相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
相続人の中に音信不通の人がいて遺産分割ができない
今回は、相続人のうちに所在が不明で連絡の取りようがない方がいたというケースについてお話しします。
お父様が亡くなり、相続が発生しました。お母様はすでに亡くなっていたので、相続人は、子どものA・B・C3人、相続財産は甲土地と乙土地でした。
私はBから相談を受けたのですが、Cが数年前から音信不通で生きているか死んでいるかも分からない状態で、遺産分割ができずに困っているとのことでした。
民法は、このCのように、「従来の住所または居所を去って容易に帰ってくる見込みのない者」を「不在者」と定め、不在者にかわってその財産の管理・保存を行う役割をもつ不在者財産管理人を選任することができるとしています(民法25条)。
所在不明となった不在者がいる場合に、その財産について何の権利行使もできず財産を放置するしかないとすると、不在者本人にとってだけでなく利害関係者にとっても損失となります。そこで、一時的にせよ不在者の財産を管理する必要があるというわけで、不在者財産管理という制度がもうけられました。
ご相談のケースでも、早期に遺産分割協議を進める必要があったことから、Cについて、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任の申立てをすることとしました。
申立てをすることができるのは、利害関係人(不在者の配偶者、共同相続人にあたる者、債権者など)と検察官です。
BとCは共同相続人ですから、Bは利害関係人として問題なく認められます。
申立書には、不在者の本籍、最後の住所などの不在者を特定する事項、不在となった事情、財産管理人の選任の必要性などのほか、財産管理人の候補者の氏名を記載するのが通常です。
法律は管理人の資格についてとくに定めておらず、申立人があげた候補者がそのまま選任されることが多いようです。このケースでは、親族の1人であるXを候補者として記載し、Xが財産管理人に選任されました。
Cについて財産管理人が選任されましたので、A・B・Xの間で遺産分割協議を進めることとなりました。しかし、財産管理人の権限は、保存行為などに限られており、遺産分割協議や不在者の財産の処分を行うためには、裁判所に権限外許可の申立てをする必要があります。
そこでこの申立てを行い、許可の審判を受けたうえで、A・B・Xの間での協議の結果、Aが甲土地を取得し、BとX(C)が乙土地を共有で取得するという内容で遺産分割協議が成立しました。
遺産分割協議が成立して2年ほど経ったころ、乙土地によい買い手が現れ、BとXは相談のうえ乙土地を売却することに決めました。
そこで、Xは、土地の売却について再び家庭裁判所に権限外許可の申立てを行い、許可を受けたうえでBとともに乙土地を売却しました。Cが受け取るべき売買代金については、当面、Xが銀行に預金して管理を続けることになりました。
財産管理人が権限外許可の対象となった行為をしたときは、その結果などについて裁判所に管理報告書を提出する必要がありますので、Xは、乙土地の売却の結果などを記載した報告書を家庭裁判所に提出しました。
Cについては、お父様から相続した乙土地以外に財産は見当たりませんでした。そのため、財産管理人としてXが管理すべき財産は上記の預金だけとなり、以後、BからもXからも私に連絡はなく、私もこの件については忘れてしまっていました。
ところが乙土地の売却から4年ほど経って、家庭裁判所からXに対し、照会書が届きました。
照会書には、①管理人の任務は終了しているか、②終了していないとする場合には、今後の管理方針(失踪宣告をする予定の有無など)を示すことが求められていました。
①の管理人の任務が終了している場合とは、不在者が現れて自分で財産管理をできるようになった場合、不在者の死亡が明らかになった場合、不在者について失踪宣告を申し立てた場合、管理すべき財産がなくなった場合があります。
Xは、Cの財産(預金)をそのまま保有しており、不在者の所在は相変わらず不明でしたので、財産管理人の任務は終了していませんでした。
そして、不在者の生死はこの時点で約10年間不明であり、失踪宣告の申立ても可能でしたので、Cにつき失踪宣告の申立てをすることになりました。
失踪宣告というのは、不在者について、その生死が7年間明らかでないときなどに(これを普通失踪といいます。これ以外に危難失踪というものもありますが、ここでは説明を省略します)、家庭裁判所が失踪宣告をすることによって、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす制度です。
普通失踪については、不在者の生死が不明になってから7年間が経過した時に死亡したものとみなされます。死亡したとみなされる結果、失踪者については相続が開始され、かりに不在者が結婚していれば婚姻関係が終了するという効果が生じます。
不在者財産管理制度は、不在者の財産を一時的に管理しようとする制度であるのに対し、生死不明の状態が一定期間継続した場合に不在者を死亡したものとして扱って、その者の身分上・財産上の法律関係を清算しようとするのが失踪宣告の制度ということができます。
失踪宣告を申し立てることができるのは、不在者の配偶者、相続人、財産管理人など失踪宣告を求めるのに法律上の利害関係を有する者です。
XがCの財産管理人として失踪宣告の申立てを行い、「不在者Cを失踪者とする」という失踪宣告の審判がなされました。
失踪宣告は、2週間以内に不服申立がなければ確定します。失踪宣告の申立てをした者は、失踪宣告の確定から10日以内に市町村役場に失踪の届出をすることが義務づけられていますので、Xはこの届出を行い、Cについて死亡とみなされる旨の戸籍訂正が完了しました。
そのうえで、Xが預かっていたCの預金は、法定相続人のAとBが2分の1ずつを取得し、これにより不在者財産管理人の任務はすべて終了しました。
Xは、裁判所に任務完了の報告書を提出し、申立てをして不在者Cの不在者財産管理人選任処分を取り消す旨の審判を受け、これにより長期に及んだXの不在者財産管理人の仕事はすべて終了となりました。
最近は所有者不明の空き家問題などでも不在者財産管理人の制度が用いられたりしており、あまりよい状況ではないのでしょうが、今後ますますこの制度は活用されることになるのかもしれません。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。