公示地価と実勢地価の「乖離率」(首都圏・近畿圏)
実際の土地取引が活発な地域ほど、価格差が大きくなる!?
公的な地価データである「公示地価」が3月18日に公表されました。東京圏の住宅地では前年比-4.9%、大阪圏でも前年比-4.8%と地価の下落トレンドがより鮮明になりました。
一方、東京カンテイが保有する住宅地の地価集計データ(以下、実勢地価)によれば、2009年の首都圏(1都3県)における平均坪単価は80.1万円で前年比-16.0%の大幅下落、近畿圏(2府4県)における平均坪単価も40.0万円で前年比-4.2%と公示地価と同様の下落傾向を示しています。
公示地価は地価公示法に基づいて正常価格を判定したものであり、合理的・客観的な市場価格を表したものとされています。しかし実際の土地取引は、新線・新駅の開業や都市開発の進度によって価格が上昇したり、反対に現在のように景気の悪化に伴って需給バランスが崩れて下落したりすることがあるため、公示地価とは異なる動きを示すことが少なくありません。
今回は首都圏と近畿圏で行政区別に住宅地の実勢地価(2009年平均)と公示地価(2010年1月1日付時点)を比較し、その「乖離率」を算出し、上位20位を掲出しました。公示地価は本来、標準地点ごとの地価を示す指標ですが、今回は行政区別に掲出した実勢価格と比較するために公示地価のポイントを行政区別にまとめて平均値を算出し比較しています。実勢地価は全ての売り希望価格を、公示価格と時期を合わせるために2009年の年間平均で集計しています。
公示地価と実勢地価とに、どのような違いがあるのか見てみましょう。
2009年 首都圏 実勢地価と公示地価の「乖離率」上位20位
坪単価:万円 | 実勢地価 (2009年・年間平均) |
公示地価 (2010年1月1日時点) |
「実勢/公示」 乖離率 |
|||
事例数 | 坪単価 | 標準地数 | 坪単価 | |||
1 東京都 |
墨田区 |
222 | 167.5 | 2 | 99.5 | 168.3% |
2 神奈川県 |
川崎市中原区 |
158 | 155.9 | 24 | 102.6 | 152.0% |
3 東京都 |
江東区 |
180 | 174.0 | 11 | 118.1 | 147.4% |
4 神奈川県 |
川崎市川崎区 |
144 | 122.9 | 18 | 87.7 | 140.2% |
5 神奈川県 |
川崎市幸区 |
96 | 129.5 | 12 | 93.0 | 139.3% |
6 神奈川県 |
横浜市神奈川区 |
327 | 100.9 | 26 | 75.1 | 134.5% |
7 千葉県 |
浦安市 |
233 | 127.8 | 22 | 95.1 | 134.4% |
8 神奈川県 |
横浜市港北区 |
458 | 114.9 | 53 | 87.4 | 131.4% |
9 神奈川県 |
横浜市西区 |
118 | 102.8 | 8 | 78.4 | 131.1% |
10 神奈川県 |
横浜市中区 |
236 | 121.9 | 16 | 94.9 | 128.4% |
11 東京都 |
豊島区 |
302 | 196.2 | 24 | 154.1 | 127.4% |
12 東京都 |
北区 |
205 | 153.3 | 24 | 122.3 | 125.4% |
13 東京都 |
大田区 |
1005 | 187.1 | 46 | 149.4 | 125.3% |
14 神奈川県 |
川崎市高津区 |
188 | 106.3 | 27 | 85.1 | 125.0% |
15 東京都 |
品川区 |
417 | 246.0 | 20 | 198.8 | 123.8% |
16 埼玉県 |
さいたま市浦和区 |
337 | 102.2 | 21 | 84.0 | 121.6% |
17 東京都 |
江戸川区 |
689 | 123.0 | 70 | 101.7 | 121.0% |
18 東京都 |
世田谷区 |
1997 | 207.6 | 117 | 171.9 | 120.8% |
19 神奈川県 |
横浜市青葉区 |
592 | 101.9 | 54 | 84.8 | 120.2% |
20 東京都 |
西東京市 |
468 | 103.0 | 32 | 86.6 | 119.0% |
※実勢地価(2009年に平均坪単価が100万円以上の地域を集計)は東京カンテイ公示地価は国土交通省のデータに基づく |
乖離率上位20位のうち、東京23区からは8区、神奈川県横浜市と川崎市がともに4区ランクインしており、特に住宅流通の盛んな都市圏中心部では実勢地価が公示地価を上回る傾向があります。
この傾向は1990年前後のバブル期や2007年前後のミニバブル期に顕著です。ランキング1位の墨田区の「乖離率」を遡ると、バブル期の1990年前後には公示地価の300%超、ミニバブル期の2007年でも200%超の地価水準に達しており、実際の土地取引に過熱感が生じていたことがわかります。
