

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
遺産分割対象の自宅不動産をリースバック
先日、兄弟で遺産分割の話合いをしているというAさんから、リースバックによる解決の相談がありました。
Aさんとお父さん(お母さんはずっと以前に亡くなっています)は、お父さん名義の自宅で一緒に暮らしていましたが、お父さんは3年前から施設に入所していて最近亡くなりました。
相続人はAさんと弟のBさんの2人です。
お父さんの遺産は自宅が主で、預金などそれ以外の遺産はわずかしかありません。
Aさんとしてはこのまま自宅に住み続けたいのですが、Bさんはそれでもいいが、法定相続分として自宅不動産の価格(Bさんの主張によれば5,000万円程度)の半分を支払ってほしい、それができないなら売却して代金を均等に分けてほしいといいます。
困っていたAさんのところに不動産業者から連絡があり、相談してみようと会ってみました。
すると、業者が言うには5,000万円という評価は高すぎておかしい、リフォームすれば4,000万円程度で売れるかもしれないが、リフォーム代金もかかるし転居費用もかかる。それより当社がリースバックという方式で、2,600万円で買い取り、その後は自宅をそのままAさんに貸すのでAさんはそのまま住み続けられる。Bさんには、実際の販売価格が2,600万円なのだからその半額の1,300万円を支払うと言えばよいと提案を受けました。
Aさんにしてみれば、自宅にそのまま住み続けられるし、弟さんに支払うお金も確保できるいい話のように思えます。ですが、リースバックという耳慣れないことばに不安を感じていました。
この話は鵜呑みにできるでしょうか。
リースバックというのは、物件の売却と同時に、売り主がそのまま住み続けられるよう賃貸借契約を結ぶ不動産取引のことをいいます。
リースバック自体は、うまく利用すれば有用な資金調達方法なのですが、近年、住宅のリースバック契約に関するトラブル相談が急増しているといわれています。国民生活センターによれば、2024年度には200件を超えるリースバックに関する相談が寄せられており、70歳以上の契約当事者が約7割を占めるとしています。
では、冒頭のケースではどこが危ないのでしょうか。
弟さんのいう5,000万円という評価が相当かどうかは別としても、リースバックでは売主が物件に住み続けることが前提となるため、売買価格は当然安くなります。その減価分が相当な程度ならよいのですが、悪質な業者は不当に安く売却するよう執拗に勧誘することもあるようです。
仮に不当に安い買取価格とはいえなくても、その価格はAさんが住み続けることを前提として通常の売買代金額に比べれば金額が下がっているのですから、その売買代金額を前提として半額を相続分として支払うといった内容では、Bさんは納得しないでしょう。
また、ご相談のケースは契約前でしたので契約の詳細までは明らかになっていませんでしたが、悪質な業者のリースバック取引では、代金額以外にも、「自宅に住み続けたい」というのが売主の目的なのに、いざ契約してみると自宅を出ざるを得ないことになってしまうという例も報告されています。
どういうことかというと、売買と同時に取り交わされる賃貸契約書の内容をよく見ると、賃貸借契約期間が短く、極端な場合には1年以内に設定されていて、しかも契約が定期賃貸借契約という、更新ができない契約となっていたりします。
また、賃料の額が相場に比べて高額に設定されている例もあります。そうでなくとも、生活費などの工面のために収支のバランスが崩れて賃料負担に耐えきれなくなり、支払いが滞って退去を求められるということもあります。
冒頭のケースは、実際にあったご相談内容をアレンジしたもので、リースバック業者と実際に契約するまでには至りませんでしたが、当方の業者さんの査定では自宅の評価額は4,600万円といったところでした。
仮にこの話に乗り、Bさんも承諾してくれたとしたら、Aさんは当面は自宅に住み続けられますが、リースバックとはいえ買取価格が2,600万円では安すぎるように思えますし(実際にはそこから諸費用が差し引かれます)、賃貸借契約の内容によってはAさんの「自宅に住み続けたい」というニーズも達成できたかどうかはわからないところでした。
高齢化の進行により、相続人自身が高齢となっているケースが増加しており、そうした高齢者を狙った悪質な業者もいるようなので、「自宅に住み続けられる」といったメリットだけに気を奪われて安易に取引に応じたりすると後悔することとなりかねませんので注意が必要です。
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