新築マンションの価格調整が「買いやすさ」に与えた影響とは?
新築・築10年中古マンション価格の年収倍率(2010年と2011年の比較)
毎年、この時期に「マンションの買いやすさ」を見る指標として『マンション価格の年収倍率』が不動産シンクタンクの東京カンテイから公表されていますが、2011年における新築マンションの全国平均は6.27倍と、前年の6.01倍から0.26ポイント拡大して直近では最も買いにくい状況になっているようです。これは、都道府県別の一覧表を見てもわかるとおり、①東日本大震災の影響で岩手県などの被災地を含む8県で分譲実績が確認できず、結果的に価格水準の高い都市圏の分譲シェアが拡大したためにマンション価格(70m²
換算)が99万円上昇したこと、②平均年収が全域的に低下して、全国平均も前年から2万円ほどマイナスになったこと、などが要因として挙げられています。
しかし各圏域での年収倍率を見てみると、その様相は若干異なっているようです。首都圏では主な供給先である東京都や神奈川県において新築マンションの価格調整が進んだ結果、新築マンション価格の首都圏平均は84万円下落し、年収倍率も7.91倍と前年の7.94倍から僅かに縮小しています。直近で最も年収倍率が高かった2009年(8.17倍)から緩やかに縮小しており、少しずつ買いやすくなっている様子が窺えます。近畿圏では新築マンションの価格調整の遅れや価格水準が低い和歌山県での分譲実績がなかったことで、新築マンション価格の近畿圏平均が221万円も上昇してしまい、年収倍率は急拡大して7.55倍と2003年の集計開始から初めて7倍を突破しました。また、中部圏では首都圏と同様に平均年収の低下を新築マンション価格の下落が上回り、年収倍率は6.08倍と前年の6.10倍からやや縮小しています。
一方、中古マンションの買いやすさはどうなっているでしょうか。2011年における全国平均は4.32倍と前年の4.06倍から0.26ポイント拡大しており、中古マンションが最近の新築マンションの供給減少によって購入者ニーズの受け皿となったことでマーケットが活性化しており、新築と同じようにやや買いにくくなっているようです。各圏域における年収倍率を見てもこの傾向に変化はなく、首都圏で5.76倍(+0.23ポイント)、近畿圏で4.56倍(+0.17倍)、中部圏で4.03倍(+0.23ポイント)といずれも拡大しており、直近においては最も高い水準となっています。しかし、新築マンションの供給戸数が増加に転じ、価格調整も進んでいる東京都などでは、ニーズが再び新築マンションへとシフトし始めたことで中古マンション価格が弱含みつつあり、前年よりも年収倍率が縮小して僅かに買いやすくなっている様子も見られます。
直近7年間における年収倍率差(新築-築10年中古)の推移
下の表は直近7年間における新築と築10年中古マンションの年収倍率の差を算出したもので、年収換算で中古マンションが新築マンションよりもどの程度買いやすい状況にあるかを示したものです。
近畿圏では2011年に2.99ポイントと直近での最大値を記録しており、中古マンションの割安感が際立つ結果となっています。一方、首都圏や中部圏では年収倍率差のピークを越えて2011年にはそれぞれ直近7年間での平均的な水準まで縮小してきていますが、水準自体はミニバブル以前の2005年に比べると上回っている状態が続いており、中古マンションの割安感は依然として強いことが言えるでしょう。
各都市圏での2012年の新築マンション供給戸数は、東日本大震災の影響で低迷した前年を上回ることが予想されており、供給エリアも中心部からその周辺へと拡大する動きも見られ始めているため、価格調整が一段と進む可能性もあります。新築マンション価格が下落すれば中古マンション価格も調整せざるを得なくなるため、平均年収の下落基調を考慮しても新築・中古マンションの年収倍率は緩やかに縮小していくものと考えられます。マンション価格や年収倍率が低下している局面では価格高騰時と比較して買いやすさばかりが強調されがちですが、これからは年収倍率の差にも着目し、マンションの買い時を総合的に判断することが大切です。
※データ提供:東京カンテイ