2016年 新築マンションと中古マンションの市場動向総括【首都圏編】2017年3月
2017年になって早くも2ヵ月が経過し、分譲マンションマーケットに関する年間データも新聞やテレビなどを通じて発表され始めていますが、今回は東京カンテイのマンションデータを基に首都圏の新築・中古マンション市場について俯瞰してみたいと思います。
前回、市場動向を総括した2011年から5年という月日が経ちましたが、この間にマンション市況はかなり大きな変化を見せていました。旺盛な実需・投資ニーズに加えて歴史的な超低金利という追い風などもあって、新築・中古マンション価格はともに上昇局面で推移し、直近においても高水準を保っています。ただ、価格上昇のペースが速くなるに連れて実質賃金が伸び悩む一次取得者の購入予算レンジとの乖離も目立つようになり、新築マンション市場ではメインターゲットを資金面で比較的余裕があるアッパーミドル以上の購入層や投資家などに絞り込む方向でシフトしています。一方、中古マンション市場では値頃感のある新築物件が供給されなくなったことを受けて、一次取得者を中心とする購入ニーズの受け皿となり、さらに中古価格の先高感への期待から“売り渋り”も相俟って、増加傾向にあった流通事例数は2012年を境に減少に転じていました。その後はミニバブル期のピーク価格を上回った頃から売り時と判断するケースが増え、また過度に価格高騰した物件を中心に成約に至るまでの動きが鈍り始めたこともあって、流通事例数は2015年以降再び増加しつつあるようです。
最近ではトレンドの転換期に差し掛かっているとも受け取れる動きを見せ始めている新築・中古マンション市場ですが、今後の行方を占う上でも供給戸数や流通事例数、新築・中古価格が直近に掛けてどのように推移しているのかについて詳しく見て行きましょう。
2013年をピークに供給戸数は5万戸程度の水準まで低下、2016年は49,443戸と微増
まずは新築マンションの供給戸数ですが、2010年以降は増加傾向で推移し、2013年には69,637戸とミニバブル期のピーク時に匹敵する規模となっていました。これは、前述の要因に加えて2014年4月の消費増税(5%→8%)を前にした駆け込み需要も大きく影響しており、東京都のみならず実需の購入者がメインとなる周辺3県でも相応の規模で新築マンションが供給されていたようです。その後は消費増税による反動や価格高騰などを受けて、2014年には52,455戸、2015年には48,610戸と、リーマン・ショック後の2009年当時と大差ない5万戸程度まで急減しました。市場規模が縮小する中で、新築マンションの供給立地はメインターゲット層が志向する都心部やその周辺など利便性の高いエリアに集中するようになり、2015年には東京都での供給シェアが66.8%を占めるまでに至りました。2016年に入ると相続増税対策でのタワーマンション購入に陰りが見え始め、またミニバブル期を超える価格水準となったことで“様子見”を決め込む購入者も増えたために、東京都での供給戸数は2009年以来の3万戸割れとなりました。それに対して、周辺3県では消費増税(8%→10%)に向けて一次取得者向けの値頃な物件を計画・供給する動きが強まったことから供給戸数は軒並み増えて、首都圏全体では僅かながら3年ぶりの増加となりました。(※結果的に消費増税が先送りされたことで、物件によっては供給が2017年以降に延期もしくは凍結されたケースも発生していました)。
購入ニーズの受け皿となった中古マンション、2015年以降は事例数が再び増加傾向に
