マンションPBRとマンションPERの微妙な関係
~マンション購入する際に、資産性を重視するか、それとも収益性を重視するのか~
分譲マンションの“経済的な価値”を判断する際に、東京カンテイが毎年公表している「マンションPBR」と「マンションPER」という便利な指標があります(※)。
「マンションPBR」は、株価資産倍率(Price Book-value Ratio)をマンションにあてはめたもので、ある期間に新規分譲されたマンションの価格が、中古市場に登場する時に新築当時の何倍になっているかという数値です。マンションPBR=資産倍率が1倍を超えていれば新築当時の価格が割安だったことになり、売却差益も期待できるという意味でオトクですから、マンションPBRは資産性を示す数値で、大きいほうが良好ということになります。
一方「マンションPER」は、株価収益率(Price Earnings Ratio)をマンション用にアレンジしたもので、現在分譲されている新築マンションの価格が、その周辺で貸されている分譲マンションの賃料(賃貸マンションの賃料ではないことにご注意下さい)の何年分に相当するかを示したものです。数字が小さいほうが賃料相場の割に安価に分譲されていることになりますし、賃料見合いで短期間に購入資金を回収することができるという意味で専ら収益性の良し悪しを示しています。なお、分譲マンションの賃料を採用しているのは、分譲と賃貸物件との仕様や設備の違いが比較的大きいためです。
一口にマンションを購入すると言っても、そのきっかけは様々です。価格が安定しているとか、住宅ローン金利が低いからとか、親から資金贈与が受けられるからなどの理由もあれば、頭金がある程度貯蓄できて購入の目処が立ったということもあるでしょう。また、転勤や出産、子供の入学・卒業を機に購入するケースもありますし、こういったライフステージの変化とは別に投資目的で購入する場合もあります。今回は、この「マンションPBR」と「マンションPER」を使って、エリア=駅ごとの経済的な特性を調べます。今回も東京カンテイの協力を得て、購入目的やマンションの用途に応じて、経済的に合理性の高いマンションを選ぶための“見立て方”をご紹介します。
※「マンションPBR」「マンションPER」は東京カンテイが考案した独自の指標です。
類似した名称やデータが公表されていることがありますが、東京カンテイが公表しているデータとは集計方法も内容も異なりますのでご留意下さい。
首都圏平均: |
マンションPBR/0.91 | マンションPER/23.98 |
①マンションPBR(資産性)、マンションPER(収益性)ともに良好な駅
沿線名 |
駅名 |
マンション PBR |
直近10年の 新築価格 |
対象マンション から発生した 中古価格 |
マンション PER |
新築 価格 |
月額賃料 (円) |
JR山手線 | 品川 | 1.31 |
4,637 |
6,082 |
20.73 |
6,086 |
244,632 |
JR山手線 | 秋葉原 | 1.20 |
5,557 |
6,703 |
21.64 |
6,308 |
242,967 |
都営地下鉄 大江戸線 |
勝どき | 1.18 |
4,856 |
5,750 |
20.88 |
5,714 |
228,087 |
JR京浜東北線 | 横浜 | 1.17 |
4,589 |
5,394 |
21.26 |
4,841 |
189,788 |
JR山手線 | 日暮里 | 1.16 |
4,543 |
5,312 |
19.25 |
4,538 |
196,443 |
東京メトロ 有楽町線 |
月島 | 1.14 |
5,474 |
6,241 |
20.74 |
5,710 |
229,438 |
東京メトロ 有楽町線 |
辰巳 | 1.14 |
4,052 |
4,629 |
18.41 |
4,005 |
181,318 |
京王井の頭線 | 三鷹台 | 1.09 |
4,815 |
5,258 |
16.71 |
3,914 |
195,212 |
東京メトロ 有楽町線 |
豊洲 | 1.08 |
5,099 |
5,542 |
19.04 |
4,824 |
211,121 |
東京メトロ 有楽町線 |
東池袋 | 1.08 |
5,881 |
6,355 |
20.09 |
5,825 |
241,578 |
②マンションPBR(資産性)は良好だが、マンションPER(収益性)が平均以下の駅
沿線名 |
駅名 |
マンション PBR |
直近10年の 新築価格 |
対象マンション から発生した 中古価格 |
マンション PER |
新築 価格 |
月額賃料 (円) |
東京メトロ 半蔵門線 |
半蔵門 | 1.12 |
9,188 |
10,370 |
32.72 |
10,177 |
259,238 |
みなとみらい線 | 元町・中華街 | 1.10 |
