

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
中途半端な遺言は禁物~残ってしまった遺産の分け方~その2
こんにちは。弁護士の大谷郁夫です。
ここ数日は、雨が降ったりやんだりの天気が続いています。空梅雨では水不足が心配ですので、やっと梅雨らしい天気になって、ほっとしています。
さて、今回は、前々回(2017年5月 中途半端な遺言は禁物~残ってしまった遺産の分け方~その1)のコラムの続編です。
少し事案をおさらいしましょう。
亡くなった方は70歳の男性X。Xの奥さんは既に亡くなっており、相続人は長男A、次男B、三男C及び四男Dの4人の息子です。
Xの遺産は、土地4筆(土地1番から土地4番と呼びます。)だけです。各土地の価額は、計算しやすいように、次のとおりとします。
土地1番 3000万円 → 長男A
土地2番 1000万円 → 長男A
土地3番 2000万円 → 次男B
土地4番 3000万円 → 三男C
Xは、公正証書遺言をしており、この遺言書には、土地1番と土地2番は長男Aに、土地3番は次男Bに、土地4番は三男Cにそれぞれ相続させると記載されていましたが、四男Dがもらう分は何も記載されていませんでした。
この事件で、三男Cが相続放棄をしたため、土地4番については、Xの遺言では相続する人が決まらない状態になってしまいました。
この場合、土地4番を誰が相続するかについて、前々回のコラムでは次のように説明しました。
長男AはXの遺言により、法定相続分(9000万円×1/3=3000万円)よりも1000万円多い遺産を相続しています。このような相続人を超過特別受益者と言いますが、超過特別受益者は、遺言で取得者が決められていない遺産があっても、その分割には参加できません。従って、長男Aは、土地4番の分割に参加することはできません。
一方、次男Bは、法定相続分(同じく3000万円)よりも1000万円少ない遺産しか取得していませんので、あと1000万円の相続分があります。
また、四男Dは、全く何も取得していないので、3000万円の相続分があります。
そこで、土地4番は、次男Bと四男Dが取得することになりますが、土地4番の価額は3000万円であり、次男Bの相続分1000万円及び四男Dの相続分3000万円の合計額4000万円に足りません。
このような場合は、次男B及び四男Dは、相続分の割合に応じて土地4番の価額を分けることになります。具体的には、次男Bが750万円分、四男Dが2250万円分を取得する権利をもつことになります。
しかし、前々回のコラムでお話ししたように、上記の結果について、相談者である長男Aは、納得しませんでした。
長男Aは、「父が四男Dに何もの残さないつもりだったことは、遺言書の記載から明らかなのに、三男Cが相続放棄したことにより、あんなに家族に迷惑をかけた四男Dが2250万円分もの遺産をもらえるのは、おかしいと思います。」と言い続けました。
私も、この「父が四男Dに何もの残さないつもりだったことは、遺言書の記載から明らかなのに、」という言葉が気になり、すっきりとしませんでした。
そこで、その後も、私の事務所の他の弁護士に相談したり、いろいろな文献を調べてみたりしました。
すると、長男Aの主張を認めるような文献が見つかりました。
その文献の内容を分かり易く説明すると、次のとおりです。
遺言者は、遺言で、各相続人の相続分(各相続人が遺産をいかなる割合で取得できるか)を指定することができます。
たとえば、遺言者Xの法定相続人が長男A、次男B、三男C、四男Dである場合に、各相続人の法定相続分は4分の1ですが、Xは、遺言で、長男Aの相続分を2分の1、次男Bの相続分を4分の1、三男Cの相続分を4分の1と指定することができます(何も書かれていない四男Dの相続分は0となります。)。このように遺言により相続分の指定があると、各相続人の相続分は、法定相続分とは関係なく、指定相続分により決まります。
では、上記のような遺言をしたXが亡くなり、Xの相続が発生した後、三男Cが相続放棄をすると、各相続人の相続分はどうなるのでしょうか。
三男Cが相続放棄をすると、三男Cは最初から相続人ではなかったことになるので、三男Cに対する相続分の指定は無効となりますが、長男A及び次男Bに対する相続分の指定はそのまま有効であると考えられます。また、Xは四男Dには相続分を与えない意思であると考えらます。
つまり、遺言における甲の意思は、長男Aの相続分は2分の1、次男Bの相続分は4分の1、四男Dの相続分は0ということになります。
このXの意思を尊重すると、三男Cに帰属すべきであった4分の1の相続分は、四男Dではなく、長男A及び次男Bにその指定相続分に応じて分けるべきであるということになります。具体的には、三男Cに帰属すべきであった4分の1の相続分を、長男Aと次男Bが2対1の割合で分けることになります。
つまり、この文献は、遺言により相続分の指定があった場合に、相続分の指定を受けた相続人の1人が相続の放棄をしたら、放棄をした相続人がもらうはずだった相続分は、残りの相続人間で、法定相続分ではなく遺言による指定相続分に従って分けるべきであるとしており、他の文献を見ても、同様の意見が多く見られました。
では、この考え方を、最初の相談の事案に応用することができるでしょうか。
問題となるのは、最初の相談事案の遺言では、相続分の指定がなされているわけではなく、単に遺産である土地の分け方が決められているだけなのに対して、文献の事案の遺言では、ストレートに相続分の指定がされていることです。
このため、最初の相談の事案の遺言は、単に遺産の分け方を決めただけで、相続分の指定をしたものではないと解釈することもできます。
しかし、最初の事案の遺言によると、Xの全遺産が四男D以外の相続人に割り当てられ、その結果、長男A、次男B、三男Cは、明らかに法定相続分による計算とは異なる価額の不動産を取得することになるのですから、この遺言におけるXの意思は、遺産の分け方を決めるともに、各相続人の相続分を決めることにあったと考えることも可能です。
このように、Xの遺言について、相続分の指定をしたものと解釈することができれば、長男Aの指定相続分は2分の1であり、次男Bの指定相続分は4分の1であるのに対して、四男Dの指定相続分は0ですから、土地4番は、長男Aと次男Bが2対1の割合で取得する権利を持つことになります。
結果はどうなるかわかりませんが、長男Aは、遺産分割調停において、この文献の考え方を主張することになりました。
今回は、少し難しい話でしたが、相続事件は、我々弁護士から見ても難解で、方針に悩むことが多いのです。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。