三大都市圏の最近の住宅地価動向は?
~首都圏では“ドーナツ化”現象が発生、近畿・中部は首都圏から1年遅れの市況感~
寒さも峠を越え、ようやく春の兆しがあちらこちらから聞こえてくるようになりました。春といえば不動産業界にとっては「公示地価」発表の季節。今年一年の市況を占うのに絶好の機会ですから、今回のコラムは地価動向にスポットを当ててみることにします。最近では新築マンション供給が回復し始めており、人気住宅地での不動産の売れ行きも堅調であるとの報道が随所で行われていますが、その前提となる住宅地価も回復し始めているのでしょうか。東京カンテイのデータベースに登録されている住宅地として取引された事例(標準化補正済み)の価格を使ってその概要を考察します。
首都圏 ミニバブル期の影響から脱して回復基調へと変化
2010年 |
変動率 |
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1~6月平均 |
7~12月平均 |
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東京都 | 136.1 | 135.2 | -0.6% |
神奈川県 | 70.2 | 71.7 | 2.1% |
千葉県 | 37.5 | 36.9 | -1.5% |
埼玉県 | 47.7 | 47.9 | 0.6% |
グラフの通り、住宅地価におけるミニバブル期の影響ははっきりしていて、東京都では2007年のピークに向かって急激に地価が上昇し、その後同じように下落したこと、また周辺3県では確かに僅かな地価上昇が認められるもののバブルというほどの大きな変化はなかったことがわかります。しかも地価は現状では弱含みに推移しながらミニバブル前の水準に戻していて、今後大きな下落は発生しにくい状況です。東京都では2010年の上半期と下半期の変動率が-0.6%ですからほぼ横ばい、神奈川県と埼玉県では上昇に転じています。すでに首都圏の住宅地価はミニバブル期の影響から脱して、安定推移する方向に変化していると言えます。
2010年 |
変動率 |
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1~6月平均 |
7~12月平均 |
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東京23区 | 183.3 | 187.4 | 2.3% |
横浜市 | 85.9 | 84.1 | -2.1% |
川崎市 | 98.7 | 105.4 | 6.8% |
千葉市 | 35.4 | 36.2 | 2.4% |
さいたま市 | 64.5 | 65.9 | 2.1% |
このデータを、地域を少し絞って確認してみると、地価の安定化傾向がより明確になります。東京 23 区では年間平均は僅かに下がっていますが、上半期と下半期を比較すると 2.3 %の上昇です。つまり昨年後半には地価が底を打っていることがわかります。他の政令市を見比べても 2009 年までの下落基調とは明らかに違って地価は横ばいから反転上昇する傾向にあります。今後は大きな地価下落はなさそうですから買いのタイミングとしては適当で、実際に購入に動き始めている人も相当数いることで更に地価動向が安定してくるものと考えられます。また、地価水準の高い東京 23 区よりも周辺エリアの地価動向に勢いがあり、地価の値頃感から実需層が積極的に動く市場に変化しているようです。
近畿圏 兵庫県を除いて大幅下落 地価回復の兆し見えず
2010年 |
変動率 |
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1~6月平均 |
7~12月平均 |
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大阪府 | 42.4 | 40.4 | -4.6% |
兵庫県 | 36.0 | 38.7 | 7.5% |
京都府 | 48.8 | 47.3 | -3.0% |
滋賀県 | 18.8 | 18.4 | -2.4% |
奈良県 | 24.8 | 24.6 | -1.1% |
和歌山県 | 16.8 | 15.6 | -7.1% |
近畿圏は首都圏とは対照的に地価下落に全く歯止めが掛かっていません。特に中心地である大阪府で2008年以降大きく下落している状況です。ここで注目していただきたいのはミニバブルのピークです。首都圏では2007年だったのに対して、近畿圏では地価のピークが翌2008年になっています。つまり近畿圏の地価動向は首都圏から約1年遅れて推移している状況なので、首都圏と同じような動きを示す前提で、地価の底入れは2011年の後半から2012年の初めに掛けてではないかと考えられるわけです。ただし、滋賀県、奈良県、和歌山県はいずれも最新の2010年の地価が直近の最安値であり、2010年の上半期と下半期を比較してみても一様に下落しているので、今のところ地価の底入れが期待できる状況ではないようです。
中部圏 近畿圏同様に下落傾向継続 岐阜県・三重県は低値安定
2010年 |
変動率 |
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1~6月平均 |
7~12月平均 |
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愛知県 | 31.6 | 29.4 | -7.0% |
岐阜県 | 15.7 | 14.5 | -7.5% |
三重県 | 15.4 | 15.2 | -0.9% |
中部圏でも状況は近畿圏と同じです。愛知県では直近の地価のピークは 2008 年と首都圏より 1 年遅く、 2 年連続して下落しています。また 2010 年の上半期と下半期の変動率は- 7.0 %と比較的大きく、地価下落基調が続いています。絶対値としては坪単価 2 万円程度の下落ですから大きな下落ではありませんが、依然弱含んでいる状況に変化はありません。岐阜県と三重県でも下落はしていますが地価水準が低く大きな下落にはなっておらず、坪単価 15 万円前後で低位の安定を保っています。
2010年 |
変動率 |
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1~6月平均 |
7~12月平均 |
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大阪市 | 51.2 | 52.5 | 2.6% |
神戸市 | 39.3 | 42.6 | 8.4% |
京都市 | 56.2 | 54.1 | -3.8% |
名古屋市 | 49.1 | 44.9 | -8.5% |
堺市 | 39.1 | 36.1 | -7.7% |
近畿圏と中部圏の政令市で地価動向を見ても傾向は全く同じです。2008年から一様に下落していますが、特に大阪市の下落が顕著で、現状では京都市と地価水準が逆転しています。その京都市も下落が続いていて回復の兆しは見えていません。ただし、大阪市では2010年の上半期から下半期は2.6%上昇しており、神戸市では8.4%の上昇とようやく一方的な地価下落から抜け出しそうな気配が出てきました。京都市は上半期と下半期の変動率が -3.8%ですが、ミニバブル前の地価水準より坪単価で10万円程度高い水準は維持しています。名古屋市も同じくミニバブル前から約20%高い水準です。
地価動向に地域性あり 売買のタイミングが重要
三大都市圏の地価水準とその推移を確認すると、地域ごとに置かれている状況が大きく異なることがわかります。全国的には弱含みと言われる地価の状況ですが、実は東京都心部やその周辺の事業集積地では既に地価上昇が発生していますし、依然として下落が続く近畿圏、中部圏でもエリアによって底入れの兆しが見られるところがあります。住宅地価はマスコミで一律に報道されている状況とは様相が違っていて、地域の個別性に応じて相場観が異なっていることを認識し、ご自身の不動産購入・売却計画を立てる必要があるでしょう。
※データ提供:東京カンテイ