「今話題の新築マンション供給エリア」には値ごろ感があるの?【近畿圏・中部圏編】
今回は、先月公表した分譲マンションの値ごろ感について、近畿圏・中部圏のエリアごとの状況を見ていきましょう。関西や名古屋でも新築マンションの価格が賃料見合いで割安なのか割高なのかを、マンションPER(※)を使用して検証します。 近畿圏では近年、「梅田」や「阿倍野」などの駅周辺エリアで大規模再開発に伴うタワーマンションが増えたことによって、大阪市中心部にマンション供給が集中する傾向にあります。また、中部圏ではやや新築マンションの供給が低調ですが、主に大手デベロッパーによるマンション開発が続いていることから価格調整局面を迎えることなく、新築マンション価格は高止まっていて賃料見合いでの割高感が強まっているようです。 首都圏と同様に、都市圏中心部をはじめ人気エリアでも住宅地・商業地の地価は上昇し始めていますので、大阪市や名古屋市などの新築マンション価格も今後上昇していく可能性は十分考えられますが、現時点における値ごろ感は果たしてどうなのかについて、直近5年間でサンプル数が豊富な駅を抽出しました。
※マンション価格が周辺の賃貸物件(分譲マンションの賃料を使用しています)の相場賃料の何年分に相当するか=購入を検討している分譲マンションの価格が周辺の相場賃料換算でどれくらいの期間で換算できるか、を示す数値。マンションPERが低ければ回収期間が短いことになりますから収益性が高く、反対に高ければ収益性は低いことになります。
(データ協力:東京カンテイ )
(1)大阪市中心部
大阪府 主要駅別新築マンションPERの推移
沿線名 | 駅名 | 2009年 PER |
2010年 PER |
2011年 PER |
2012年 PER |
2013年 | ||
新築マンション PER |
70m²
価格 (万円) |
70m²
賃料 (円/月) |
||||||
北大阪急行電鉄線 | 千里中央 | 37.36 | 35.29 | 31.74 | 27.23 | 24.40 | 3,856 | 131,706 |
京阪中之島線 | 中之島 | 31.59 | 24.03 | 21.30 | 17.98 | 15.83 | 3,393 | 178,633 |
大阪市営地下鉄御堂筋線 | 梅田 | 17.48 | 15.69 | 23.47 | 19.01 | 16.85 | 3,977 | 196,724 |
大阪市営地下鉄千日前線 | 西長堀 | 24.60 | 23.81 | 25.26 | 24.22 | 21.51 | 3,577 | 138,597 |
南海本線 | 難波 | 12.71 | 13.46 | 16.25 | 13.84 | 12.98 | 3,216 | 206,516 |
大阪府の新築マンションPERを見ると、大阪市中心部の「難波」が12.98と最も数値が小さく(=収益性が高く)、2013年では大阪府平均の22.66に比べて購入資金の回収期間が約10年も短くなっています。2009年以降5年間にわたって安定した数値を示していますので、近畿圏内で“買って貸すのに最適なエリア”の一つであると言えるでしょう。同じく中心部の「中之島」「梅田」「西長堀」では、新築マンションの価格調整によって直近にかけて収益性が上昇しており、中でも「中之島」や「梅田」は70m²
に換算した月額賃料が18万円~20万円と高水準であるために、マンションPERは「難波」と遜色ない水準になっています。
北摂の人気住宅地である「千里中央」のマンションPERは24.40と、2013年時点でも大阪府の平均を超えており、あまり収益性が芳しくない状況ですが、新築マンションの価格下落によって、収益性は2009年の37.36から約13年分も改善されています。
(2)神戸市および周辺エリア
兵庫県 主要駅別新築マンションPERの推移
沿線名 | 駅名 | 2009年 PER |
2010年 PER |
2011年 PER |
2012年 PER |
2013年 | ||
新築マンション PER |
70m²
価格 (万円) |
70m²
賃料 (円/月) |
||||||
JR神戸線 | 三ノ宮 | 24.81 | 24.25 | 23.05 | 23.20 | 21.77 | 4,337 | 166,050 |
阪急神戸線 | 西宮北口 | 38.94 | 25.85 | 22.57 | 22.28 | 21.99 | 3,782 | 143,367 |
