三大都市圏の中心エリアで公示地価と実勢地価を比較してみると
今年も3月18日に2014年の地価公示が国土交通省から発表されました。公示地価はその年の1月1日時点の価格を定点調査し、鑑定評価してその平均値などを行政区ごとに公表しており、国土交通省の「土地総合情報ライブラリー」では地点ごとの公示地価を確認することもできます。公示地価の調査ポイントは全国に23380地点(2014年)ありますが、特定のエリアで調査するポイントは予め決められていて(変更されることもあります)、地点数もある程度限られています。地価公示は一般の土地取引の指標となること、および鑑定評価の規準となることなどを目的としており、あらゆる土地の価格まで個別・具体に公表することはできませんが、土地の価格の目安として活用することが期待されています。また、相続税や固定資産税(毎年7月1日に国税庁が路線価として公表します)の算定基準でもあり、土地取引および徴税の重要な指標でもあります。
今回は、東京カンテイの協力を得て、実際に取引された住宅地=更地の価格(ここでは公示地価と区別するために、便宜上“実勢地価”と表記します)を特定のエリアごとに算出し、その価格水準と公示地価の違いを比較する試みです。地価の算定基準が異なりますから当然地価水準自体にも違いがありますが、公示地価と実勢地価の推移を比較することで、景気が変動する状況や地域ごとの特徴を見ることができます。
東京23区~実勢地価が公示地価を上回り、公示に先行して実勢が変動
グラフは東京カンテイが保有する住宅地の取引データを東京23区で平均したものと公示地価の住宅地の平均価格を坪単価で比較したものです(以下同)。
東京23区では実勢地価の水準が公示地価を上回り、また上昇するタイミングも実勢地価のほうが公示地価に先行していることがわかります。実勢地価が公示地価を上回る水準で推移しているのは、利便性や利用価値の高さなどから、景気の変動とは関わりなく常に土地に対する需要が旺盛であることが要因として挙げられます。当然、地価水準は経済状況によって上昇したり下落したりするものですが、上昇すれば「これ以上高くならないうちに」という需要が発生し、下落しても「この価格なら十分採算が合う」と考えて購入に至るケースが相応にあるということです。それだけ東京23区の土地は利用価値(汎用性)が高いとも言えるでしょう。
また、地価の上昇局面を迎えるタイミングも実勢地価がやや先行しています。公示地価が直近で底を打ったのは2004年ですが、実勢地価では2002年に底を打ち、翌2003年から上昇に転じています。リーマン・ショック後の地価回復局面においても同様です。この現象も、市場全体が動き出す前にいち早く土地の購入を開始する需要者の存在が想定されます。土地の価格動向もこの点では一般の消費財と変わることがなく、常に需要と供給のバランスで価格が自立的に決まるというメカニズムが働いています。
大阪市~公示地価に比べて実勢地価の水準がやや低く、振幅が大きい
大阪市の地価動向は、東京23区とは対照的に公示地価の水準のほうが高く、また比較的安定推移しているのに対し、実勢地価は振幅が大きいという特徴があります。これは東京23区以外に共通する動きで、その点では東京23区の地価動向が“例外”と言えるでしょう。
東京23区では基本的な地価推移が公示地価も実勢地価も“横ばい”でミニバブル期や現状のアベノミクスの政策効果が期待される局面で地価の上昇が見られますが、大阪市の基本的な地価推移は公示地価も実勢地価も“緩やかな下落”です。この点は土地に対する需要の多寡が影響しています。東京23区の需要は地価の上昇局面でも下落局面でも相応に存在しますが、東京23区以外の地域では、地価の下落局面での需要が限られるということです。
リーマン・ショック後に様々な企業が大阪支店や名古屋支店を統廃合したり、営業拠点を整理・縮小したりする動きがあったことは記憶に新しいですが、土地の利用価値は地域によって、また経済状況=時期によっても違いがあるという事実が浮き彫りになります。
ただし、実勢地価が公示地価に先行して動きを示す点は東京23区と同じで、大阪市でもリーマン・ショック後の地価回復は、公示地価がようやく2014年に上昇したのに対して、実勢地価では2011年に底を打ち、以降3年連続して上昇しています。
名古屋市~公示地価と実勢地価の乖離が小さく、安定的な推移示す
名古屋市の地価動向は、大都市圏の中心部としては安定的な推移を示しており、公示地価および実勢地価とも振幅が小さくなっています。また公示地価と実勢地価との乖離も僅かで、買い進みや売り急ぎが東京23区や大阪市よりも少ないことが推察されます。これは土地取引の絶対数が東京23区や大阪市よりも少ないということもありますが、需要と供給のバランスが良好であることの証左でもあります。
また、地価の上昇局面を比較しても公示地価と実勢地価が同時期であることも特徴的です。資産デフレ期を脱しつつあったミニバブル前の上昇局面は、公示地価・実勢地価ともに2005年に底を打って2006年以降2008年まで継続しています。これも土地の取引において極端な買い進みや売り急ぎがないことの表れと考えられます。
東京23区および大阪市と最も異なる点は、足元の地価動向が、特に実勢地価においてやや弱いことです。公示地価はリーマン・ショック直後の2010年に底を打って、翌2011年から緩やかな上昇基調に転じていますが、実勢地価は2012年にわずかに回復したものの2013年には下落し、2014年にようやく反転上昇の兆しを示しています。土地取引の絶対数によって、目安となる公的な価格と実際に取引される価格水準がやや乖離し始めていることが留意すべき点です。今後の推移が注目されます。
地価は、公的なものでも今回ご紹介した公示地価のほかに、国税庁が公表する路線価、秋に公表される都道府県地価調査(基準地価)があります。また実際に取引された地価以外にも、収益還元法を用いた価格算定手法や周辺の価格動向を参考にする比較事例手法などがあり、一般にややわかりにくいものと言われていますが、地価そのものの上昇および下落だけでなく、地価推移の地域的な特徴を理解しておくことが、不動産売買の背景となる景気変動を把握するための目安になります。
※データ提供:東京カンテイ