新築一戸建て&マンションの供給戸数から読み取れる首都圏での住宅ニーズの傾向は? 2017年12月
毎年、不動産ポータルサイトや大手デベロッパーが行っている調査の一つに「住みたい街ランキング」というものがあります。普段から不動産にあまり馴染みのない人でも一度はメディアを通じて見聞きしたことがあると思いますが、これら調査方法は主にアンケート形式で、例えば首都圏では「吉祥寺」「恵比寿」「横浜」などが住みたい街の常連として上位に登場してきます。
調査ではアンケート回答者の性別や世帯構成などで区分けして分析されていますが、家賃や購入金額といった現実的なハードルをあまり考慮せずに“住みたい”という願望が結果に色濃く反映されており、“憧れの街”や“おしゃれな街”などポジティブなイメージを持っているエリアが上位に数多くランクインしているように見受けられます。
では、実際に住宅購入を検討している人(もしくは実際に購入している人)はどのエリアを選んでいるのでしょうか。
それら住宅ニーズを集めている“人気エリア”を読み解くデータとして、今回は新築一戸建て&マンションの供給戸数に注目してみました。デベロッパーやハウスメーカーなどが住宅を供給するにあたっては、ただ闇雲に企画・販売しているわけではなく、ターゲットとなる購入層の予算レンジや選好するエリアなどを精緻にマーケティングした上で一戸建てや分譲マンションの供給を行っています。
特に、一戸建ては投資目的でも購入される分譲マンションとは違って居住目的での実需ニーズが主流となるため、“供給戸数が多いエリア≒予算に見合う中で買って住みたいニーズが高いエリア”とも捉えることができます。
今回対象としているのは分譲形態の一戸建て(=注文住宅ではない)ですが、一般勤労者の購入層にとって居住ニーズが高いエリアはどこなのか、またそれらエリアでの新築物件の価格帯などがどのようになっているのかについてデータを交えながら見て行きましょう。
実需ニーズがメインの新築一戸建て、東京23区内の周辺エリアが上位に数多くランクイン
2017年(1月~10月)に分譲された新築一戸建ての供給戸数を行政区別でランキングにしてみると、第1位は川口市の1334戸で、第3位の練馬区までが1000戸以上となっています。上位10位までには足立区や練馬区など東京23区内の周辺エリアに位置する4行政区がランクインしており、他にも東京23区に近接する川口市、市川市および船橋市が見られます。
一般的には“一戸建てが多いのは郊外エリア”というイメージがあると思いますが、上位でそれに該当するのは八王子市、町田市および所沢市のみであり、直近においては意外にも都心寄りエリアが数多く登場しています。
これまでは建物面積や土地面積の広さ、緑豊かな住環境などが重要視されてきた一戸建てですが、最近では家族構成の少人数化に伴って以前ほど広さを求めることが無くなってきていること、また分譲マンションと同様に交通利便性や生活利便性を重要視する傾向が強まっていることなどを背景に、都心寄りエリアで供給戸数が多くなっているものとみられます。
平均価格を見ると、人気住宅地&高級住宅地を擁する世田谷区や大田区などではやや高い水準となっていますが、上位エリアの大半が3,000万円台~4,000万円台で一般勤労者の購入層にも手が届く価格帯に収まっている様子が確認できます。
後述の新築マンションに比べて価格は割安で建物面積も広くなっており、ランキング上位に登場してくるエリアは居住目的での購入者にとって予算の範囲内で交通&生活利便性と居住快適性のバランスが取れた住宅を取得できるエリアとして支持を集めているものと言えるでしょう。
新築マンションの供給エリア、実需&投資の両ニーズが取り込める都心部などへ偏在が加速
次に、新築マンションでも同様にランキングを見てみると、一戸建てとは全く異なった内容となっているのがわかります。第1位は品川区の1725戸で、同じく湾岸エリアに位置し大規模タワーマンションが多く供給されている中央区(1304戸)や江東区(1288戸)も1000戸以上で続いています。上位10位までには都心部に位置する中央区や港区をはじめ、東京23区内の行政区が8つも登場していることから、価格高騰局面においてもなお資金に余力がある富裕層の実需・投資ニーズに適う都心部へ新築マンションの供給立地が偏在している様子が見て取れます。
また、掲出したランキング上位30位のうち東京23区を除けば、大半の行政区はミニ都心の横浜市や都心部へアクセスしやすい都下エリア、川崎市およびさいたま市に位置しており、いずれも良好な交通利便性を有しているといった共通点が認められます。
新築マンションは居住目的のみならず投資目的で購入されることも多いために、先高感が期待されるインフレ局面では基本的に価格上昇圧力が一段と高まる傾向にありますが、最近では高騰する開発用地や建築資材コストの価格転嫁、大手デベロッパーの寡占化、供給立地の駅近化なども相俟って、新築マンション価格は一般勤労者の購入層にとって手が出しにくい水準まで高まってきているのが現状のようです。
ランキングを見ても平均価格が1億円を超える行政区が散見されていますし、都心部では7,000万円台~8,000万円台と高水準を誇っています。
東京23区の周辺エリアやそこに近接しているエリアの価格帯も5,000万円台~6,000万円台が主流となっており、前段で触れた新築一戸建ての価格帯よりもかなり上振れているため、一般勤労者の購入層が予算の範囲内で分譲マンションを購入するためには専有面積や最寄駅からの所要時間などの条件で妥協するか、あるいは中古マンションまで検討範囲を広げることが必要となっているようです。
新築マンションの価格高騰を受けて“バランス型”の人気エリアが昨年から大きく減少
新築一戸建ておよび新築マンションの合計戸数を行政区別にランキングした上で、それぞれの供給戸数の傾向から①新築一戸建てに特化、②新築マンションに特化、③バランス型の3タイプに区分けしてみました。ここでは“平均価格”を掲出しているので、例えば品川区など一部の行政区では新築一戸建て価格が新築マンション価格を上回っていますが、単価ベースで価格を比較すると当然ながら全ての行政区で「新築一戸建て価格<新築マンション価格」となっています。
新築一戸建て価格は居住目的で購入する一般勤労者の予算レンジと置き換えることもできますから、今回掲出した一覧表はそれぞれの行政区においてそれら予算レンジから新築マンション価格がどれくらい乖離しているのかを確認する際の参考データになると思います。
各タイプでの行政区の増減を見てみると、タイプ①は2016年に37行政区であったのが2017年には44行政区まで増えていました。一方、タイプ②は21→15行政区、タイプ③は28→14行政区とともに減少しており、その結果タイプ①は全体の6割超を占める状況に至っています。バランス型であるタイプ③は半減していますが、2016年にタイプ③であった行政区の多くが2017年には新築一戸建てに特化したタイプ①に変化していました。それら行政区はちょうど一般勤労者の購入層からの居住ニーズを集めている東京23区の周辺エリアやそこに近接するエリアと重なっていることからも、予算レンジの上振れが限定的な中において現実的に購入する住宅の受け皿として価格高騰した新築マンションから比較的値頃感が維持されている新築一戸建てにシフトしている状況が浮き彫りとなっています。
(データ提供:東京カンテイ)