4,440 |
4,905 |
25.34 |
5,915 |
194,536 |
東京メトロ 東西線 |
門前仲町 | 1.05 |
5,036 |
5,311 |
25.26 |
5,673 |
187,140 |
東京メトロ 千代田線 |
根津 | 1.03 |
6,302 |
6,539 |
25.90 |
6,730 |
216,586 |
東京メトロ 千代田線 |
赤坂 | 1.03 |
9,693 |
10,006 |
28.01 |
10,309 |
306,705 |
東京メトロ 有楽町線 |
新富町 | 1.01 |
5,266 |
5,340 |
25.55 |
6,977 |
227,543 |
東急 田園都市線 |
溝の口 | 1.01 |
3,933 |
4,008 |
26.25 |
4,588 |
145,637 |
JR総武線 | 市ヶ谷 | 1.01 |
7,474 |
7,569 |
29.69 |
9,171 |
257,424 |
東京メトロ 南北線 |
麻布十番 | 1.00 |
8,665 |
8,720 |
28.31 |
9,552 |
281,185 |
JR総武線 | 市川 | 1.00 |
4,788 |
4,826 |
30.92 |
5,393 |
145,368 |
③マンションPBR(資産性)は平均以下だが、マンションPER(収益性)は良好な駅
沿線名 |
駅名 |
マンション PBR |
直近10年の 新築価格 |
対象マンション から発生した 中古価格 |
マンション PER |
新築 価格 |
月額賃料 (円) |
京成本線 | 実籾 | 0.73 |
2,605 | 1,922 | 21.05 |
2,353 | 93,159 |
JR山手線 | 新橋 | 0.75 |
7,148 | 5,378 | 19.09 |
6,502 | 283,836 |
東葉高速鉄道 | 村上 | 0.78 |
2,663 | 2,080 | 19.98 |
2,411 | 100,562 |
つくば エクスプレス |
柏の葉 キャンパス |
0.78 |
3,370 | 2,660 | 21.64 |
3,488 | 134,326 |
東急東横線 | 日吉 | 0.79 |
3,978 | 3,180 | 20.72 |
3,461 | 139,196 |
JR京浜東北線 | 赤羽 | 0.79 |
5,112 | 4,066 | 21.49 |
4,540 | 176,045 |
つくば エクスプレス |
八潮 | 0.81 |
2,927 | 2,389 | 19.01 |
2,829 | 124,028 |
京成本線 | 青砥 | 0.81 |
3,653 | 2,989 | 20.06 |
3,295 | 136,877 |
東京メトロ 銀座線 |
田原町 | 0.83 |
5,190 | 4,348 | 20.92 |
5,241 | 208,742 |
JR南武線 | 矢川 | 0.83 |
3,765 | 3,149 | 21.64 |
3,603 | 138,745 |
④マンションPBR(資産性)、マンションPER(収益性)ともに平均を下回る駅
沿線名 |
駅名 |
マンション PBR |
直近10年の 新築価格 |
対象マンション から発生した 中古価格 |
マンション PER |
新築 価格 |
月額賃料 (円) |
JR埼京線 | 北戸田 | 0.72 |
3,533 | 2,547 | 26.57 |
3,324 | 104,265 |
JR総武線 | 津田沼 | 0.72 |
3,581 | 2,609 | 28.97 |
4,003 | 115,143 |
京成本線 | ユーカリが丘 | 0.75 |
2,782 | 2,095 | 28.44 |
3,152 | 92,346 |
JR京葉線 | 検見川浜 | 0.76 |
3,354 | 2,572 | 30.08 |
3,274 | 90,711 |
JR武蔵野線 | 府中本町 | 0.77 |
4,716 | 3,663 | 27.60 |
4,344 | 131,134 |
JR横浜線 | 淵野辺 | 0.79 |
3,112 | 2,484 | 25.48 |
3,097 | 101,293 |
JR常磐線 | 松戸 | 0.80 |
2,907 | 2,351 | 25.58 |
3,620 | 117,933 |
JR埼京線 | 戸田公園 | 0.80 |
3,269 | 2,641 | 26.60 |
3,819 | 119,634 |
JR高崎線 | 上尾 | 0.80 |
3,339 | 2,698 | 34.04 |
4,020 | 98,413 |
北総鉄道 | 千葉 ニュータウン中央 |
0.81 |
2,524 | 2,058 | 25.69 |
2,298 | 74,543 |
