価額や評価方法を合意できないときは、最終的には鑑定によって決めることになります。