2016年 新築マンションと中古マンションの市場動向総括【近畿圏・中部圏編】2017年6月
今回は前回の首都圏に引き続き、近畿圏と中部圏の新築・中古マンション市場について東京カンテイのマンションデータを基に俯瞰していきます。
首都圏においては先行して価格上昇してきた東京エリアで早くも価格調整局面入りしたとみられるサインが各種データからも読み取ることができましたが、これらトレンドが時間差で波及されると言われている近畿圏や中部圏でも直近にかけては同様の動きが出始めているのでしょうか。
今回も供給戸数や流通事例数、新築・中古価格の動向に着目しつつ、首都圏との類似点や相違点などにも触れながら詳しく見ていきたいと思います。
消費増税&価格高騰の影響から供給戸数は低調、近畿圏では“三極”へ供給先を絞り込み
近畿圏や中部圏における新築マンションの供給戸数も首都圏と同じく、直近にかけては低調に推移しています。都市圏ごとで見ると、近畿圏では2014年に17,950戸と前年から3割近くも供給戸数が減少し、リーマン・ショックの影響でマンション市場が急激に冷え込んでいた2009年当時の水準を下回りました。2015年~2016年には年間で19,500戸程度まで持ち直しましたが、ここ10年の中では依然として低水準に留まっていると言えるでしょう。
このように市場規模が縮小する一方で、大阪府・兵庫県・京都府の所謂“三極”と称されるエリアでの供給シェアは拡大する傾向にあります。2016年時点での供給シェアを見ると、大阪府では主に大阪市中心部でタワーマンションの開発が盛んに行われたことで62.3%と4年ぶりに6割を超えていました。また、京都府では富裕層をターゲットにした高額マンションの供給が増えていた影響から11.9%と3年連続で2桁増を記録しています。
市況感が悪化したことで全域的に供給戸数を減らしていた2009年当時とは異なり、2014年以降の新築マンション市場においては価格高騰によってターゲットとなり得る購入検討者が減少する中で、新築マンションの供給先を厳選する動きがはっきりと表れています。
中部圏ではミニバブル崩壊後の2011年に7,972戸まで持ち直していたものの、それ以降は再び減少傾向で推移し、2014年~2016年にかけては年間で5,000戸前後とリーマン・ショック後の2010年当時をも下回る水準まで落ち込んでいます。
供給シェアは愛知県が最も大きく、概ね7割~8割を占めている“一極集中”状態となっており、市況の良し悪しによる変化はほとんどないようです。中部圏においては購入する住宅として専ら一戸建てが選ばれており、新築マンションの主要な供給先である愛知県も例外ではありません。
昨今のようにマンション価格が高騰する時期には一戸建ての割安感が増すことでその傾向はさらに強まるため、新築マンションの供給戸数は全域的に縮小しています。
2015年以降、価格上昇に伴って中古流通事例数は緩やかな増加傾向に転じる
次に中古マンションの流通事例数について見てみると、近畿圏や中部圏ではほとんど同様の動きを示していることがわかります。
ミニバブル崩壊によって中古マンション市場においても取引が低調となったこと、さらに2000年代前半に大量供給された分譲マンションが中古流通し始めたことも相俟って、流通事例数は増加の一途を辿り、2012年には近畿圏で163,672件、中部圏で67,178件とともにピークを迎えていました。
2007年当時に比べて2倍程度まで膨れ上がった流通事例数ですが、2013年に入ると景気改善に向けた期待感が高まり、また住宅取得支援制度の拡充や金融緩和政策の導入など、実需・投資ニーズでのマンション購入を後押しするような環境が整ったこともあり、新築と同じく中古マンションも売れ行きが好調となったことで流通事例数は減少に転じることとなりました。
消費増税が行われた2014年に新築マンションでは供給戸数を大きく減らしていましたが、中古マンションは割安な価格と流通量(=選択肢)の多さなどを背景に引き合いの強さを維持していました。
2015年頃になると価格上昇についてこられなくなった一次取得者が出始めたこと、また“売り時”と判断したオーナーによって新たに中古事例を流通させるケースが増え始めたこともあって、流通事例数は程度の差はあるもののそれぞれ増加に転じている様子が確認できます。
各都市圏の合計値では2012年に記録した直近のピークまでには達していませんが、兵庫県や京都府など当時を上回っているエリアも一部では見受けられます。
近畿圏主要都市での中古マンション価格、2016年下期を境に「築10年以内」は頭打ち
基本的に、新築・中古マンション価格の推移が連動しているのは周知の通りですが、中古マンション価格に限ってはエリアによるバイアス以外にも築年数による影響も多分に受けることから、ここでは正味のトレンドを見るために築年帯別でのデータを掲出した上でそれぞれの動向を確認していきます。
いずれの主要都市においても、新築マンションの価格上昇に伴って各築年帯での中古マンションの価格水準も押し上げられている様子が見て取れます。各築年帯での価格差は一定ではなく、直近にかけての価格上昇局面においては拡大する傾向となっています。これは、価格高騰した新築マンションに取って代わって比較的築年数が浅い中古マンションが購入ニーズの受け皿となっていることが関係しています。
築浅物件は新築マンションに比べて価格面では割安感があり、設備や仕様でも新築とさほど遜色ないためです。ただし、これら要因を追い風にした価格上昇の動きにも一部のエリアでは変わりつつあるようです。
例えば、大阪市においては価格調整局面入りした「新築」に連動する形で、「築10年以内」でも2016年下期から頭打ち状態となっています。依然として割安感を保っている築11年以上の中古マンション価格は強含み続いていますが、今後の「新築」や「築10年以内」の価格動向次第ではトレンドが変化する可能性は高いと思われます。
また、京都市でも「築10年以内」や「11年~20年」で横ばい~弱含みとなっています。2016年時点においても2015年以前に比べて「新築」に対する割安感はあるものの、大半の新築マンションは富裕層向けの高額物件であり、価格比較の材料とするにはあまり適切ではない状況となっています。
「築10年以内」や「11年~20年」で上値が重くなっているのは、中古マンションの価格水準自体が地元の一次取得者の予算レンジから逸脱したことで様子見ムードが広がり、結果的に実需ニーズが薄まったためであると考えられます。
一方、名古屋市では新築・中古マンションとも価格推移は上昇基調をキープしています。新築マンション価格に関しては2016年に一度水準を下げる場面もありましたが、直近においても概ね坪210万円前後という高水準を維持しています。供給される物件自体もリニア中央新幹線の開業に向けて再開発が続くJR名古屋駅周辺でのタワーマンションや高級住宅地として人気を博している東山エリアでの高額レジデンスなどが中心となっており、地元の富裕層や国内の投資家などからのニーズによって高水準の価格が下支えされているようです。
また、愛知県内の主要産業である自動車産業における好業績を背景に一次取得者による住宅購入の動きも堅調で、中古マンション価格の強含みにも波及しています。
現時点ではこれら価格上昇も購入側にとって許容できる範囲に収まっているためにポジティブなトレンドが続いていますが、さらに価格高騰が行き過ぎてしまうと実需ニーズの主な担い手である一次取得者層の“マンション離れ”に拍車が掛かってしまうことにもなり兼ねず、他の主要都市と同様に今後の価格動向に注視する必要があると言えます。
※専有面積30㎡未満の住戸、事務所・店舗用ユニットは集計から除外。
※データ提供:東京カンテイ