相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
ついに家事調停もWeb会議に!動き出した家庭裁判所の手続きのオンライン化
東京都の感染者数は、緊急事態宣言の効果なのか、高止まりはしているものの、一時の大阪府の感染者数のように、激増する傾向にはありません。
このまま感染者の増加傾向が収まり、減少に転じることを願うとともに、できるだけ早くワクチン接種を進めてほしいと思っています。
さて、今日は、家庭裁判所の手続きのオンライン化のお話です。
最近の日経新聞に、離婚調停や遺産分割調停などについて、Web会議を導入することを最高裁判所が検討しているという記事がありました。
裁判をWeb会議で行うことは、既に地方裁判所の訴訟事件では導入されており、私も、東京地方裁判所の訴訟事件5件、名古屋地方裁判所の訴訟事件1件を、Web会議で行っています。
これらのWeb会議以外にも、4件の訴訟事件を電話会議で行っていますので、合計10件の訴訟事件について、裁判所に行かずに、Webないし電話で審理を進めています。
これに対して、現在、裁判所に行って審理をしている訴訟事件は6件ありますので、裁判所に行かない訴訟事件の方が、多くなっています。
Web会議ないしは電話での審理は、弁護士にとっても、また、依頼者にとっても、とても便利で、経済的な負担の軽減にもなります。
弁護士にとっては、裁判所への往復の時間が無くなりますので、大幅な時間の節約になります。
具体的には、私の事務所は有楽町にあり、東京地方裁判所までドアツードアで往復30分です。また、さいたま地方裁判所や横浜地方裁判所で審理している事件では、ドアツードアで往復1時間30分ほどの移動時間がかかります。もっと遠い名古屋地方裁判所の事件では、ドアツードアで往復5時間は移動時間がかかります。これらの移動時間が、全く必要なくなります。
依頼者にとっても、名古屋などの遠方の裁判所で審理する事件となれば、弁護士の交通費を負担しなければなりませんが、Web会議ないしは電話で審理であれば、この交通費は必要ありません。
もちろん、依頼者は、弁護士の事務所に行けば、Web会議ないしは電話で審理に参加することもできます。
このような便利で経済的な負担の少ないWeb会議を、地方裁判所の訴訟事件だけでなく、家庭裁判所の調停事件にも導入することを最高裁判所が計画しているというのが、今回の日経新聞の記事です。
電話会議については、既に家庭裁判所の調停事件でも導入されており、私は、現在、熊谷市、山口市、福岡市、沖縄市、新潟市の家庭裁判所で行われている遺産分割調停事件を、すべて電話会議で行っています(電話会議での調停については、2019年3月のコラムに詳しく説明してあります。)。
一方、東京家庭裁判所本庁あるいは東京家庭裁判所立川支部で行われている遺産分割調停4件では、いずれも実際に裁判所に出頭しています。
裁判所が電話会議での調停を認めている理由は、弁護士の事務所が遠方にあることなので、東京都に事務所がある私は、東京家庭裁判所の事件では、さすがに電話会議にしてほしいとは言えません。
遺産分割調停や離婚調停を、原則としてWeb会議や電話会議でできることになれば、そのメリットは、地方裁判所で行う訴訟事件の審理より大きいと思います。
まず、遺産分割調停や離婚調停のような家事事件では、感情的な対立が激しいこともあり、当事者が顔を合わせることは、できるだけ避ける必要があります。
さらに、場合によっては、当事者が裁判所に来ること自体が危険な場合もあります。日経新聞の記事にもありましたが、2019年には、東京家庭裁判所の玄関前で、離婚調停のために裁判所に訪れた妻を、待ち伏せしていた夫が殺害するという事件がありました。
Web会議や電話会議であれば、こうしたリスクを避けることができます。
次に、現在のように感染症のパンデミックが起きているときは、裁判所に人が集まるということ自体を、できるだけ避けなければなりません。
特に、訴訟事件とは違い調停事件では、2020年7月のコラムでお話ししましたように、大勢の人が裁判所に集まり、待合室で長時間待機しますので、感染症の感染拡大を招きかねません。
このようなリスクも、Web会議や電話会議であれば、避けることができます。
こうした点に加えて、訴訟事件のところで説明したような時間や費用の節約のメリットがあることは、言うまでもありません。
もちろん、Web会議の導入に当たっては、検討すべき課題もたくさんあります。
Web会議に参加した人が、本当に本人かどうか、どのように確認するのか、Web会議に必要な機器や通信回線を確保できない経済状況にある人は、どうするのか、裁判所から見えない位置に、当事者以外の者がいて、Web会議でのやりとりを聞いている、あるいは当事者が録画してSNSにアップするなどの事態も予想され、秘密保持をどうするのかなど、考えればきりがありません。
最高裁は、今年度から東京や大阪の家庭裁判所で、Web会議のトライアルをするようですが、もし私の担当している事件でWeb会議が行われたときは、その様子をコラムでご紹介できればと思っています。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。