築2年未満の短期売事例数と表面利回りの相関性 2019年3月
今回は2009年~2018年の10年間で中古マンションの売事例のうち、短期売却と言える築2年未満の売事例数と表面利回り(築2年未満の中古坪単価と築2年未満の賃料事例で算出)の変化をエリア別に見ること、その相関性を東京都の4エリア、大阪市で見てみましょう。いつものように東京カンテイのデータを基に分析します。
1.東京都
東京都を4つの区域に分けて見ましょう。
(1)都心6区:千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区
都心6区では2013年まで表面利回りが上下しながら全体的には上昇しています。2014年から反転し低下しますが、築2年未満の短期売事例数は2015年に急激に増加します。表面利回りが低下すると言うことは賃料水準に対して価格が下落することで起こります。したがって短期売却する積極的な理由がないことから、売事例数は増加しているものの大きな変化とは言えません。
反対に2015年以降は表面利回りが連続して低下する市場に変化し、短期売却の事例数が急激に増加します。2018年は、表面利回りは上昇に転じ、売事例数は減少しました。各エリアを見ていきますが、ほとんどがこの都心6区と同様に事例数と表面利回りには「負の相関性」が見られます。
(2)南西6区:品川区、大田区、目黒区、世田谷区、中野区、杉並区
主として都内の良好な住宅地が多い南西6区では都心6区とは異なる動きが見られます。つまり、事例数と表面利回りが正の相関性に近い形となります。表面利回りが低下すると事例数が減少し、表面利回りが上昇すると事例数が増加するという動きになっています。
この場合、事例数の変化が表面利回りの変化より1年早くずれが生じていますが、事例数の変化を1年遅らせると、ほぼ2つの線は重なります。南西6区では住宅地が多く高級住宅地も少なくありません。このようなエリアではマンションを実需で買っている場合も多いため、賃料収入を重視して運用する人よりも、価格がより高くなるまで待ち、高止まったタイミングで売るという選択をする人が多いために正の相関性が表れると見られます。
(3)北東11区:豊島区、台東区、墨田区、江東区、荒川区、北区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区
北東11区は都心6区と同様に表面利回りと事例数の関係は負の相関性に近い形です。
2013年~2015年に表面利回りは5%台半ばと相対的に高くなっていますが、相対的な価格の下落期においては、手持ちの物件を短期で売却しようとはせず、2016年以降表面利回りの低下基調への変化に伴って、価格の上昇による利益確定売が増えるという構図になっています。この動きは2016年がピークで以降は短期売却の事例数は減少しています。
(4)東京都下
都下の動きは前述の北東11区の動きととてもよく似ています。表面利回りの大きな変動は起こっていないものの、2015年~2017年の表面利回りの低下期には、価格の上昇期を逃さず短期でも売却を行い、売却差益を確定させようという動きが見られます。
2018年に表面利回りは上昇に転じましたが、価格が依然高水準を維持しているために短期売却の事例数は増加したと見られます。ただし、事例数自体は他のエリアと比べると少なく、市場は穏やかであると言えるでしょう。
2.大阪市
大阪市は特に市中心部(中央区や西区など)に2014年以降タワーマンションの供給が盛んになったため、表面利回りが2014年以降急激に低下しました。2015年以降は反転しますが、大きな変化はないまま4%半ばで推移しています。このような利回り推移の中で短期売却の事例数は2016年に急増します。
築2年未満の価格水準の大きな上昇の影響からタワー物件から短期売却の動きがにわかに加速したと見られます。2017年以降が短期売却の事例数は減少し、落ち着いた動きに戻りつつあると見られます。
短期売却の事例数はその時の経済環境によって変化します。したがって、増加したことをもって「出口から出る人が多くなった」と一概に判断するのは難しいところもあります。売却物件がすぐに次の買い手に購入される状況であれば、中古流通は滞りなく推移していると判断できます。
2018年後半以降は全国的に短期売却も減少し、賃貸事例数も減少する動きになっています。これは不動産投資活動の鈍化を意味するだけに、今後の市場には注意が必要でしょう。
(データ提供:東京カンテイ)