中古マンションの売出・取引価格の乖離率と売却期間の推移(2010年~2019年)~高水準な価格を維持する中古マンション市場の“水面下”では何が起こっているのか?~ 2020年3月
全国における新築マンション価格は建築コストの増大や開発用地の地価上昇、大手デベロッパーのシェア拡大などを背景に高水準で推移し続けており、中古マンション価格も連れ高の様相を呈しています。特に、居住ニーズの多寡を左右する人口が比較的多い東京都や大阪府といった大都市では実需による購入のみならず高い収益性や賃料収入を見込んだ投資目的での購入も相俟って、価格高騰の度合いは一段と強いものとなっています。ただ、ここ数年は一般的な給与水準のビジネスパーソンをはじめとする購入者は、過熱気味の価格上昇について来られなくなっているようで、一部のエリアや物件によっては反響を得るために最初に設定した売出価格を改定(いわゆる値下げ)するケースが以前より増えており、ある程度反響があったとしても成約までに時間を要するようになったとの声も不動産仲介の現場から聞かれるようになりました。
これまでも東京カンテイのデータを基に当コラムを通じて売主が希望する「売出価格」と買主との間で実際に成約した際の「取引価格」を比較・分析することで中古マンション市場における“水面下の動き”を浮き彫りにしてきましたが、今回は三大都市圏の中心エリアである東京都・大阪府・愛知県を対象にその最新データを掲出し、実際に中古マンション取引の現場でどのような変化が生じているかについて見ていきます。
東京都 価格乖離率は2016年以降緩やかに拡大 売却期間も伸びる傾向に
上のグラフは東京都における中古マンションの売出・取引価格の差(=乖離率)と平均的な売却期間の推移を表したものです。乖離率がゼロに近いほど売出価格と取引価格の差が小さく、反対に乖離が大きいほど売出価格から値引きした価格で成約していることを示しています。
2008年9月のリーマン・ショック以降、中古マンション価格は下落に転じ、その後も2011年に発生した東日本大震災による影響を大きく受けた東京都の中古マンション市場はかなり厳しい状況であったことがデータからも読み取れます。2012年には中古マンションの価格乖離率が-9.12%まで拡大し、売却期間も4ヵ月間を超えていました。2013年になると景況感の改善への期待感とともにマンション購入ニーズも再び高まったことでマーケットは“売り手市場”へとシフトし、中古マンション価格は直近にかけて上昇トレンドで推移してきたわけですが、価格乖離率や売却期間のデータを見ても反響自体が良化していたことがわかります。ただ、堅調な推移を示す中古マンション価格とは対照的に価格乖離率は2015年~2016年を境にやや拡大する傾向にあり、売却期間も直近にかけては0.5ヵ月間ほど伸びるなど、ここにきて“売り手市場”にも変化が生じ始めているようです。
次に、売却期間ごとの価格乖離率を見てみると、前回に示した首都圏と同じく“早期の成約時ほど値下げ幅も小さく、売却が長引けば値下げ幅も大きくなる”といった傾向が認められます。売却期間が1ヵ月以内の場合、価格乖離率の平均は-3.10%に留まっており、値下げせずに成約に至っているケースも32.1%と3割以上のシェアを占めています。一方、売却期間が6ヵ月間を超えてしまうと成約に至るには売出開始時の価格から平均で1割程度の値下げを要しており、小幅な価格改定で済むケースはかなり限られている様子がわかります。
大阪府 2019年には価格乖離率が縮小に転じる 売却期間の長期化も一服
大阪府における中古マンションの価格乖離率も、2015年には直近10年間での最小値となる-5.61%まで縮小しておりました。その後は急激な価格上昇による影響もあって、一旦は拡大する傾向を見せ、2018年には-7%台目前に迫っていましたが、翌2019年には再び縮小する結果となりました。売却期間でも概ね同様の傾向が認められますが、大阪府においては価格高騰によって投資先としての妙味が薄れた東京都からのニーズの受け皿として中古マンションを購入する動きが強まっており、直近にかけて進んでいた“売り手市場”の陰りに歯止めを掛けたものとみられます。
サンプル数の違いによって多少のがたつきはあるものの、大阪府でも売却期間の長期化に伴って価格乖離率が拡大する傾向に変わりはなく、またその数値自体も大差はありません。売却期間が1ヵ月以内の場合、価格乖離率の平均は-3.41%で値下げせずに成約に至っているケースは22.9%、価格乖離率が-5%以内のケースはほぼ半数を占めています。一方、売却期間が6ヵ月間を超えてしまうと、やはり売却開始時の価格から1割前後の値下げを余儀なくされており、2割以上の値下げを要したケースも軒並み10%以上のシェアに達しています。
愛知県 価格乖離率は直近10年間で最小に 売却期間も概ね短縮傾向で推移
愛知県の中古マンション価格は上昇基調で推移しており、2019年の売出価格は2,540万円となりました。一方、価格乖離率は2012年を境に縮小に転じ、2014年以降は-7%台で安定推移し、2019年には直近10年間で最も小さくなりました。売却期間も2013年を境に概ね縮まる傾向を見せていることからも、好業績の自動車産業が地域経済をけん引する愛知県の中古マンション市場は総合的に堅調であると言っても過言ではないと思われます。
売却期間の長期化に伴って価格乖離率が拡大する傾向自体は愛知県も同じですが、価格乖離率は前述の東京都や大阪府に比べてやや大きくなっています。売却期間が1ヵ月以内の場合、価格乖離率の平均は-4.01%となっていますが、値下げせずに成約に至っているケースは31.6%で東京都と大差ありません。一方、売却期間が5ヵ月間になると価格乖離率の平均は-10%を超え始めており、長い期間流通している物件に対しては“売れ残り感”が増すことでかなりシビアな見方がされているようです。そのため、愛知県においては最初の売出価格の設定をより慎重にすることはもとより、その後の反響次第では “売れ残り感”を極力抑えるためにもできるだけ早めに柔軟な価格改定を検討する必要があると言えるでしょう。
(データ提供:東京カンテイ)