中古マンションの売出・取引価格の乖離率と売却期間の推移 2003年~2012年
~首都圏や近畿圏の乖離率は例年通りの水準に、中部圏ではやや拡大傾向~
2013年3月に国交省が発表した1月1日時点の地価公示は、住宅地が全国平均で1.6%下落しましたが、2012年の2.3%下落から縮小し、主要都市中心部では上昇・横ばいの地点も増加しています。地価が復調に転じたエリアでは、今後中古マンション価格の上昇も期待され、再び売り手市場へとシフトすることが予想されます。
中古マンション価格には売主がこの価格で売りたいと希望する「売出価格」と、買主との間で実際に成約した際の「取引価格」があり、「売出価格」は不動産ポータルサイトや不動産情報誌、仲介業者の店舗などで知ることができる一般情報ですが、「取引価格」は不動産業者以外で幅広く閲覧することは基本的には難しく、「売出価格」とどのくらい開きがあるのかについて広く知られていませんし、またその差は市況によって当然拡大したり縮小したりしますが、そのことについても明示されているケースはほとんどないようです。
今回は、東京カンテイ のデータを基に、中古マンション一戸ごとに売出価格と取引価格を突き合わせて、これらの価格の差が市場でどのくらい縮小するのか、また売却までに要した期間(以下、売却期間)によってどれだけ変化するのかについて見ていきましょう。
首都圏 価格乖離率は平均的な水準に収斂するも売却期間は再び3ヵ月を上回る
上のグラフは首都圏における中古マンションの売出・取引価格の差(=乖離率)と平均的な売却期間の推移を表したものです。乖離率がゼロに近いほど売出価格と取引価格の差が小さく、反対に乖離が大きいほど売出価格から値引きした価格で成約していることを示しています。
2006年~2008年のミニバブル期に新築マンション価格が上昇したことで、相対的に中古マンションの割安感が強まって中古マンション市場は買い手市場から売り手市場へとシフトしましたが、その様子はグラフからも読み取れます。中古マンションの価格乖離率は2006年に前年から1.5ポイント縮小して-6.3%、2007年もさらに縮小して-5.6%と、直近10年間で売出価格と取引価格の差が最も縮まっていました。2008年に入ってもしばらくは堅調な推移が続いていましたが、同年9月のリーマン・ショックを境に日本国内のマンション市場も急激に冷え込んだことで、成約するための大幅な値引きや売却期間の長期化を余儀なくされました。それらは数字にも表れており、価格乖離率は前年から大幅拡大して-10.2%、売却期間も平均で3.3ヵ月を要していたことがわかります。
2009年以降は、新築マンション価格の高止まりや供給戸数とエリアの絞り込みにより、中古マンションがマンション購入者のニーズの受け皿となったことで乖離率と売却期間はここ10年の平均的な水準まで戻してきていましたが、直近では新築マンションの供給が復調し始めたことで、2012年には中古マンションの平均売却期間が再び3ヵ月を超えています。
次に、売却期間ごとの乖離率を見てみましょう。一般に、売出価格が周辺相場に見合っていれば買い手からの反響も良く、当初の売出価格からさほど値下げせずに早期に成約に至るケースが多いと言われますが、データでもその傾向がはっきりと出ています。売却期間が1ヵ月以内の事例の乖離率は平均で-3.6%に留まっており、下のシェアグラフを見る限りでは、売出価格のまま成約に至っているケースも28.6%に達します。
一方、売却期間が長引くほど乖離率は拡大し、売却期間が4ヵ月以上になると乖離率は10%を超えて大半のケースで当初の売出価格から1割~2割程度の値引きを余儀なくされていることがわかります。
近畿圏 価格乖離率は-8.0%前後で推移、売却期間は08年以降3ヵ月超が常態化
