相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
「一緒に売るか、当社の持分を買い取るか、二者択一です。」って、本当ですか?共有持分買取業者の跳梁跋扈
仕事柄、不動産業者さんに、土地やマンションの査定をお願いすることがよくあります。
先日も、東京都内の土地の査定をしてもらいましたが、私が予想していたよりも、3割くらい高額でした。
その不動産業者さんは、どちらかというと、低めの査定をする傾向があるので、「予想の3割増!」と意外でした。
また、神奈川県のマンションの査定をしてもらったときは、築20年以上なのに、20年前の売出価格より高い査定が出ていました。駅近の人気物件とは言え、築20年以上のマンションが、値下がりするどころか、値上がりしているということです。
都市部の不動産価格は、バブルなんじゃないかと危惧しています。
さて、今回は、共有持分買取業者のお話です。
先日、こんな相談がありました。
Aさんは、親から相続した50㎡ほどの土地とその上の建物を妹と共有していましたが、妹が、自分の共有持分である3分の2を共有持分買取業者のB社に売ってしまいました。
B社は、Aさんに電話をかけてきて、「一緒に売るか、当社の持分を買い取るか、二者択一です。」と言ったそうです。
Aさんとしては、どうしてよいか分からず、私の所に相談に来たということでした。
昔は、不動産の共有持分を買い取る会社というと、敢えてトラブルに首を突っ込むようなことをする会社だから、まともな会社ではないと思われていました。
しかし、今では、共有持分買取業は、ちゃんとしたビジネスとして認知されているようで、弁護士会のビルがある最寄りの丸ノ内線霞ヶ関駅にも、大きな広告が出ています。
では、B社がAさんに言った、「一緒に売るか、当社の持分を買い取るか、二者択一です。」という言葉は、本当でしょうか。
そもそも、共有状態を解消するかどうかは、各共有者の自由ですから、他の共有者から共有状態を解消したいと言われたからといって、それに従う義務はありません。
従って、Aさんは、B社の「一緒に売るか、当社の持分を買い取るか、」という申出に従う義務はありません。
つまり、Aさんは、B社の申出を拒絶して何もしないという選択肢があります。
また、仮に、AさんがB社との共有状態を解消してもよいと思った場合、①一緒に売る、②Aさんの持分をB社が買い取る、③B社の持分をAさんが買い取るの3択があります。
結局、Aさんには、4つの選択肢があるわけで、「一緒に売るか、当社の持分を買い取るか、二者択一です。」というB社の言葉は、正しくありません。
次に、AさんがB社の申出を拒絶して何もしないという選択をした場合、B社は、どんな手を打ってくるでしょうか。
まず考えられるのは、Aさんがこの土地建物を使用している場合には、使用料を請求してくるでしょう。Aさんが、この請求に応じなければ、訴えを起こしてくるかもしれません。
Aさんが、この土地建物を使用している経緯にもよりますが、原則として、B社の使用料の請求は、認められると思います。
もっともこのケースでは、Aさんは、この土地建物を使用していませんので、使用料を請求することはできません。
この場合、B社としては、最後の手段である共有物分割請求訴訟を提起することになります。
B社としては、ビジネスとして持分を買い取ったわけですし、何もしないと投下資本を回収できませんので、粛々と訴訟を起こしてくるのではないかと思います。
共有物分割請求訴訟になった場合、土地の面積が50㎡ほどしかなく、その上に建物が建っているとなると、土地建物自体分けること(これを「現物分割」といいます。)はできないと思いますので、判決としては、①競売になる、②Aさんの持分をB社が買い取る、③B社の持分をAさんが買い取るの3つの選択肢しかありません。
もっとも、①は、共有物分割請求訴訟を担当した裁判所が競売をするわけではなく、AさんとB社に、競売の申立をする権利を与えるということです。
AさんかB社が、この権利を行使して、裁判所に競売の申立をすると、土地建物は、競売によって売却されます。
また、②あるいは③の判決をするためには、それぞれ買い取る側が、買い取りたいと主張し、買い取りの資金があることを立証することが必要です。
しかも、その際、いくらで買い取るのが適切かを決める必要がありますので、土地建物の評価額についてAさんとB社の意見が一致しなければ、裁判所の選んだ不動産鑑定士に、鑑定評価をしてもらう必要があります。この鑑定評価には、かなりお金が必要となります。大体、一戸建ての土地及び建物で、40~50万円くらいかかると思って良いでしょう。
このように、共有物分割請求訴訟となると、いろいろと面倒で、お金がかかることをAさんに説明したところ、Aさんは、この土地建物を使用しているわけではないので、「B社と一緒に売る。」という結論になりました。
こうしたケースで、最も困るのは、Aさんが、この土地建物に居住しており、しかも、AさんにB社の持分を買い取るお金がないという場合です。
この場合、結局、Aさんとしては、B社と一緒に売るか、B社にAさんの持分を買い取ってもらうかの2択しかありませんが、いずれにしても、Aさんは、今住んでいる建物を出て行かなくてはならなくなります。
高く売れれば良いですが、高く売れなかった場合、Aさんは、家を失い、お金も少ししか受け取れないと言うことになります。
なかなか厳しい現実です。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。