阪急伊丹線 | 伊丹 | 24.28 | 23.14 | 24.76 | 26.03 | 25.78 | 3,044 | 98,391 |
阪急神戸線 | 六甲 | 26.22 | 33.19 | 25.45 | 25.70 | 30.86 | 4,172 | 112,654 |
JR神戸線 | 甲子園口 | 27.66 | 25.61 | 25.47 | 27.56 | 29.71 | 4,175 | 117,098 |
兵庫県の主要駅の中でも「三ノ宮」や「西宮北口」は交通利便性が高く、また駅周辺に大規模商業施設があることで生活利便性も良好です。そのため、月額賃料は14万~16万円程度と高い水準を維持しており、優良な収益性を下支えしている一因と言えるでしょう。両駅の2013年時点でのマンションPERは「三ノ宮」が21.77、「西宮北口」が21.99と兵庫県平均より良好で、特に「三ノ宮」の収益性は2009年以降良好な水準を維持しています。
一方、「伊丹」「六甲」「甲子園口」の収益性はやや悪化しています。これらの駅の新築マンション価格はここ数年強含んでいるために、上記の2駅とは対照的にそれぞれのマンションPERは上昇基調(=収益性は悪化)で推移しており、収益性自体も兵庫県平均を下回る状態が続いています。
(3)名古屋市内
名古屋市 主要駅別新築マンションPERの推移
沿線名 | 駅名 | 2009年 PER |
2010年 PER |
2011年 PER |
2012年 PER |
2013年 | ||
新築マンション PER |
70m²
価格 (万円) |
70m²
賃料 (円/月) |
||||||
名古屋市営地下鉄東山線 | 藤が丘 | 28.86 | 29.27 | 22.59 | 22.38 | 24.12 | 2,823 | 97,538 |
名古屋市営地下鉄東山線 | 池下 | 28.20 | 33.65 | 26.76 | 29.14 | 28.24 | 4,557 | 134,487 |
名古屋市営地下鉄名城線 | 自由ヶ丘 | 20.79 | 23.03 | 23.30 | 22.59 | 21.50 | 3,099 | 120,108 |
名古屋市営地下鉄鶴舞線 | 庄内通 | 23.28 | 23.05 | 22.87 | 21.87 | 22.94 | 2,631 | 95,579 |
名古屋市営地下鉄名城線 | 八事 | 29.49 | 27.14 | 34.79 | 29.45 | 32.09 | 4,168 | 108,259 |
冒頭中部圏では全域的にマンション価格の高止まりによって賃料見合いで割高感が強まっていると説明しましたが、名古屋市内の駅ごとの動向を見ると一概に収益性が悪化しているとは限らないことがわかります。
中部圏有数の人気住宅地である「池下」や「八事」では、新築マンションは概ね4,000万円台~5,000万円台と強気に価格設定されるケースがあり、マンションPERは「池下」で28.24、「八事」も32.09とともに名古屋市平均を常に超えています。
一方、「藤が丘」「自由ヶ丘」「庄内通」のマンションPERは3年連続で名古屋市平均を下回っており、市内では収益性が良好なエリアと言えるでしょう。特に、「自由ヶ丘」は21.50と新築マンションの価格調整が進んでいることも手伝って、収益性が改善する傾向が見られます。
前回と今回を通じて賃料見合いでの新築マンションの値ごろ感について見てきましたが、各圏域で共通して言えることは、中心部の駅の方が良好な収益性を示す傾向が強かったという点です。中心部は地価水準や利便性の高さから新築マンション価格も高額であるために、割高なイメージを抱かれてしまいがちです。しかし、月額賃料という“物差し”をあててみると賃料水準も極めて良好で、賃料見合いで考えるとマンション価格が割安であることがわかります。つまり価格の「絶対値」は高いのですが、「相対的に」見ると決して高くないのです。反対に郊外エリアのマンションは、価格自体は安いのですが賃料水準の低さから割高になるケースも数多くあります。
ただし、今回調査した2013年時点では値ごろ感を示していた都市中心部も、地価の上昇や資材価格および建築労務費の上昇、さらには景気拡大に対する期待もあって、新築マンション価格は今後上昇する可能性が高まっています。賃料はマンション価格のように市況に大きく左右されることはないので、購入を検討されているマンションの価格が割高なのか割安なのかを判断する材料として参考にしてみてください。
※データ提供:東京カンテイ