相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
なかなか調停期日が入らない!家庭裁判所の遺産分割調停事件の現状
約2ヶ月間続いた緊急事態宣言が解除され、自粛要請もなくなったので、「これで、秋になるまでは、新型コロナウイルスの影響も少なくなるかな。」と思っていましたが、東京では、アッという間に感染確認者が100人以上の日が続き、「このまま行くと、また緊急事態宣言が出されるのではないか。」という話がでてきています。一体いつになったら、収束の見通しが立つのでしょうか。
さて、今回は、緊急事態宣言解除後の家庭裁判所の遺産分割調停事件の状況についてお話ししたいと思います。
私は、緊急事態宣言が出された時点で、6件の遺産分割調停事件を担当しており、4月から5月にかけて、それらの事件の調停期日が東京家庭裁判所、同立川支部、横浜家庭裁判所などでおこなわれる予定でした。
しかし、緊急事態宣言が発出されると、各家庭裁判所は、予定されていた調停期日を一斉に取りやめ、緊急事態宣言解除後に、調停期日を改めて指定するということになりました。
もちろん、期日が取りやめになったのは、家庭裁判所の調停事件の期日だけではなく、地方裁判所や高等裁判所の訴訟事件の期日も取りやめになりました。
結局、緊急事態宣言が出ている間は、緊急性を要する事件を除いて、原則として全ての裁判期日及び調停期日は取りやめとなったのです。膨大な数の裁判や調停がストップしたのは間違いありません。
では、取りやめとなった6件の遺産分割調停事件の期日は、緊急事態宣言が解除されて1ヶ月以上が経過した今、一体どうなっているでしょうか。
取りやめとなった調停期日について、新しい調停期日をどのような手順で決めるのかといえば、当事者に弁護士がついている事件については、まず、家庭裁判所から、当事者双方の弁護士の法律事務所に、次回期日の候補日が複数記載された用紙がFAX送信されます。
弁護士は、その複数の候補日の中から、出席可能な日にマークをつけて、家庭裁判所に返信します。双方の弁護士から返信を受けた家庭裁判所は、双方が出席できる日を確認し、その中から、次回の調停期日を決め、双方の弁護士の法律事務所に連絡します(この連絡は、大体電話です。)。
このように、新しい調停期日を決める手順のスタートは、家庭裁判所からFAX送信されてくる次回期日の候補日が記載された用紙です。
緊急事態宣言は、5月25日(月)に解除されましたので、私は、その週のうちには、この用紙が1枚か2枚(つまり、1事件か2事件)くらいFAX送信されてくるのではないかと思っていました。
ところが、その週には、この用紙は1枚もFAX送信されてきませんでした。それどころか、翌週も同様の状態でした。
私は、最初、「どうしたんだ?裁判所は、何をしているのか?」と思いました。
しかし、よく考えてみれば、緊急事態宣言が出たことによって取りやめとなった遺産分割調停の期日の数は、正確には分かりませんが、おそらく東京家庭裁判所だけでも1000件を超えているのではないかと思います。
期日調整のような事務作業を行うのは、裁判官ではなく裁判所書記官ですが、裁判所書記官は、この膨大な件数の調停期日について、先程説明した期日調整作業を1件ずつ行っていたのですから、この用紙がFAX送信されてくるのも、長い順番待ちであったのかもしれません(書記官さんご苦労様です。)。
さて、結局のところ、遺産分割調停期日が取りやめとなった6事件のうち、現時点で次回期日が決まっているのは5件であり、残りの1件はまだ決まっていません。この1件については、期日の候補日が記載された用紙のFAX送信も受けていません。
また、既に次回期日が決まっている5事件についても、次回期日は、7月から8月、中には9月に入っています。
このような状況となったのは、色々な理由があると思います。
第1に、調整作業そのものに、1ヶ月くらいの時間がかかったのではないかと思います。
第2に、先程説明した期日調整作業の内容から分かるとおり、次回期日を決めるためには、家庭裁判所の指定する候補日の中に、双方の当事者及び弁護士が出席できる日がなければなりません。弁護士に依頼した場合は、当事者は調停に出席しないことも可能ですが、当事者が出席する場合には、当事者及び双方の弁護士の全員の都合が合わなければ、調停期日を決めることができません。この場合、再度調整作業が必要になりますが、その調整の際に家庭裁判所から提示される候補日は、当然のことながら、最初の調整作業で提示された候補日より遅い日になります。
そして、第3に、大都市の家庭裁判所の待合室が、かなりの「3密」だという点も影響していると思います。
先程説明しましたように、弁護士に依頼した場合は、当事者は調停に出席しないことも可能ですが、遺産分割調停事件の場合、どちらかというと、当事者と弁護士が一緒に出席することの方が多いでしょう。そうすると、1つの事件の一方の出席者は少なくとも2人(当事者と弁護士)となります。しかし、遺産分割調停事件の場合、当事者は、相続人全員ですから、1つの事件の一方の出席者が、弁護士を含めて3人とか4人ということは稀ではありません。
しかも、1日に行われる調停の数は、10件や20件ではすみません。このため、調停の出席者は、調停が始まる前に、申立人待合室と相手方待合室に分かれてひしめきあいます。待合室が混みあって、座る場所がなく、待合室の外で調停が始まるのを待つこともしばしばあります。調停が始まっても、半分くらいの人は待合室に残るので、「3密」はほとんど解消されません。その上、家庭裁判所の待合室は、開口部が入口だけという部屋もあり、換気も良くありません。
もちろん、緊急事態宣言後は、家庭裁判所も対策は取っており、例えば待合室の数を増やしたり、広い待合室を用意したりしているようです。さらに、家庭裁判所は、「3密」を避けるために、1日に行う調停事件の数をセーブしていると言われています。
これも、調停期日が取りやめとなった事件の次回期日が、かなり先になってしまう原因となっていると思います。
このような状態の中で心配なのは、既に始まっている調停事件の調停期日でさえかなり先になっている中で、新たに申し立てる調停事件については、一体いつ調停期日が入るのだろうかということです。
私は、6月に3件の遺産分割調停事件の申立てをしました。
最初に申立てをした事件は、申立てをしてから既に1ヶ月近くが経過していますが、家庭裁判所からはまだ何の連絡もありません。
今後、再度緊急事態宣言が発出されることがなくても、家庭裁判所の遺産分割調停は、「3密」を避けるために、かなり進行が遅れるだろうと思います。
もし、再度緊急事態宣言が発出されるようなことがあれば、再び裁判や調停は取りやめとなってしまうかもしれません。
そうなれば、また現在進行中の事件がストップし、新しい申立事件は、さらに後回しになる恐れがあります。
いずれにせよ、当分の間、遺産分割調停の進行が遅れることを想定しなければなりません。
このため、今後は、当事者双方が弁護士を依頼し、弁護士を通じた交渉により、相続人間で譲歩し合い、家庭裁判所の調停を利用しないで遺産分割についての紛争を解決していくというスタンスが必要になるでしょう。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。