「マンションPBR」はマンションを将来売却することになった時の資産性、「マンションPER」はマンションを貸した際の収益性を判断するための指標ですから、両方とも良いエリア=駅もあれば、どちらか一方が良い駅、残念なことに両方とも平均値を下回ってしまう駅もあります。これらを類型化して地域の特性や傾向を検証します。なお、分析はサンプル数が豊富な首都圏の411駅を対象にしています。
①マンションPBRもマンションPERも良好な駅
資産性も収益性も良い駅は、購入後ライフステージの変化に応じて売却しても、また賃貸に出して安定して賃料収入を得ても、さらには一定期間賃貸で運用した後に売却しても良いという、まさに経済的には理想のエリアです。駅名を見ると、品川を始めとして都心やその周辺の交通利便性の良い駅が並んでいることがわかります。品川を例に挙げると、マンションの直近10年間の資産性は1.31=31%上昇していて、周辺の賃料相場で換算すると20.73=21年弱で購入できるということです。マンションPBRの首都圏平均値は0.91ですから0.40ポイント資産倍率が良好で、マンションPERも平均の23.98から3.25年資金回収が早いのです。
これらの駅は、単に立地条件が良いということ以上に、もともと商業地などとして活用されており、もともと住宅地としてのイメージは強くなかったが、利便性のゆえに近年マンション分譲が進んでいるという共通点があります。首都圏湾岸エリアの駅も入っており、近年の人気を裏付けるものと言えます。
②マンションPBRは良好ながらマンションPERは平均以下の駅
資産性は良好でも、収益力が平均を下回る(PERの数値は平均を上回る)駅は、同じ都心および近郊に位置していても、これまで主に住宅地として活用されていて、利便性よりも住環境が重視される傾向が強いという共通項があります。人気住宅地として知られるエリア=駅は、一般に分譲価格が強気であることが多いのですが、都心以外の住宅地では、交通利便性に応じて賃料が変わるため、価格に比較して賃料水準がやや低くなるというケースがあります(半蔵門や赤坂のように価格が極めて高額なので、賃料水準が高くてもPERが悪化するという都心に特有の駅もあります)。
これらの駅では①の駅と分譲価格が同じ水準か、もしくはそれを超える価格であることもあるのですが、相対的に賃料相場は①よりやや低くなる傾向があります。つまり出口戦略としては、賃貸に出すよりは専ら売却を前提として検討するほうが良いエリアということになります。
③マンションPBRは平均以下でもマンションPERが良好な駅
資産性にはやや劣るため売却差損は相応に発生するが、収益力があるので貸すには向いているという駅がこのパターンです。都心から一定の距離があって売却すると分譲時の価格からは下落するリスクがあるものの、ターミナル駅に近く周辺の事業集積地に近いため賃貸ニーズがあり、収益性は良好です。また新橋や田原町など主に商業地として活用されているエリアの資産性は、住宅地として見るとやや厳しいのですが、それを補うだけの収益性があることが明らかです。
このパターンに分類される駅周辺の物件は、短期間で売却することで下落リスクが薄まりますから、出口戦略は賃貸をメインとして投下資金をある程度回収したら速やかに売却する、というシナリオがイメージできます。その意味では投資に向いたエリアと言えるかも知れません。
④マンションPBRもマンションPERも平均を下回る駅
最後は、残念ながら資産性にも収益性にもリスクが高いと考えられる駅です。③と同様に郊外に位置する駅が多く、ターミナル性や事業集積地に近いという特性も見受けられないため、少なくとも経済合理性をある程度重視してマンションを購入しようと考える方は、購入候補リストの上位に記載しないほうが無難です。
ただし、経済合理性を補って余りある居住性の高さがある場合や、地縁・血縁などの人的ネットワークがあり、勤務先や学校も含めてそのエリアに居住するべき人・世帯が、敢えて他のエリアを選択して居住することも考え難いでしょう。住宅・マンションを購入するきっかけは冒頭申し上げた通り千差万別です。経済合理性だけで判断できるものではないことが、マンション選びを奥の深いものにしていると言えるでしょう。
このようにマンションの経済合理性をエリアの特性に応じて検証すると、結局、購入者ご自身が「どのように暮らし、生活の基盤を形成していくか」という、将来に向けたビジョンを持つことの必要性が見えてきます。マンションは今回解説したように“資産”ですが、家族が安全・幸せに生活する“住まい”でもあります。この“資産”と“住まい”としてのバランスの良い物件を選ぶこと=“住まい”として気に入ったマンションの“資産性”を「マンションPBR」と「マンションPER」を使ってチェックしてから購入すること、を覚えておくと、よりリスクが少なくなるマンション購入が可能になるはずです。
※データ提供:東京カンテイ