中古マンションの売出・取引価格の乖離率と売却期間の推移(2005年~2014年)2015年3月
~ニーズが高まる中で価格乖離率と売却期間はどのように変化しているの?~
2013年以降、景況感の不透明さが改善したことや割高感が増す新築マンションに替わる購入ニーズの受け皿を担う形となって、中古マンション価格は直近にかけて上昇基調で推移しています。特に、三大都市圏の中心部では購入ニーズの高まりからその傾向は顕著です。また、人気が高い都心エリアや再開発が加速する湾岸エリアなどでは中古価格がさらに上昇するとの期待感から“売り渋り”の動きも出始めているようで、マーケットでは流通事例件数は減少傾向を示しています。まさに“売り手市場”の様相を呈していると言っても過言ではない状況です。
このような中古マンションへのニーズが高まっている局面では、売主が希望する「売出価格」と買主との間で実際に成約した際の「取引価格」の差は縮小するでしょうし、購入希望者が早く現れることで売却に至るまでの期間もより短くなることは容易に想像できますが、実際のところはどのような動きとなっているのでしょうか。
2013年5月号では、東京カンテイのデータを基に、2003年~2012年での価格乖離率と売却期間の推移を掲載しましたが、今回はその最新版を取り扱うとともに前回のデータと比較・分析をしてみました。直近における中古マンション取引の現場で生じている変化について見ていきましょう。
首都圏 価格乖離率は-4%台まで縮小、売却期間も3ヵ月を下回る
上のグラフは首都圏における中古マンションの売出・取引価格の差(=乖離率)と平均的な売却期間の推移を表したものです。乖離率がゼロに近いほど売出価格と取引価格の差が小さく、反対に乖離が大きいほど売出価格から値引きした価格で成約していることを示しています。なお、2011年と2012年の価格乖離率はデータベースに中古事例が追加登録された影響で、前回掲載した値と多少異なっている点を留意されたい(他の都市圏も同様)。
2012年にかけては、景況感の先行き不透明感が中古マンション市場にも影を落としていたため、中古マンションの価格乖離率は3年連続で-7%台での推移となっていました。売却期間に至ってはやや長期化する傾向が見られ、2012年には3年ぶりに3ヵ月を超えました。2013年になると“売り手市場”となったマーケットを反映するかのようにトレンドは一変、価格乖離率は-4.2%と大幅縮小して直近10年間での最小値を記録しました。翌2014年には僅かに拡大しましたが、2年続けて-4%台を維持している状況です。売却期間も2013年、2014年ともに2.5ヵ月まで短くなっており、こちらもこの10年間で最低水準となっています。
次に、売却期間ごとの価格乖離率を見てみると、“早期の成約時ほど値下げ幅も小さく、売却が長引けば値下げ幅も大きくなる”といった傾向に目立った変化はありませんでした。ここで注目すべき点は前回(2003年~2012年)との違いで、全体的に価格乖離率が縮小している特徴が確認できます。前述の通り、2013年~2014年にかけては価格乖離率が大幅に縮小していたので、その影響が各売却期間での価格乖離率にも表れる結果となっています。また、価格乖離率0%のシェアについて前回と比較してみると、1ヵ月以内で31.2%(前回比+2.6ポイント)、2ヵ月で14.5%(+2.4ポイント)、3ヵ月で10.8%(+1.5ポイント)とそれぞれ拡大しており、売却期間が短いほど値下げせずに成約に至っているケースが増えているようです。
近畿圏 2008年を境に価格乖離率は概ね縮小傾向も売却期間は3ヵ月超が常態化
近畿圏での中古マンションの価格乖離率も、2013年には直近10年間での最小値となる-6.0%まで縮小しており、首都圏と同じく売主側が有利な市場となっていたことが窺えます。翌2014年には-7.1%と3年ぶりに拡大しましたが、中長期的には2008年を境に概ね縮小傾向で推移していると言えます。一方、売却期間については前述の首都圏とは異なり2013年以降も短縮化することもなく3ヵ月を僅かに超える状況が続いており、“売り手市場”による影響が値下げ幅の縮小に限定されている様子が確認できます。
