

相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
親族のための「特別の寄与」という制度ができました
引き続き相続法の改正の中から、今回は、新しく認められることとなった「特別の寄与」の制度についてお話しいたします。
被相続人(父)に長男、二男、三男の3人の相続人がいたとします。被相続人が亡くなるまで長年、長男が一生懸命被相続人の療養看護につとめてきましたが、二男や三男は面倒を一切みてきませんでした。
このような場合、単純に法定相続割合で遺産を分けてしまうと不公平が生じます。そこで、被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人に相続分以上の財産を取得させるため、寄与分という制度があります。
このように寄与分は相続人間の公平のための制度なので、寄与分を主張できるのは相続人に限られています。そのため、上の例とは違い、被相続人(父)の療養看護につとめてきたのが長男の嫁だったという場合、その嫁は、寄与分を主張して相続財産の分配を請求することはできません。
嫁の貢献を相続人である長男の寄与分として考慮することによって解決を図ることができる場合もありますが、長男が被相続人より先に死亡してしまっている場合には、このような考え方によっても財産を取得させることができません。
しかし、一切面倒をみてこなかった二男や三男(相続人)が遺産を取得するのに、療養看護をしてきた長男の嫁(相続人以外の者)の貢献が財産的にまったく考慮されないのは不公平だという指摘が従来からなされてきました。
そこで改正法は、相続人でない者の貢献を考慮するため、「特別の寄与」の制度をもうけて、相続人に対し寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)を請求できる制度をもうけました(民法1050条)。
特別寄与料を請求するためには、次のような条件があります。
① 被相続人の親族
特別寄与料を請求できるのは、相続人以外の親族です。相続人には寄与分が認められているため、特別寄与の請求権者(特別寄与者)とはされていません。相続放棄した者、相続欠格者、廃除により相続権を失った者も対象外です。
② 療養看護その他の労務を提供したこと
被相続人に対して、「療養看護その他の労務を提供」したことが必要です。
寄与行為の種類は療養看護などの「労務の提供」とされていて、被相続人に対する財産給付は除かれています。したがって、相続人の寄与分のような財産出資型(不動産購入資金の援助のように被相続人に財産上の利益を与えるものなど)の貢献をした者は、特別寄与者にはあたらないということになります。
③ 無償であること
被相続人に対する労務の提供が「無償で」なされたものでなければなりません。被相続人から対価や報酬を受け取って労務を提供していた場合は対象外です。
ただし、被相続人から何らかの財産給付を受けていた場合であっても、その財産給付が労務の提供の対価とはいえない場合には、無償性は否定されません。
④ 労務の提供によって被相続人の財産が維持または増加していること
この要件は、寄与分の制度でも要求されているものです。財産上の効果のない援助・協力だけにとどまる場合は、特別寄与としては評価され難いことになります。
⑤ 特別の寄与
寄与分を請求する場合にも、被相続人と相続人との身分関係によって通常期待されるような貢献では寄与分を認めるには足りないという意味で「特別の寄与」が必要だとされています。
しかし、特別寄与者は相続人ではないのでこれと同じように考える必要はなく、特別寄与制度での「特別の寄与」とは、一定程度以上の寄与、つまりその者の貢献に報いるのが適当だといえる程度に顕著な貢献があることを意味するとされています。
それでは、特別寄与料を請求したい場合、具体的な手続はどうなるでしょうか。
特別寄与料は、遺産分割手続とは別のものとされていて、相続人に対して、寄与に応じた額の特別寄与料の支払いを請求することになります。
特別寄与料の請求が認められるか、認められるとした場合その額はいくらかなどは、特別寄与者と相続人との協議によって決まります。協議が整わないときや協議ができないときは、家庭裁判所に特別の寄与に関する処分の調停や審判を申し立てることができます。
ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき、または相続開始の時から1年を経過してしまうと、申立てができなくなってしまいます。
このように短い期間制限がもうけられているのは、遺産分割手続を含めた相続をめぐる紛争を早期に解決する必要があるからだと説明されています。特別寄与の請求をしようとする場合には、期間を経過してしまわないよう十分注意が必要です。
調停での協議によっても特別寄与料の額が決まらないなどのときは、裁判所が、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他の一切の事情を考慮して決定します。
たとえば療養看護による寄与を主張する場合には、被相続人の状態(病名・要介護度など)と実際に行った介護の日数・内容を具体的に主張し、要介護認定通知書や診断書などの客観的な資料はもちろん、被相続人とのやり取り(メモなどでも可)などでこれを裏付けていくことが有効でしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。