中古マンション市場における流通戸数と価格改定の最新動向 2015年12月
~価格推移が下落に転じる前に市場ではどのような変化が生じているのか?~
東京23区や大阪市などの大都市圏中心部においては、2013年を境に中古マンション価格が上昇基調で推移しており、伸び悩む近郊~郊外エリアとの間で価格動向に顕著な“二極化”が生じています。これら都市中心部では既にミニバブル期を上回る価格水準に達してはいるものの、価格高騰している新築マンションに比べて築10年~15年の物件であれば2~3割程度も割安であることや、最近では一棟リノベーション事業に大手デベも続々参入していることも相俟って、中古マンションに対する購入ニーズがより一層高まっており、価格上昇トレンドに陰りは見られません。その結果、新築マンションと同様に中古マンション価格も連れ高が続いており、価格推移自体を見る限りでは直近においても“売り手市場”であることに変わりはないと思われます。
一方で、東京カンテイが毎月公表している「中古マンション70平米価格推移」の付属データによると、中古市場における価格以外の動きには早くも変化が見られ始めているようです。例えば、正味の在庫数を示す「流通戸数」※1では、これまでは需要過多や価格上昇期待を背景にした“売り渋り”によって減少傾向を示していましたが、2014年下半期に底打ちして以降は直近にかけて徐々に増加しつつあります。また、流通戸数のうち値下げを行った住戸の割合を示す「価格改定シェア」※2も縮小傾向が一服したり反転拡大する動きが出てきています。今回は、東京23区においてミニバブル期やその後の価格高騰局面を例に、中古マンション価格の推移と流通戸数などの各指標の動きとの間にどのような関連性があるのかを見ていくとともに、今後の中古マンション価格の行方について占っていきましょう。
※1「流通戸数」とは正味の在庫数であり、同月・同一住戸での重複事例を除外して算出しているため、これらを累計して算出する流通事例数を概して下回る。
※2「価格改定シェア」とは、各月での中古マンション流通戸数のうち直近3ヵ月間において一度でも値下げを行った住戸の割合である。また、これら住戸において当該期間で最も高い売出価格と最も安い売出価格から「値下げ率」を算出している。
流通戸数(=在庫数)は価格ピーク前には底打ち→増加傾向で推移
上のグラフは東京23区における過去10年間の中古マンション70平米価格と流通戸数の推移を表したもので、価格推移からは①ミニバブル期(2008年2月:4,728万円)と②その後の価格高騰局面(2010年6月:4,339万円)にそれぞれピークを形成していたことがわかります。これら価格ピーク前における流通戸数(=在庫数)の動向を見ると、それぞれタイムラグはあるものの、いずれも減少傾向から底打ちし増加傾向へシフトしている様子が確認できます。中古マンション市場では、価格上昇局面に移行した当初は好調な売れ行きに加えて先高感への期待から売り渋りも発生することで、流通戸数は減少する方向に向かいます。その後、ある程度価格水準が上昇していくに連れて売却を控えていた物件が流通し始めたり、購入希望価格との乖離拡大で取引自体が不調となったりすることで、結果的にマーケットにおける在庫数が積み上がるというわけです。なお、ここ数ヵ月での流通戸数の動きを見ると急激に増加しており、10月には10,827戸(前月比+9.8%、前年同月比+33.6%)で2013年12月以来の1万戸超えとなっています。
価格改定シェアは縮小→拡大へ、値下げ率はピーク直前に縮小鈍化や反転拡大
次に、価格改定シェアと値下げ率が価格ピーク前にどのような変化をしていたのかについて見てみましょう。まず価格改定シェアですが、こちらは前述の流通戸数と同様に縮小傾向から一転拡大に向かう様子が見て取れます。また、値下げ率は縮小傾向の鈍化や頭打ちを示しており、①ミニバブル期にはピーク直前で大きく反転拡大する動きも出ていました。価格上昇局面の当初においては、売り出された物件への引き合いも強まるために価格改定するケースも少なく、価格改定した場合でも値下げ率自体は小幅に留まります。しかし、一旦流通戸数が増加傾向に転じてしまうと売却する側にとっては競合相手が増えることを意味しますし、さらに価格高騰によって値ごろ感が弱まればこれまで以上に価格改定をする必要性が高まるために価格改定シェアは拡大に向かいます。また、大幅な値下げを余儀なくされるケースも増えるので、値下げ率自体も縮小鈍化や反転拡大となるわけです。
価格改定シェアが反転する時期は流通戸数のそれと概ね同じであることから、これら指標の動向は非常に関連性が高いと言えそうです。また、価格ピーク時における価格改定シェアは①ミニバブル期(32.4%)と②その後の価格高騰局面(24.1%)でそれぞれ異なっており、「○○%に達したら価格ピークを迎える」という一定の目安を見出すことはできませんが、価格ピーク直前に価格改定シェアがいずれも20%台後半まで急拡大するといった特徴が見られますので、今後同じような動きが生じた場合には価格上昇局面が終焉を迎える可能性が高まることが見込まれます。
市場変調の結果が最終的に“価格反転”という形で表れることを知る
新築・中古を問わず、マンション市場における市況を見る上では価格推移に着目することは最もオーソドックスな方法であり、客観的な数値データが様々な機関や会社から公表されているので、不動産業界に精通した方々のみならず世間一般の人々でも現在の価格トレンドを知る上では非常に有効な情報となっています。一方で、今回触れてきた価格推移と市場における各指標との関連性は“価格推移の潮目変化の前には必ず市場での動きに変調が生じていること”を示唆しており、価格反転はその結果であるに過ぎないと言えるでしょう。つまり、価格推移のみから市場の変化を判断したとしても、実際取引が行われている仲介の現場では既にトレンドが変わってしまっている可能性が高いのです。
今回示した各指標の特徴を基に今後のマンション市場の行方について考察してみると、価格推移は依然として上昇局面にある中で、流通戸数(=在庫数)は早くも底打ちしており、最近では急激に増え始めています。また、価格改定シェアや値下げ率については未だに反転する動きまでには至っておりませんが、価格改定シェアはここ2ヵ月ほどで急拡大しており、今後20%台後半~30%台にかけて急伸するようであれば、早ければ2016年上半期には中古マンション市場が一つの潮目を迎えることも視野に入ってくると思われます。ただし、これまで示した見解は東京23区におけるマーケットをマクロ的に俯瞰したものであり、当然ながらエリアや物件による違いがあることを考慮する必要はあります。
これまでの消費増税の際には駆け込み需要によって中古マンション価格は強含む傾向を示していることからも、2017年4月にかけては再び価格上昇するとの見通しがある一方で、前述のように中古マンション市場では流通戸数や価格改定シェアが変調を来し始めているのも事実です。したがって、2016年以降に中古マンション売買を検討されている方にとっては今年以上に市場を取り巻く情報やデータに対して一層敏感になることが求められると言えます。
※データ提供:東京カンテイ