公示地価は土地取引の目安としてその変動率の推移に注目が集まりますが、人口および事業集積が進んで利用価値がもともと高い地域では、バブル期など景気の拡大期には公的な地価水準を大きく上回る価格で取引されるケースが多数発生し、それがまた地価上昇の呼び水となるという地価上昇スパイラルが発生します。その意味で今回のランキングはミニバブル期の地価上昇の度合いを示すものと見ることもできます。
2009年 近畿圏 実勢地価と公示地価の「乖離率」上位20位
坪単価、公示地価 :万円 | 実勢地価 (2009年・年間平均) |
公示地価 (2010年1月1日時点) |
「実勢/公示」 乖離率 |
|||
事例数 | 坪単価 | 標準地数 | 坪単価 | |||
1 大阪府 |
大阪市中央区 |
102 | 197.8 | 2 | 143.0 | 138.3% |
2 京都府 |
京都市下京区 |
290 | 89.1 | 3 | 71.7 | 124.1% |
3 兵庫県 |
神戸市中央区 |
388 | 100.2 | 16 | 84.6 | 118.5% |
4 京都府 |
京都市東山区 |
143 | 80.0 | 7 | 72.4 | 110.6% |
5 大阪府 |
大阪市北区 |
126 | 130.1 | 2 | 119.0 | 109.3% |
6 京都府 |
京都市中京区 |
362 | 89.2 | 3 | 82.3 | 108.3% |
7 大阪府 |
大阪市天王寺区 |
201 | 148.2 | 7 | 144.2 | 102.7% |
8 兵庫県 |
芦屋市 |
576 | 91.3 | 22 | 91.9 | 99.4% |
9 京都府 |
京都市西京区 |
726 | 62.9 | 26 | 64.4 | 97.7% |
10 大阪府 |
茨木市 |
1171 | 56.4 | 36 | 57.9 | 97.5% |
11 京都府 |
京都市右京区 |
1142 | 57.7 | 31 | 60.2 | 95.8% |
12 大阪府 |
吹田市 |
1441 | 62.0 | 59 | 66.3 | 93.5% |
13 大阪府 |
大阪市平野区 |
510 | 61.2 | 18 | 65.5 | 93.4% |
14 京都府 |
長岡京市 |
399 | 57.1 | 16 | 61.2 | 93.4% |
15 兵庫県 |
神戸市灘区 |
701 | 68.9 | 21 | 75.2 | 91.6% |
16 大阪府 |
箕面市 |
1155 | 54.0 | 29 | 59.1 | 91.4% |
17 京都府 |
向日市 |
331 | 54.9 | 9 | 60.1 | 91.3% |
18 兵庫県 |
西宮市 |
2657 | 66.2 | 99 | 74.3 | 89.1% |
19 大阪府 |
豊中市 |
2106 | 57.7 | 53 | 66.0 | 87.4% |
20 兵庫県 |
神戸市兵庫区 |
315 | 50.4 | 16 | 57.8 | 87.2% |
※実勢地価(2009年に平均坪単価が50万円以上の地域を集計)は東京カンテイ公示地価は国土交通省のデータに基づく |
近畿圏は首都圏ほど「乖離率」が大きくなく、8位の兵庫県芦屋市以下は100%を下回っていますが、上位には大阪市、京都市、神戸市など居住ニーズがもともと高い中心市街地や高級住宅地を擁する地域が並びます。
ランキング1位の大阪市中央区の「乖離率」は、1991年は公示地価の377.7%、1992年は470.4%、1993年には584.8%にまで達し、ミニバブル期の2007年でも215.2%と、やはり近畿圏でも首都圏同様に利用価値の高い地域ではニーズが集中することによって土地取引に過熱感が生じています。首都圏との違いはそのニーズの多寡による面的な広がりがあるかないかです。
中心部は過熱感が強くてもそこからやや離れた地域ではほとんどニーズの高まりが示されていません。投機マネーの流入が限定的であるという点で、近畿圏は健全な実需が中心のマーケットであると言えるでしょう。
住宅地価は、需給バランスはもちろん交通および生活の利便性、周辺環境など実に様々な価格形成要因が関係する複雑なものですが、今後は景気の低迷により少なくとも公示地価と実勢地価の「乖離率」は縮小する方向に推移するものと考えられます。
景気拡大期には公示地価と実勢地価との乖離率が拡大し、景気低迷期にはその差が縮小すること、また乖離率にも地域によって比較的大きな違いあることを理解し、ご自身が購入・売却したいと考える住宅地の価格相場観を把握してから不動産を売買することが、安全で確実な取引につながるのです。
※データ提供:東京カンテイ