近畿圏でも売却期間の長期化に伴って価格乖離率が拡大する傾向に変わりはなく、また前回(2003年~2012年)に比べて全体的に価格乖離率が縮小している特徴が見られます。売却期間が1ヵ月以内の価格乖離率は-4.4%で、首都圏とのポイント差は1.0→1.3に拡がっています。売却価格のまま成約に至っている割合は21.9%(前回比+2.0ポイント)で、首都圏の31.2%(+2.6ポイント)や中部圏の28.9%(+2.4ポイント)に比べると依然として低く、また割合も大きく伸びていません。このことから、近畿圏ではニーズが高まっている局面においてもある程度の値下げを余儀なくされる傾向が強いといった固有の特色を有しているものと考えられます。
中部圏 価格乖離率は-7%台まで縮小、売却期間は4ヵ月前後で推移
中部圏での中古マンションの価格乖離率も他の都市圏と同様で、2013年には-7.5%まで縮小しました。2007年に記録した直近10年間での最小値(-6.9%)には届きませんでしたが、比較的小幅な水準まで達しています。一方、売却期間については2013年に4.3ヵ月と4ヵ月を上回りました。翌2014年には4.1ヵ月とやや短くなりましたが、ここ3年では4ヵ月前後での推移が続いています。首都圏や近畿圏に比べると1ヵ月程度長くなっており、中部圏では売却に至るまでにはやや期間を要するものと念頭に置いておくと良いでしょう。
中部圏においても、前回(2003年~2012年)に比べて全体的に価格乖離率が縮小していますが、程度は比較的小幅なものに留まっています。売却期間が1ヵ月以内の価格乖離率は-4.2%で、近畿圏の-4.4%と大差はありませんでした。また、売却価格のまま成約に至っている割合の伸びを見ると、首都圏や近畿圏では3ヵ月を超えた辺りからあまり目立った伸びを示していませんでしたが、中部圏では1ヵ月以内での+2.4ポイントをはじめ7ヵ月に至るまで概ね+1.5ポイント~+3.5ポイント程度の伸びとなっています。
価格上昇局面でも強気過ぎる価格設定には注意が必要か
不動産インフレ局面では、購入ニーズが高まることで売出価格からさほど値下げせずに成約に至るケースは増え、また売却に至るまでの期間が短くなるということは一般的な感覚からもイメージされると思いますが、今回はデータを用いることでそれら実状を具体的に確認することができました。2013年~2014年にかけての中古マンションの価格動向から見る限りでは、程度の差こそあるものの三大都市圏の中古マンション市場はいずれも“売り手市場”となっていますが、データを通じて見えてくる価格乖離率や売却期間の変化は必ずしも一様ではないため、中古マンションの購入・売却を検討されている方はそれぞれの地域でどういった特色があるのかを把握しておくと良いでしょう。
今回示したように、中古マンション価格が上昇基調で推移する中で価格乖離率が縮小傾向となっていたり売却価格のまま成約に至るケースが増加している現状を鑑みれば、売主がさらに強気な売却価格を設定することはごく自然な流れと言えます。一方で、データでは売却期間の長期化に伴って価格乖離率が拡大する傾向に変わりはないので、例え“売り手市場”であっても売り出した後の反響が芳しくない場合には柔軟な価格改定を行うといった基本的なスタンスを堅持することは非常に重要です。実際に、2013年には三大都市圏の全てで中古マンション価格は上昇、価格乖離率は縮小していましたが、翌2014年には価格上昇が続く中で乖離率は横ばい~拡大と“売り手市場”にも一服の兆しが見られるようになってきています。2015年に入ってからも中古マンション価格の先高感への期待は依然として大きい状況が続いていますが、今後は中古マンションの価格動向のみならず成約動向(取引件数や取引価格など)にも注意を払うことが必要です。
※データ提供:東京カンテイ