相続の法律制度(民法と相続税法の相続財産を巡る取扱の違い等)について、弁護士が解説したアドバイスです。
死後事務委任ってどんな契約?
先日、私の大学時代の友人の依頼で死後事務委任契約を結びました。依頼者のために死後事務委任契約書を作成した経験はありますが、自身でその当事者になるのは初めてです。
友人は、まだ死を具体的に意識するほどの年齢ではなく格別の体調不良もないようなのですが、独身でこれから結婚する気もまったくなく、肉親である両親と兄妹はすでに亡くなっているという状況です。
そのため、「立つ鳥跡を濁さずだ」と本人は言っていましたが、自分が死亡した後の諸々の処理についてきちんとしておきたいという気持ちだったようです。
大学の同級生ですので私が先に死ぬ可能性も少なくないですが、そのときはまた考えるということでしたので、お引き受けした次第です。
ところで、死後事務委任契約というものは、民法などの法律にある用語ではなく、なじみのない方も多いのではないかと思いますので、今回は簡単にそのご説明をしたいと思います。
死後事務委任契約というのは、生前に、自己の死後の事務に関する事項を第三者に依頼しておく委任契約です。
たとえば、自分が死んだら、死亡届を役所に出して公共料金の契約を止めてほしい、などの事務処理を依頼しておくわけです。
ところで、民法は、委任契約は委任者または受任者の死亡により終了すると定めています。そうすると、死後事務委任契約を交わしておいたとしても、委任者が死亡してしまったら民法によってその委任契約は終了してしまい意味がないのではないかということが問題となり得ます。
この点に関しては、上記の民法の定めは任意規定(法律の定めはあるものの、それと異なる合意や定めをした場合、そちらが優先される規定のこと)であり、自分が死亡しても委任契約を存続させることは可能と考えられています。
死後に自分の遺志を反映させるための手段としては、遺言があります。
わざわざ死後事務委任契約などというものを締結せず、依頼したい事項を遺言書に書いておけばいいではないかと思われるかもしれません。
たしかに遺言は、本人の死亡後に効力が生じるという点では死後事務委任契約と同じです。しかし遺言で定めることのできる事項は、民法で次のような場合に制限されています。
① 相続人の廃除、特別受益の持ち戻しの免除、遺産分割方法の指定など相続に関する事項
② 遺贈や配偶者居住権の設定など遺産の処分に関する事項
③ 認知など身分行為に関する事項
④ 遺言執行者の指定など遺言の執行に関する事項
⑤ 祭祀主宰者の指定や遺言の撤回などの他の事項
したがって、それ以外の事項を遺言で記載することは自由ですが、そこに法的な拘束力は認められないのが原則ということになります。
しかし現実には、遺言により有効に定めることのできる事項以外にも、自分の死後に「このように処理してほしい」と信頼のできる人に託したいことはいろいろとあります。
とくに、おひとり様だったり、家族はいても疎遠とか家族の世話にはなりたくないなどで、自分の死後の処理のことを誰かにきちんと託しておきたいという場合には、死後事務委任契約は有効な手段となります。
では、死後事務委任というのはどのようにして契約すればよいのでしょうか。
死後事務委任契約は遺言とは異なり、法律で方式が定められているわけではありません。したがって、口頭の約束でも有効に成立はします。しかし、委任された事項を実行しようとするときには委任者は死亡していて意思を確認することができませんし、相続人がいる場合には相続人とトラブルになってもいけませんので、きちんと書面にして内容を明確にしておくべきです。
遺言は自分1人で作成すればよいのですが、死後事務委任契約は契約、つまり当事者同士の約束により成立しますので、死後の事務を任せたいと思う人(受任者)との間で契約書を取り交わす必要があります。
実際には、死後事務委任契約は公正証書にしておくことも多いです。
どのような事項を委任できるかに関しても、とくに制限はなく、自由に定めることができます。
実際に死後事務委任契約で定められることが多いこととしては、次のようなものがあります。
① 葬儀や埋葬の方法など、葬儀に関連する事項
② 死亡届など行政官庁などへの届出に関する事項
③ 病院や介護施設の料金の精算、水道光熱費など公共料金の支払いと解約など契約関係の解消と清算に関する事項
④ ペットの面倒や引き取り手への引渡し、施設入所などペットに関する事項
⑤ 遺品(家財道具等)の処理・処分に関する事項
⑥ インターネットや携帯電話の解約やSNS等のアカウントの削除に関する事項
こうしたことをあらかじめ受任者との間で約束しておけば、死後に親族などに迷惑をかけることも避けられます。
このように死後事務委任は有用な方法ではありますが、委任者が別途、遺言を作成していた場合に死後事務委任契約とその内容が矛盾していた場合はどうなるのか、遺産の処分など民法が遺言によるべきとしている事項を死後事務委任契約に記載していた場合の効力はどうなるのかなど、悩ましい事態となる場合もありますので、契約書を作る際には弁護士など専門家に相談されることをお勧めいたします。
大谷 郁夫Ikuo Otani・鷲尾 誠Makoto Washio弁護士
銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。 仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。
鷲尾 誠
平成4年弁護士登録 第二東京弁護士会所属
昨年から休日の時間がとれたときに自転車に乗っています。行動範囲が広がり、自然や店などいろいろな発見があります。仕事のうえでもますます視野を広げ、皆さまのお役に立つよう心がけたいと思っています。