公示地価と実勢地価の「乖離率」(中部圏)
中心市街地ではミニバブルの影響もあるが、実需中心の安定したマーケット
公示地価とは、地価公示法に基づいて正常価格(自由な取引において通常成立すると認められる価格)を算定したものであり、一方、実勢地価は景気動向や開発状況などによって変化する実際の取引価格ですが、この2つがどれだけ乖離しているかを表す数値が「乖離率」です。これを見ることによって、実際の土地取引にどの程度過熱感が生じていたのかを数値で検証することができます。
前回のコラムに示した通り、首都圏、近畿圏ではバブル期(1990年前後)およびミニバブル期(2007年前後)には特に中心市街地で乖離率が拡大していましたが、中部圏(岐阜県、愛知県、三重県)では、地価推移にどのような傾向が生じているのでしょうか。
東京カンテイが保有する愛知県の実勢地価データでは、2009年の平均坪単価は29.1万円で前年比-6.0%、名古屋市でも51.0万円で前年比-7.1%と、ともに弱含みの推移となっています。一方、2010年1月1日時点の公示地価では、愛知県の住宅地では前年比-2.6%、名古屋市も-4.0%と下落傾向にありますが、名古屋市緑区の地下鉄延伸が予定されているエリアの5地点で変動率がプラスに転じるなど僅かながら明るい兆しも見られます。今回は中部圏で、行政区別に住宅地の実勢地価(2009年平均)と公示地価(2010年1月1日時点)の乖離率を算出し、上位20位を掲出しました。
2009年 中部圏 実勢地価と公示地価の「乖離率」上位20位
坪単価:万円 | 2009年 実勢地価 | 公示地価 (2010年1月1日時点) |
「実勢/公示」 乖離率 |
|||
事例数 | 坪単価 | 標準地数 | 坪単価 | |||
1 愛知県 |
名古屋市東区 |
356 | 101.5 | 11 | 78.5 | 129.3% |
2 愛知県 |
名古屋市熱田区 |
85 | 70.8 | 9 | 55.6 | 127.5% |
3 三重県 |
鈴鹿市 |
636 | 16.0 | 30 | 14.0 | 114.1% |
4 愛知県 |
名古屋市北区 |
591 | 53.5 | 19 | 48.5 | 110.4% |
5 愛知県 |
名古屋市瑞穂区 |
762 | 69.9 | 20 | 64.0 | 109.2% |
6 岐阜県 |
多治見市 |
555 | 13.3 | 16 | 12.7 | 104.9% |
7 愛知県 |
名古屋市西区 |
375 | 51.8 | 16 | 49.5 | 104.7% |
8 愛知県 |
刈谷市 |
444 | 39.2 | 29 | 37.9 | 103.4% |
9 愛知県 |
名古屋市昭和区 |
524 | 72.1 | 16 | 69.9 | 103.1% |
10 愛知県 |
名古屋市緑区 |
1494 | 40.5 | 49 | 39.4 | 102.7% |
11 岐阜県 |
各務原市 |
673 | 18.6 | 22 | 18.1 | 102.7% |
12 三重県 |
津市 |
1251 | 16.1 | 37 | 15.8 | 102.1% |
13 三重県 |
伊勢市 |
62 | 16.2 | 12 | 15.9 | 102.0% |
14 三重県 |
四日市市 |
1466 | 17.3 | 64 | 17.4 | 99.9% |
15 愛知県 |
知立市 |
313 | 35.0 | 18 | 35.3 | 99.3% |
16 愛知県 |
名古屋市千種区 |
735 | 68.9 | 26 | 70.4 | 97.8% |
17 愛知県 |
名古屋市天白区 |
743 | 47.1 | 34 | 48.2 | 97.6% |
18 愛知県 |
名古屋市名東区 |
1151 | 55.2 | 28 | 57.2 | 96.6% |
19 愛知県 |
知多市 |
603 | 25.1 | 16 | 26.0 | 96.6% |
20 三重県 |
桑名市 |
474 | 18.4 | 38 | 19.2 | 95.8% |
※実勢地価は東京カンテイ、公示地価は国土交通省のデータに基づく |
中部圏では、乖離率が100%を超える13行政区のうち約半数にあたる7区が名古屋市内で、乖離率が高い地域は愛知県に集中する傾向があります。この傾向は過去においても変わらず、住宅地として人気が高く、戸建住宅やマンションがコンスタントに供給されている地域ほど乖離率が高くなる傾向が見られます。1位の東区は白壁・主税・橦木地区などの高級住宅地を擁するエリアですが、乖離率は129.3%にとどまっています。首都圏1位の墨田区(168.3%)や2位の川崎市中原区(152.0%)のような大きな乖離は見られませんし、四日市市以下は乖離率が100%を下回って公示地価が実勢地価を上回っています。乖離率が首都圏ほど大きくならないのは、投資目的の資金流入が比較的少なく、実需中心のマーケットであることが一番の要因です。地価が比較的安定していて大きな変動を示さないので、相場観が形成されやすく、流通の阻害要因になりにくいことがわかります。
2007年 |
2008年 |
2009年 |
|
名古屋市熱田区 |
104.1% |
109.4% |
127.5% |
名古屋市北区 |
90.4% |
102.5% |
110.4% |
名古屋市西区 |
98.8% |
104.2% |
104.7% |
2位の熱田区や4位の北区、7位の西区を見ると、もともと工業地として開発されてきたエリアも含んでいるため住宅地価が比較的安価な水準となっていますが、直近の乖離率の推移を見ると、これらの地域では緩やかながら拡大する傾向にあります。近年のショッピングセンターや交通網などの都市開発が奏功し、居住ニーズも徐々に高まっています。
ランキング表の通り、公示地価と実勢地価の乖離率が景気拡大期に拡大し景気低迷期に縮小する傾向は、首都圏や近畿圏と同様中部圏の中心市街地でも確認することができます。同時に、首都圏のように投資マネーの流入が活発ではなく、実需中心のマーケットである中部圏は、乖離率の数値が大きくならず土地取引に過熱感が生じにくいという特徴もデータによって示されているのです。
※データ提供:東京カンテイ