近畿圏中古マンションの乖離率の推移は首都圏と概ね同じような動きとなっており、ミニバブル期とリーマン・ショック後にかけて大きく変化しました。2010年以降は-8.0%弱と直近10年の平均的な水準に落ち着きつつあり、2012年には-7.6%となっています。一方、売却期間の推移は2007年までは2.5ヵ月前後で安定していましたが、2008年にはマンション市況の悪化によって成約に至るまでの期間が3.7ヵ月まで長期化し、以降はやや短縮しつつありますが、少なくとも3ヵ月を要する状況が続いているようです。
近畿圏の売却期間ごとの乖離率も売却期間の長期化に伴って拡大する傾向にあります。売却期間が1ヵ月以内の乖離率は平均で-4.6%と、首都圏に比べて1.0ポイント差が大きくなっています。また売却価格のまま成約に至っているケースは2割程度と、首都圏(28.6%)や中部圏(26.5%)に比べて低くなっていることから、近畿圏では周辺相場に近い価格で売り出して相応の反響があったとしても、ある程度の値下げを余儀なくされる傾向があります。売却期間が4ヵ月以上で乖離率が10%を超えているのは首都圏と共通した特徴で、物件を売り出してから3ヵ月経ってもあまり反響がない場合、物件を売却するためには当初の売出価格から1割以上値引きした価格改定が必要になりそうです。
中部圏 08年以降の価格乖離率は拡大傾向、売却期間も緩やかに長期化へ
中部圏中古マンションの乖離率は首都圏や近畿圏とは若干異なった推移を示しており、2008年に乖離率が大幅に拡大して以降は、売出価格と取引価格の差が緩やかに拡大しています。売却期間も年々長期化する傾向を示しており、2012年には3.9ヵ月と直近10年間で最も長くなっています。このように、他の圏域と異なった特徴を示している要因としては、①2011年に発生した東日本大震災や世界経済の低迷などで中部圏の主要な産業である自動車産業が打撃を受けたこと、②中古マンションの価格調整の遅れ、③もともとマンションへの居住ニーズが限定的で、中部圏全域では戸建住宅が中心であることなどが挙げられます。
中部圏では、売却期間が1ヵ月以内の乖離率は-4.4%、2ヵ月では-7.5%、3ヵ月では-8.3%となっており、三大都市圏では売却期間が3ヵ月以内の事例の乖離率はいずれも10%を下回っています。4ヵ月以上での乖離率についてはサンプル数の違いによって多少違いがありますが、概ね売却期間が長期化するに連れて拡大する傾向にあると言えるでしょう。
結論:売出価格の設定が売却期間を左右する
一般に、周辺相場や地域のニーズに沿った価格設定をしている場合には、あまり値下げすることなく早期に成約に至る可能性が高いことはよく知られていますが、今回確認したデータでも改めてその事実を確認することができました。一方で、周辺相場やニーズをあまり考慮せずに高めの売出価格を設定してしまうと、結果的に当初の売出価格から1割以上の値下げを余儀なくされ、売却期間も長期化する傾向にあることもわかりました。売出価格から値下げしても、最終的な取引価格が周辺相場と大差なかったのであれば問題ありませんが、最初に売り出されてから期間が経っていて価格改定も何度かされている物件などは、買い手からさらなる値下げ交渉を求められる可能性が高くなりますし、また売却までの期日が迫っている場合でも同じく買い手から足元を見られて、取引価格が周辺相場よりも安くなる可能性が高まると言えるでしょう。
中古マンションの売出価格は、同じマンション内や周辺にあるマンションの事例などを参考に相場価格を算出し、住戸の個別要因や市場動向などを加味して設定するケースが多く、売主としては想定され得る“売れる価格のレンジ”の範囲内で、できるだけ高値で売りたいと考えるのは当然のことでしょう。しかし、あまりにも売出価格を高値にしてしまうと、大幅な値下げや売却期間の長期化につながるリスクが生じてしまいます。最初に売出価格を設定する際には、売主として売却までのスケジュールも考慮して値付けすることが重要ですし、売り出した後も反響の有無に応じて弾力的に価格改定を行うことが必要になるでしょう。売主の希望と買主の希望価格には総じて差があるものですから、早く売りたいのか、高く売るために買主が見つかるまで粘り強く待つのか、仲介会社のサポートを受けながら“作戦”を練ることも重要です。
※データ提供:東京カンテイ