相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
その銀行預金はだれのもの?~名義預金の問題
遺産分割の協議を行うにあたっては、まず、被相続人にはどのような財産があるか、つまり遺産の範囲に含まれる財産はどれとどれなのかを明確にしておく必要があります。
遺産ではない財産を相続で分けることはできません。他方で、本来は遺産として分割の対象とすべきだった財産が漏れていたりすると、せっかく一旦は遺産分割の協議が成立したのに、その財産についてもう一度遺産分割の協議をしなければなりません。場合によっては、そのような重要な遺産が存在していたということがわかっていればあんな遺産分割には応じなかったなどとして、一旦は成立した遺産分割協議をやり直すという問題にもなりかねません。
ですから、まずは遺産に何が含まれるかを明らかにしなければならないのです。
通常は、被相続人の名義となっている財産は被相続人のもので遺産分割の対象になると考えられます。
しかし、税金対策などの理由で預貯金や株式など、財産の名義を被相続人本人ではなく相続人のうちの一人などの名義としていることもあります。そのため、相続人名義の預貯金や株式が実際には被相続人の遺産だと主張されることがあります。
また、これとは逆に、名義は被相続人のものとなっている財産であっても、相続人の一人からその財産は実際は自分のもので被相続人の遺産ではないと主張されることもあります。
預貯金などは比較的簡単に他人の名義としておくことができるため、ときにこうした問題があらわれるのです。
ここでは、そうした預貯金、いわゆる「名義預金」についてお話しします。
遺産分割の場において、相続人から名義預金の主張が出てきた場合、その預金が実際にも名義人のもので、いわゆる名義預金ではないのか、あるいは名義預金であって、預金の名義人とその預金の実際の権利者は異なるのかを確定しないと、遺産の範囲が明らかにならず、分割協議が滞ってしまいます。
名義預金がだれに帰属するかについての争いが相続人同士での話合いや調停によっても解決ができないときは、どうしたらよいのでしょうか。
こうした問題は家庭裁判所の遺産分割調停や審判で判断してもらうことはできませんので、別途、遺産確認のための訴訟を提起しなければなりません。この遺産確認の訴訟は、相続人全員を相手方として起こすことになります。
それでは、訴訟において預金の帰属はどのように判断されるのでしょうか。
一口に預貯金の帰属の問題といっても、預金の種類や争いの当事者によって判断の仕方が異なることもありますが、相続人の間で預金が遺産に含まれるかどうか(遺産確認)を争うという場面では、次のような事情などを考慮して総合的に判断される傾向があります。
・口座内の預金の原資はだれのものか
・口座を開設したのはだれか
・通帳や届出印を保有して管理していたのはだれか
・被相続人と預金の名義人あるいは預金の管理者との関係
・その口座の名義が名義人となった経緯
・その口座から出金されていた費用などの内容
とくに預金の原資はだれのものかというのが重要なポイントとなりますが、この点は「その預金は相続人Aの名義にはなっているが、Aの収入はこれこれ程度だったはずで、過去にはサラ金にも手を出していたというのも聞いたことがあるほどだから、Aがそのような額を自分で用意できたとは考えられない。だからA名義の預金は実際には被相続人のお金で被相続人の遺産だ。」などといった微妙な内容となったり証明が難しかったりといったことも少なくありません。
そういった意味でも悩ましい問題の一つといえます。
ともかく遺産確認訴訟などによって、問題とされている名義預金が遺産である、または遺産ではないということが確定できたとなったら、あらためてそのことを前提として遺産分割を行うことになります。
なお、かりに相続人A名義の預金がいわゆる名義預金ではなくA自身の財産だという結論になったとしても、必ずしもそれで遺産分割の問題が終わりということではありません。
その預金は、被相続人から預金の名義人となっているAに贈与されたものだということもあり得るからです。もし贈与ということになれば、相続人Aの特別受益があらためて問題となることになります。
名義預金の問題は、相続税申告にあたって税務署もとくに目を光らせているといわれます。そうした点からもしっかりと検討することが必要です。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。