新築タワーマンションの所在階による価格差、実は縮まってきている? 2018年12月
2013年以降の新築マンション市場においては、新築タワーマンションが供給戸数・価格の両面で牽引役となっていました。しかし、2015年になると兼ねてからの価格高騰の過熱感に加えて、相続税に対するあからさまな節税スキームに国税庁から「看過できない」との見解が示されたこと、さらには住戸の所在階に応じた固定資産税の課税見直しが新聞やニュースなどで報じられたことを受けて、それまで旺盛だった購入マインドは減退し、翌2016年からはその供給スピードを鈍化させていました。ただ、結果的には高層階住戸への固定資産税の負担はさほど大きいものにはならず、その後は比較的資金に余裕がある購入層からの高いニーズに沿う形で、立地優位性に優れた都市中心部や大規模再開発が行われ交通利便性も良好なターミナル駅などを中心に、新築タワーマンションの供給動向は大手デベロッパー主導の下で再び息を吹き返しつつあるようです。
タワーマンション最大の特徴は何といっても“階数の高さ”であり、個々の独特な外観と相俟って、ランドマークとしての存在感は誰もが認めるところではないでしょうか。絶対的な希少性に加えて遠くまで見渡せる良好な眺望、住まうことへのステータス性を享受できる高層階住戸に対しては富裕層から高いニーズがあります。また、低層階住戸についてもスカイラウンジやスポーツジムなどの共用施設が充実しているタワーマンションを比較的手頃な価格で手に入れることができるために、交通利便性や生活利便性に富んだ機能的なライフスタイルを求める一般的な購入者からも人気を集めています。不動産ポータルサイトや住宅情報誌などでも頻繁に特集され、マンション価格が高値圏で推移する昨今においても幅広い購入層から支持される形でその人気はますます高まってきています。
分譲マンションの価格は新築・中古を問わず、基本的には所在階に応じて高くなる傾向にありますが、タワーマンションもその例外ではなく、供給が本格化する前の2000年代前半までは所在階によって販売価格に大きな開きがありました。当時分譲されていたタワーマンションでは高層階住戸に比べて低層階住戸が相当割安な価格に設定されていたわけですが、直近にかけての価格高騰を受けて高層階住戸の価格上昇率を大きく上回るケースも決して珍しくはないようです。これらの事例を根拠に、「タワーマンションを購入するなら大きな値上がりも期待できる低層階住戸がお買い得」と喧伝する記事をよく目にしますが、大量供給時代~現在にかけて分譲されたタワーマンションでもそのような傾向は果たして当てはまるのでしょうか。今回は東京カンテイが公表したデータを基に新築タワーマンションの所在階による価格差とその変遷について見ていきましょう。
大量供給時代以降の新築タワーマンションでは低層階~高層階で“価格の平準化”が進む
全国の中でもタワーマンションの供給が多い東京23区と大阪市を対象に所在階別での新築分譲価格(坪単価)の推移を示すと表の通りになります。価格水準は市況によって左右されますので、所在階による価格差とその傾向をわかりやすくするために、ここでは「9階以下」を基準階層(=100)として各階層での効用比を表中の右側に併せて掲出してみました。
タワーマンションの供給が本格化する前の2000年代前半(2000年~2004年)における効用比を見ると、所在階が10階ずつ上がるに連れて概ね10ポイントずつ上昇しており、最上階を含む階層(例えば30階建てクラスでは「30階~39階」)ではプレミアムの高さが加味される形でさらに10ポイント以上の効用比が上積みされています。所在階に応じて効用比が高くなる傾向は大量供給時代に入った2000年代後半(2005年~2009年)以降でも変わりはありませんが、同じ所在階における効用比の数値自体は年代が進むに連れて徐々に低下しつつあります。以下のグラフはその様子をわかりやすく表したものですが、最上階を含む階層以外で“価格の平準化”が進んでいる主な要因や背景としては大きく分けて3つのポイントを挙げることができます。1つ目は大量供給時代を経たことでタワーマンションのストック数が増えて、30階以下に所在する住戸の希少性が低下するとともに、大きな価格差をつける根拠を失いつつあること。2つ目はタワーマンションにおける価格設定ノウハウの蓄積や参考となる事例が増えたためで、中でも市場原理によって相場が決定する中古市場でタワーマンションの住戸が数多く流通するようになった影響は非常に大きいと思われます。3つ目は2008年にピークを迎えたミニバブルや昨今の価格高騰局面において建築コストが上昇している点です。従来通りの効用比で価格設定した場合、高層階住戸の販売価格が著しく高額となってしまうため、これまで割安な価格に設定していた中層階~低層階にもコストアップ分を相応に転嫁せざるを得なくなり、結果的に低層階と高層階における価格差が縮まってきているというわけです。
2000年代後半以降では低層階住戸の割安感が弱まって価格上昇率も突出せず
次に、新築分譲時と中古流通時における階層別の価格と効用比について、個別のタワーマンションを例に具体的に見てみましょう。ここでは東京23区に所在し、竣工年代が異なる50階建てクラスのタワーマンション4棟を掲出しています。江東区で2000年代前半に竣工したケース①のマンションを見ると、新築分譲時における「50階以上」の効用比は177.8で、低層階である「9階以下」とは70ポイント以上の大差が生じていました。竣工から10年以上が経過した直近2年間(2016年10月~2018年9月)での中古価格は全ての所在階で上昇していますが、各階層での価格上昇率を比較すると、「50階以上」が+12.2%であったのに対して、「9階以下」は+71.3%にも及んでおり、新築価格が割安に設定されていた低層階ほど高い上昇率を示す結果となりました。
タワーマンションの大量供給時代以降では、所在階による新築価格の差が縮まってきている点は既に触れた通りですが、ケース②のマンションを見てもそのことがはっきりと示されています。新築価格の効用比はケース①のマンションに比べると低層階~高層階に渡って大きな差が生じていませんし、中古流通時での価格上昇率も「9階以下」が+76.9%であるのに対して中層階~高層階では+60%程度に収斂しており、その差はケース①よりも格段に縮まっています。ケース③やケース④のグラフからは、前出の2ケースに比べて新築分譲時における低層階~高層階での効用比の差が年代を追うごとに概ね縮小する傾向を確認することができますし、また新築分譲時の効用比が中古流通時とほとんど変わらなくなるなど、所在階の違いによる価格設定の在り方が市場原理に則った中古市場の相場感にかなり近づいていることもわかると思います。
これから新築・中古を問わずにタワーマンションの低層階住戸を購入する場合、かつてのように高層階住戸よりも大幅値上がりを期待することはデータを見る限りでは残念ながら難しくなっていると言わざるを得ません。ただし、低層階住戸ほど手頃な価格帯で共用施設が充実したタワーマンションを購入できる利点自体は変わりませんし、中古流通時での価格変動も低層階・高層階であまり違いは生じなくなっています。そのため、これからタワーマンション購入を検討されている方にとっては将来的な資産価値への過剰な損得を気にせずに購入予算に見合った階層の住戸をシンプルに選択するといったスタイルを取ってもさほど問題がないとも言えるでしょう。
(データ提供:東京カンテイ)