リーマン・ショック後、中古マンションは買いやすくなったのか
年収倍率から検証する中古マンションの価格動向
東日本大震災後、新築マンションの供給戸数は全国的に減少しています。大きな災害を目の当たりにして購入(消費)意欲が減退したこと、建築部材の調達や輸送(サプライチェーン)が毀損して竣工予定に目処が立たない物件が出てきたこと、電力不足によって計画的な分譲が困難になったことなどが主な要因です。2011年の年初には昨年来の需要回復からデベロッパー各社は強気の分譲計画を発表し、例えば首都圏では5.5万戸、近畿圏でも2.5万戸の新規供給が見込まれていたのですが、震災によってその計画は変更を余儀なくされ、現状では首都圏4万戸前後、近畿圏でも1.8万戸前後と2010年を下回る可能性が出てきました。日本の景気を下支えする不動産業、自動車産業などが打撃を受けたことによって、震災による日本の経済的損失はこれから明らかになるものと思われます。
ただし、このような経済環境にあっても、各世帯・家計においては出産や転勤、相続など様々なライフステージの変化によって、住宅購入の必要に迫られるケースは常に発生します。これらのニーズの受け皿として機能するのが、これまでに分譲され各地域にストックされてきた中古マンションです。立地や築年数、間取りや専有面積も実に様々なので、購入条件に合った物件を探し出すことが比較的容易です。今後、中古マンション市場の裾野が広がっていくことを考えると価格の推移も大いに気になるところです。
下記の一覧表は、東京カンテイが毎年公表している「新築・中古マンション価格の年収倍率」から2009年と2010年の築10年中古マンションの年収倍率だけを都道府県ごとに抜粋したものです。これによると、中古マンションの年収倍率は全国平均で2009年の3.88倍から2010年は4.06倍に拡大しています(年収倍率①で比較)。70m²
に換算した価格が1,708万円から1,782万円へと4.3%上昇したのに対し、平均年収は440万円から439万円へと1万円(0.2%)下落したことによるものです。価格は強含んでいるのに購入者の平均年収が上がっていないことでやや買いにくくなっているようです。ただし同じ年収で比較した新築マンションの年収倍率が全国平均では6倍に達していることを考慮すると、中古マンションの価格の安さがわかります。
首都圏平均も同様に2009年の5.22倍から5.53倍に拡大しています。これは中古マンション価格の上昇が主な要因です。特に東京都では4,199万円から4,575万円へと8.9%の大幅な価格上昇を示しており、年収倍率も6.86倍から7.40倍へと拡大しました。2010年は新築マンションの供給が少し戻ったとはいえ、都心部およびその周辺エリアでのコンパクトタイプの新規分譲が中心だったため、ファミリータイプを求める購入者層が中古マンションにシフトしたことで価格の上昇が発生しました。当然のことながら東京都の年収倍率は全国で最も高く、中古マンションが日本で一番多くストックされているのに、一番買いにくい地域でもあります。
近畿圏および中部圏でも中古マンションの年収倍率は拡大しています。近畿圏平均は2009年の4.09倍から4.39倍へと、中部圏平均も3.70倍から3.80倍へと拡大しました。特に近畿圏では平均年収が下落したことも年収倍率を押し上げる要因になっています。中部圏は三圏域の中では年収も価格も最も安定しており、倍率も3倍台に留まっていることから中古マンションが買いやすい地域であると言えます。新築マンションの年収倍率が6.10倍であることを見ても、中古マンションの買いやすさが目立ちます。
なお、今回は都道府県ごとの一戸あたりの平均価格を基に算出した年収倍率(年収倍率②)も併記しました。大抵の都道府県では専有面積が 70m²
を超えており、実際に購入する際の価格は 70m²
換算価格よりもやや高めです。したがってごく一部の地域を除いて年収倍率も拡大します。北海道や愛知県、福岡県などでは広い物件が数多く流通しているので、年収倍率も大きくなります(倍率差を参照)。 70m²
換算価格を基に算出した年収倍率は都道府県ごとの買いやすさを比較するためのものです。一戸あたりの平均価格を基に算出した年収倍率は実際の買いやすさを見るものとしてお使い下さい。
これらのデータから、新築マンションの全国的な供給減少によって中古マンションにニーズがシフトし、価格の上昇が発生しているために年収倍率が拡大する状況にあることがわかりました。今後も震災の影響で新築分譲はその供給戸数が限られますから、中古マンションを求める購入者が相対的に増えることが予想されます。年収倍率から見ても中古マンションは圧倒的に価格の優位性があり依然として買いやすい状況にありますが、年収倍率の推移から地域相場観を把握し、物件選びの参考にして下さい。
※データ提供:東京カンテイ