消費増税はマンション市場にどのような影響を与えるか
~1997年5%引き上げ時との比較で探る消費増税期の新築マンション市場~
アベノミクス効果によって、また参院選の自民党大勝による“ねじれ”解消で安倍政権の政策が遅滞なく実行されるという期待も手伝って、2013年上半期の新築マンション市況は昨年とは比較にならないくらい活況を呈しています。さらに足元で実際に不動産購入、特に新築マンション購入の背中を後押ししているのは、2014年4月に迫った消費税率の8%への引き上げです。安倍首相は2013年4~6月期の経済成長率やGDPの伸び率などいくつかの主要指標を参考にしながら、総合的に判断して結論を出すとの発言をされていますから、8%への引き上げが決定したわけではありませんが、8月12日に公表される予定のGDP値が大いに注目されることになります。
ただし、市場および購入予定者は既に8%への引き上げを折り込んでおり、そのことがマンション市場の活性化を招いていると言って良い状況です。もちろん2013年9月末まで適用される経過措置(請負契約=セレクトプランのある新築住宅を購入した場合は2014年4月以降引き渡しでも消費税は5%に据え置くという特例)が、さらに購入を促進する効果を高めているのも事実です。
では今後、不動産市場は消費増税の影響をどのように受けるでしょうか。前回、1997年4月に消費税率が3%から5%に引き上げられた際の首都圏新築マンション価格推移を例に、また当時の状況と何が異なるかを検証しながら、今回の消費税引き上げの影響を探ってみることにします。データは東京カンテイのデータベースに登録されているものを使用しています。
上記のグラフは、首都圏のエリアごとの新築マンション平均価格を25年程度示したものです。この価格推移を見ると、左端に記載した1990年当時の“バブル価格”が如何に高額であったかが印象的ですが、今回注目すべきは1997年前後の価格推移です。バブル崩壊後、急速に下落していた新築マンション価格は、消費税が引き上げられる1年前の1996年には反転上昇しており、翌1997年に東京23区平均が4,834万円まで上昇しています。では1998年の5%引き上げ後の平均価格はというと、東京23区平均は4,488万円と7.2%も下落していますから、このデータからは、一義的には消費増税後に購入したほうが結果的にお得に買えたという結論を導くことができます。ただし、1997年当時は2003年前後まで続いた“資産デフレ期”の真っ只中で、毎年住宅地価は下落していましたから、消費増税とは関係なく価格を下げて販売できたという事情がありました。1998年以降、2003年まで新築マンション価格が毎年下がっているのがその証左です。したがって、1997年当時は「消費増税前は3%で購入できるからお得」との説明が可能で、1998年以降も「5%になった分、本体価格を引き下げたのでお得」と説明できましたから、結果的に首都圏では毎年9万戸前後の新築マンション大量供給が継続したのです。
1997年 消費税3%→5%改定時 | 2013年以降 消費税5%→8%→10%改定時 |
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資産デフレ期:毎年住宅地価が5~7%程度下落 消費増税前「3%でオトク」→増税後「価格を下げたのでオトク」 地価下落によって価格を下げて分譲しても利益の確保が容易 |
地価安定期:住宅地価は首都圏中心部~近郊でほぼ横ばい 消費増税分の価格を転嫁しないと増税後に利益圧縮リスク 消費増税前の「住宅ローン減税バブル」訴求で供給拡大 |
マンション大量供給期:大手以外にも中小デべが多数分譲 首都圏で年間7万戸~10万戸(2000年)の大量供給で価格競争激化 |
マンション分譲エリアの絞り込み期:大手中心の寡占化 首都圏では年間5万戸超の供給→寡占化のため供給調整で対応 |
消費増税は1回&2%の引き上げ 低価格販売で需要を維持「資産デフレ型分譲&永住志向」 |
消費増税は2回&合計5%の引き上げ 高額マンションの需要強含みにより大手が都心分譲強化 湾岸エリアでは坪220~240万円で据え置き&大量供給 |
10年固定金利4%前後&民間変動金利は5%前後で推移 中古住宅へのローン(公庫融資)は最長で25年、概ね20年で実施 |
住宅ローン減税/超低金利/住宅購入目的贈与の非課税枠 最大400万円の減税期間を4年間継続 変動金利2.475%→提携ローンは軒並み1%を下回る実施金利 住宅購入のための贈与非課税枠1,000万円(+基礎控除110万円) |
では、現状の住宅地価動向はどうかというと、上記の比較表に示した通り、地価は2007年から2008年にかけて発生した“ミニバブル期”に急上昇し、リーマン・ショックで急落した後は安定推移しています。特に“マンション適地”と言われる市街地中心部や人気住宅地、首都圏湾岸エリアなどマンションが売りやすいと考えられる地域の地価は下げ止まっており、昨年から上昇しているエリアも多数ありますから、この状況で消費税が引き上げられれば、1998年以降のように価格を下げて分譲することは容易なことではないことがわかります。加えて鉄および生コンクリートなどの資材価格、建築人件費も上昇する傾向にあり、これらを勘案すると、新築マンション価格は2014年4月および2015年10月の2段階にわたる消費税引き上げを見据えて、価格調整が困難な状況にあると考えられます。上記グラフに点線で示した価格推移はこれらの現状を考慮した例ですが、実際に東京23区の新築マンション価格は2013年1~6月平均が5,297万円に上昇しており、グラフに示した予測値を上回る水準で推移していますから、“駆け込み需要”が顕在化していることが明確です。なお、2015年に基礎控除が引き下げられる相続税の対策として、消費税が5%のうちに都心の高額不動産を購入しておきたいというニーズが高まっていることも市場を活性化させています。
では、1997年当時と比較して現状有利な点はないのかというと、最大の優位性が見られるのが住宅ローン金利の動向です。1997年当時の10年固定金利は4%前後、変動金利は5%前後で推移していましたが、現状(2013年7月)の10年固定金利は1.6%前後で、変動金利に至っては金利優遇によって1%を下回る水準に設定されていますから、住宅ローンを長期にわたって低利で借り入れられる環境が整っていることになります。また2014年4月以降、経過措置の適用がない物件については住宅ローン減税が最大400万円まで拡充され、住宅購入のための贈与税非課税枠も最大1,000万円まで(基礎控除を含めて1,110万円まで)設定されていることを考慮すれば、この“外付け3点セット”を有効活用した戦略的な不動産購入については一定のメリットが実感できる時期と言えるでしょう。
ただし、これらの状況はいくつかの不安定な要素によって構成されており、例えば、長期金利(新発10年物国債の金利)がアベノミクスの影響によって乱高下したのは記憶に新しいところです。また、消費税が2015年10月に10%に引き上げられる可能性についても議論が再燃していて、この制度変更に合わせて低所得者や住宅ローンを利用しない住宅購入者への現金給付なども検討され始めていることから、2015年という2年先の動向も見通せる状況にないことも確かです。このコラムに掲載されているデータや情報などを基に、消費増税に影響を受けにくい中古マンションなどの購入を検討することなどを含め、最も良い住宅購入の時期および優先すべき要素を考慮して、不動産購入を考える必要がありそうです。
※データ提供:東京カンテイ