次に中古マンションの流通事例数について見てみましょう。先行きの不透明感が増す中で市況が芳しくなかったことに加え、2000年前後の“大量供給時代”に新築分譲されたマンションが中古流通の“適齢期”を迎え始めたこともあり、流通事例数は2009年以降急速に増加していき、2年後の2011年には約2倍に、翌2012年には466,470件まで膨れ上がりました。2013年になると新築マンションと同様に中古マンションも好調な売れ行きとなって事例数は減少に転じ、消費増税後も新築に比べて割安な価格であることや流通量の多さなどから、一次取得者を中心に購入ニーズを集め続け、2014年には352,027件まで減少するに至りました。しかし、2015年になると中古価格においても一次取得者の購入予算レンジをも逸脱する水準まで高まったこと、さらに一部エリアで価格調整が進み始めた新築に対して割安感が薄らいだことを背景に、流通事例数は再び増え始め、2016年には403,115件と2013年に匹敵する水準まで増加していました。特に、価格高騰の度合いが強かった東京都では事例数の積み上がり方も大きく、2013年と2016年における各都県での流通事例数を見比べても東京都だけが2013年当時の事例数を上回っています。
東京23区での中古マンション価格、高水準を意識&割安感の薄まりから調整局面へ
新築・中古マンション価格の推移を見るに当って、最近では都市部に位置する分譲マンションが新規供給・中古流通する割合が増えてきている影響から、都県毎のマンション価格は実態以上に上振れる傾向が強まっていますので、ここではそれらバイアスを極力抑えるために各主要都市でのデータを掲出してみました。
程度の差こそありますが、いずれの主要都市でも新築マンションの価格高騰につられる形で中古マンション価格も上昇しており、また各築年帯でも概ね並行した動きを見せています。中古マンションでは基本的に築年帯によって価格水準に差(築浅>築古)がありますが、東京23区では「21年~30年」と「31年以上」でほとんど価格差が見られません。これは東京23区に限った特徴で、築古物件の中にも都心部やその周辺など立地条件の良いマンションが存在しており、その利便性などから相応に価値が保たれているものとみられます。
新築・中古マンションの価格差に着目してみると、東京23区では2015年以降に縮まり始め、2016年時点では「新築」と「築10年以内」の価格差はほとんどなくなりつつあります。これまで、価格高騰した新築マンションに対する割安感を背景に上昇し続けてきた中古マンション価格ですが、新築マンションと同様に過度な価格上昇は当然ながら“購入者離れ”につながりますし、価格を押し上げていた要因の弱まりもあって直近に掛けては高水準にて調整局面を迎えています。
他の主要都市においては、2016年に入ってから値頃感のある新築物件が供給され始めたことで新築マンション価格に弱含みの動きも見られますが、中古マンション価格の割安感はまだまだ保たれているようです。最近ではターミナル駅に隣接する駅や最寄駅から徒歩10分前後に立地するエリアで販売価格を抑えた新築マンションを供給する動きも出始めていますが、大手デベロッパーの寡占化が進んだ新築市場においては大幅な値下げもされにくく、中古マンションが一次取得者の購入ニーズの受け皿である状況は今後しばらく続いていくものと考えられます。
新築・中古マンションとも価格調整局面入りするエリアが散見され始めたことで、さらなる価格下落を期待する声は高まってきており、しばらくの間は様子見を決め込むケースも増えてきています。一方で、住宅ローンの目安となる長期金利がここ最近ではマイナス圏を脱して緩やかに上昇しつつあり、購入検討者を中心に先高感を懸念する声や将来的な支払い負担の増加を心配する声が聞かれ始めていますし、良い条件の物件があれば買いのスタンスを取られている方々も依然としておられるようです。価格調整局面に入った中古マンション市場においては“主導者なきマーケット”となったことで、強気の値付けがされていた以前に比べれば売主側が価格改定の交渉に応じてくれやすい環境になりつつありますし、競合物件が増えることでさらなる価格下落を嫌気して相場価格に則して値付けをするケースも増えてきています。このように、方向性があまり定まっていないマンション市場ですが、間もなく2017年春の商戦期を迎えます。売買するか・様子見するかを決めかねている方もいらっしゃると思いますが、とりあえず商戦期での市況に注視した上でスタンスを決めるのも一手なのではないでしょうか。
【近畿圏・中部圏】は次回解説予定です。
※データ提供:東京カンテイ