人口動態の最新資料が示す、今後の住宅ニーズとは
先日、新聞各紙で日本の総人口の減少が報じられました。1億2779万人と昨年から25万9千人(0.2%)の減少です。今日の日本は住宅の総数が既に世帯数を上回っている「家あまり」の状態ですが、人口は一律に減少しているわけではなく、都市部では依然としてマンションや戸建が1億円を超えることも珍しくない反面、地方圏では過疎化の進行で限界集落が発生する状況です。つまり人口動態によってマンション・住宅に対するニーズは地域ごとに大きく異なるのです。少子化で子どもの数は減少していますが、人口の流出入を都道府県別に見ると、依然として若者世代や住宅購入世代が多く流入している地域もあります。今回は、これまでとやや趣向を変えて、特定の地域にどの世代がどの程度流入しているのかを分析し、今後の住宅需要について予測してみます。
総務省が毎年公表する「住民基本台帳 全国人口要覧」には、都道府県および行政区単位で5歳ごとの人口が記載されています。これを最新版の2011年と2006年で都道府県ごとに比較したのが下の一覧表です。これは何を示しているかというと、2006年に20~24歳だった人は2011年には必ず25~29歳になっていますから、ある県の2006年の20~24歳の人口が仮に1万人であったとして、流入も流出もなければ5年後の2011年には25~29歳の人口が1万人となっているはずです。これを基に算出したのが一覧表の人口の年代別・地域別増減率(以下、増減率)です。増減率に変化がなければ0%、人口が減少していればマイナス、増加していればプラスとなります。
1.人口は全国的にみると20歳代の移動が激しい
人口の増減率が5%以上(5%以上の流入が認められる)地域および年代を青で示し、-5%以上(5%以上の流出が認められる)は赤で示しています。これらの動きをみると、20~24歳と25~29歳の年代で人の移動が著しいことがわかります。2006年当時15~19歳もしくは20~24歳の年齢だった人の多くが5年の間に居住地を移転しているということです。この年代は進学や就職期に該当しますが、特に20~24歳の増減率は極めて大きくなっていて、東京都では35%もの流入が認められます。神奈川県でも15%、千葉県は8%、埼玉県は6%と、首都圏への流入が目立ちます。また、愛知県が8%、京都府が7%、大阪府が9%と、三大都市圏の中心部には多数の流入が見られます。
反対に20%を超える大きな流出となっているのは青森県、岩手県、秋田県、島根県、長崎県、宮崎県、鹿児島県で、東北と九州に集中しています。また三大都市圏以外は、全国の大半の地域で5%以上の流出となっています。
次の25~29歳では就職だけでなく転勤・結婚などに伴う移転と考えられますが、この年代が多く流入している地域は、東京都、神奈川県、愛知県の3都県しかありません。京都府では20~24歳の増減率が7%と多数流入しているのですが、25~29歳の増減率は-7%と、流入してきた分だけ流出しています。つまり就学によって流入した人口のほとんど全てが就職時に流出してしまうのです。静岡県では20~24歳の増減率が-6%ですが、反対に25~29歳では+1%と僅かに流入に転じていることがわかります。愛知県は20~24歳の増減率が+8%、25~29歳でも+6%と流入が継続しています。つまり就学によって流入した後も就職によってさらに若年層の新たな人口増加が発生しているのです。
これらの年代は転居に伴って賃貸住宅、寮や社宅に住む場合がほとんどであると考えられます。したがって青で示した年代および地域は旺盛な賃貸需要があると考えられますが、将来の定住も期待されますから、潜在的な住宅購買層、エントリーユーザーと考えることもできるでしょう。
2.30歳代、40歳代はベッドタウンの千葉県、滋賀県で流入が顕著
30~40歳代になるとそれまで激しかった動きが止まり、人口移動が極めて落ち着いたものになります。この年代は一般に結婚や出産、転職などを経験する時期にあたります。また、一般的には「住宅購入適齢期」とも言われます。
30~40歳代で最も人口が多く流入したのは滋賀県です。滋賀県は30~34歳、35~39歳ともに3%流入しています。この年代に3%を超える流入を記録した地域は他にはありません。滋賀県は40~44歳で+2%、45~49歳でも+1%と流入が続き、この傾向は50歳代、60歳代になっても変わりません。滋賀県は25~29歳の世代では-3%ですが、他の年代はいずれも流入しています。
千葉県も同様の傾向を示していて、同県では30~34歳で+1%、35~39歳で+2%、40~44歳、45~49歳でともに+1%と、緩やかな流入が起きています。55~59歳と60~64歳も0%で人口は維持されています。千葉県では、東京への交通利便性が高いエリアにはマンションが比較的安い価格で購入可能で、千葉市近辺では戸建住宅も数多く供給されています。首都圏のベッドタウンとして各年代の人が流入していることがわかります。
3.50~60歳代は人口移動がほぼなくなる
50歳を過ぎるとさらに人口の移動は少なくなります。40歳代までにほとんど移動を終え、あとは特定の地域に住み続けるというのが多くの人の居住パターンのようです。
東京都は、60歳代では流出傾向になりますが、他の地域では±1%の増減率の変化にとどまっています。「都会を離れてゆったりと」というニーズがあっても「慣れ親しんだ土地を動きたくない」という気持ちも高齢になるほど強く働き、人口移動を鈍化させているようです。長野県のように若干流入している地域もありますが、同県は別荘地や豊かな自然に恵まれたところです。定年退職後に大都会を離れて自然の中でのんびり生活したいと考える人が流入しているようです。
このように、都道府県および年代ごとに人口の増減率には比較的大きな違いがあります。人の移動に伴って住宅ニーズが生じるので、どの世代が流入によって増加するかで、住宅の広さや分譲・賃貸の種別などの志向や特性を推し量ることができます。少子化が進み既に人口が減少し始めているわが国では、若者世代の流出の激しい東北や九州に雇用を創出できないと人口はますます流出するでしょうし、地方圏では高齢単身世帯の増加により、住宅の維持管理の問題が顕在化し、実際の生活の問題や医療やケアなど、生命・身体に関わる問題も出てきます。例えば、高齢者が維持管理に手間のかかる築年の古い戸建て住宅に住むより商店や病院が近くにあるマンションに移り住めば、生活の不安や負担が少なくすることが可能であり、そのような住宅需要はあるはずです。人口流出が見られる地域でも、生活者の実態を把握することによって、新たな居住ニーズを創出することができるのではないでしょうか。
※データ提供:東京カンテイ