2017年新築マンションと新築一戸建て住宅の最寄り駅からの徒歩時間別分布(バス便物件を除く) 2018年9月
今回は2017年1年間の新築マンションと新築一戸建て住宅のデータを使い、マンションと一戸建ての立地がいかに違うかを明らかにします。また、同時に10年前、20年前と比べこれらの傾向に時代による変化があるのかを考察します。いつものように東京カンテイのデータを基に見ていきましょう。
2017年は新築マンションと新築一戸建ての駅徒歩条件に違いが
最寄り駅からの徒歩時間別に2017年1年間に新規分譲されたマンションと一戸建て住宅と分譲戸数分布を見ると一戸建て住宅とマンションでは立地選択の差異が明確に表れる。(バス便物件を除いて25分まで集計)
新築マンションでは駅徒歩5分以内に強いこだわりを持って供給されていた様子がわかる結果である。マンションは都市型住宅として駅近の価値が高く評価される傾向がある。そのため5分だけでなく8分や10分にも山があり利便性の基準となっていることがわかる。また一戸建て住宅のような分布ではなく15分を超えると極端に分譲戸数が減少している。マンション立地が駅前の集中している最大の理由は、マンション自体の特性として「利便性重視」という考え方が買い手にも売り手にも共有されているからである。また、一戸建てとは異なり、投資適性が高いのも大きな違いで、そのためより賃料が高く取れ、ライバル物件が少なくなる駅近マンションが市場の中で優位性を持つためだと考えられる。
一方、新築一戸建て住宅は徒歩時間についてはほぼ正規分布している。中央値は15分にあり、やや駅近に分布が多くなっているものの、15分以遠にも分布している。このような傾向は首都圏・近畿圏・中部圏に共通して見られる傾向である。一戸建て住宅も駅徒歩条件とは無関係ではないものの、住環境や子育て環境の良さを求めて供給されることの多い一戸建ては、ほとんどが駐車場を備えていることから車通勤を前提に購入する人も多いため、結果として駅徒歩15分を中心に幅広く分布することが可能となっている。このほかの要因としては、駅周辺は都市計画上高度利用や商業用途を主眼に置いた計画が採用されているエリアが多いことで、かえって一戸建て住宅が供給しにくい環境となっていることがある。しかし駅から大きく遠ざかると、仮に車通勤であったとしても、買い物や子供の通学など他方面の生活利便性において支障が出てくるため、15分が分岐点となっているのと考えられる。
このような結果から一戸建て住宅の供給においては、新築マンションで起きているような供給立地の競合状況が起きにくいことは想像に難くない。そもそも一戸建ての用地は平均土地面積のデータでも明らかなように首都圏でも115.5㎡、近畿圏では121.6㎡、最も広い中部圏でも150.7㎡であり、基本的に一戸建て住宅以外の用途で流通する可能性が極めて小さい面積である。新築マンションの建築には最低でも300~500㎡の敷地が必要である。しかもグラフでも明確なように、より駅前用地を仕入れようとするホテルや事業用ビルなどと激しい競合が起き、結果的に価格の上昇を招いてしまう。
供給される新築一戸建て住宅では土地面積が狭いことと、駅前立地に強いこだわりを持たない用地仕入れが行われている理由で、近年特に新築マンションと大きな価格差が生まれやすい傾向となっているのである。
新築マンションの所要時間は以前と比べてより駅近に
新築マンションの駅徒歩条件における駅徒歩5分への集中は以前も同じ傾向であったのかを調べたのが下のグラフである。比較を行うために2017年のデータに加え、10年前と20年前、すなわち2007年と1997年を集計し、同様に掲出した。この分析は首都圏のみで行った。
2007年は「ミニバブル」と呼ばれた価格の上昇期に当たる年である。価格はこの時の価格上昇が起こる前の2005年と比べて2割ほど上昇していた。そのため、必ずしも駅前物件ばかりではなく、駅から20分を超えるような立地にも一定の戸数が分譲されていた。価格はその分抑えて設定しており、駅から多少離れても割安に購入できる物件が供給されていたことがわかる。
ただ2007年においても、駅徒歩5分以内の優位性は分譲戸数分布に表れており、「多少高額でもマンションは駅前に欲しい」という投資的な視点を当時から含んだマーケットであったと言えるだろう。2007年と2017年の大きな違いは、投資と実需を反映した立地選択、駅前を取るか価格を取るか、という「名」と「実」の選択が可能な市場であったと言うことである。これは当然現在の築10年の中古マンション市場に反映されており、駅徒歩10分を超えても値が張らない物件を求める購入希望者に、幅広い選択が可能な環境を提供していると考えることができるだろう。
1997年は長期デフレ期の真ただ中にあり、「山一ショック」「拓銀ショック」などの金融破綻が相次いだ年であった。地価の下落とともに、マンション価格は年々下落し、消費者にとって購入しやすい金額まで下がっており、同時に都心部の通勤利便性の高い好立地に「都心回帰」が起こっていた。この時代には投資的な側面がより薄くなっており、駅徒歩5分の「山」は生じているものの、9分まで分布が広がっている。また12分と15分にもそれぞれ「山」ができているが、逆に21分以遠にはほとんど分布していない。首都圏に年間8万戸以上 の新規分譲のあった時代でもあり、都心回帰も起きていたため駅条件を大きく損ねる必要もなかったという背景もある。
駅からの所要時間は限りなくゼロに近づくことはないと思われる。駅前が住環境として良好かは駅によるからである。ただ、2017年の新築マンションの分布を見ると実需より投資に向く物件が多く供給されていたことがわかる。これが近年の価格上昇とその後の高止まりの要因である。であるなら、あえて駅遠の物件を割安に購入する方法をとってみるというのも方法である。
(データ提供:東京カンテイ)