「今話題の新築マンション供給エリア」には値ごろ感があるの?【首都圏編】
首都圏や近畿圏をはじめとする新築マンション市場は、2013年に入ってからモデルルームへの来客数や資料請求などが増え、供給戸数が増加するとともに売れ行きも好調と伝えられ、活況を呈しているようです。また、都市圏中心部では住宅地・商業地ともに地価が上昇し始め、さらに震災復興やインフラ整備など公共事業の増加によって労働者や建設資材の需給が引き締まって建築コストの上昇も予測されるため、最近では新築マンションの分譲価格の上昇圧力は確実に高まってきています。特に、首都圏湾岸エリアや都心では再開発に伴う交通・生活利便性の向上が今後も期待されていますから、強気に価格設定される新築マンションが販売されても不思議ではありません。確かに、新築マンション価格の“グロス金額”は2007年~2008年頃のミニバブル期に比べれば値ごろ感はあるようですが、果たして今が本当に買い時なのでしょうか。
そこで、直近5年間で継続的かつ十分な分譲実績がある、いわゆる“今話題の新築供給エリア”に注目し、東京カンテイオリジナルの指標であるマンションPER(※)を用いて、賃料見合いで、これまで販売された新築マンションの分譲価格が割安なのか割高なのかを調べてみました。今回は首都圏各エリアの主要駅について見ていきます。
※マンション価格が周辺の賃貸物件(分譲マンションの賃料を使用しています)の相場賃料の何年分に相当するか=購入を検討している分譲マンションの価格が周辺の相場賃料換算でどれくらいの期間で換算できるか、を示す数値。PERが高ければ収益性は低く、反対にPERが低ければ収益性は高いことになります。
(データ協力:東京カンテイ )
(1)東京23区
東京23区 主要駅別新築マンションPERの推移
沿線名 | 駅名 | 2009年 PER |
2010年 PER |
2011年 PER |
2012年 PER |
2013年 | ||
新築マンション PER |
70m²
価格 (万円) |
70m²
賃料 (円/月) |
||||||
東京メトロ有楽町線 | 豊洲 | 21.74 | 23.10 | 22.92 | 20.00 | 19.04 | 4,824 | 211,121 |
都営地下鉄大江戸線 | 勝どき | 17.02 | 18.06 | 21.10 | 21.27 | 20.88 | 5,714 | 228,087 |
東急田園都市線 | 二子玉川 | 28.68 | 27.08 | 27.16 | 22.58 | 21.11 | 5,286 | 208,699 |
東京メトロ南北線 | 麻布十番 | 24.04 | 25.50 | 31.41 | 27.37 | 28.31 | 9,552 | 281,185 |
JR中央線 | 中野 | 23.08 | 23.59 | 29.43 | 27.84 | 24.58 | 6,357 | 215,535 |
マンションPERは投下資金の回収期間を示しますから、数値が小さいほど賃料見合いで割安に分譲されていることになります。現在、東京23区で注目を集めている湾岸エリアでも、最もマンション開発が盛んな「豊洲」「勝どき」の2013年マンションPERは東京23区平均を下回っており、良好な収益性を維持しています。分譲価格(70m²
換算)は5,000~6,000万円と高額ではありますが、賃料見合いでは東京23区の中でも割安な価格設定となっているようです。
城南~城西の「二子玉川」「中野」では高額物件が減少したことで新築マンション価格が下落しており、こちらも割安感が強まっています。一方、都心の「麻布十番」では分譲価格9,000万円以上の新築マンションが毎年分譲されていますが、月額賃料はこの4年間で約4万円下落しているため、収益性が徐々に悪化して割高感が強まる傾向が表れています。
(2)東京都下
東京都下 主要駅別新築マンションPERの推移
沿線名 | 駅名 | 2009年 PER |
2010年 PER |
2011年 PER |
2012年 PER |
2013年 | ||
新築マンション PER |
70m²
価格 (万円) |
70m²
賃料 (円/月) |
||||||
JR中央線 | 三鷹 | 32.15 | 32.94 | 20.68 | 24.38 | 24.47 | 5,529 | 188,291 |
京王線 | 府中 | 23.37 | 22.35 | 24.79 | 21.40 | 24.27 | 4,734 | 162,538 |
JR中央線 | 吉祥寺 | 26.88 | 22.86 | 27.48 | 26.38 | 29.78 | 7,331 | 205,136 |
JR中央線 | 八王子 | 20.08 | 17.76 | 19.44 | 26.81 | 22.83 | 3,579 | 130,645 |
西武新宿線 | 田無 | 30.02 | 27.49 | 20.17 | 22.17 | 25.12 | 3,780 | 125,422 |
東京都下の主要駅では、住みたい街ランキング調査で毎年1位に登場している「吉祥寺」は、東京都下では最も都心寄りで、月額賃料も約20万円と東京23区の駅と遜色ない賃料水準です。しかし、人気住宅地としての高いブランド性から強気の価格設定となる傾向が強く、2013年の新築マンション価格も7,000万円超と非常に高額です。そのため、マンションPERは29.78と投下資金の回収に約30年かかる計算で、東京都下平均の25.66も4.12ポイント上回っており、かなり割高に分譲されているようです。他の4駅については、いずれもマンションPERが都下平均を下回っていて、賃料見合いでは妥当な価格で新築マンションが供給されているようです。
(3)神奈川県
神奈川県 主要駅別新築マンションPERの推移
沿線名 | 駅名 | 2009年 PER |
2010年 PER |
2011年 PER |
2012年 PER |
2013年 | ||
新築マンション PER |
70m²
価格 (万円) |
70m²
賃料 (円/月) |
||||||
東急東横線 | 武蔵小杉 | 20.95 | 23.05 | 25.06 | 21.81 | 23.83 | 5,960 | 208,442 |
JR東海道本線 | 茅ヶ崎 | 27.47 | 23.00 | 21.34 | 21.99 | 23.95 | 3,444 | 119,831 |
東急田園都市線 | たまプラーザ | 27.15 | 29.50 | 25.37 | 24.41 | 33.47 | 5,626 | 140,048 |
JR京浜東北線 | 横浜 | 20.30 | 17.73 | 19.81 | 20.00 | 21.26 | 4,841 | 189,788 |
首都圏有数のターミナル駅である「横浜」では、最近5年間でタワーマンションや駅近物件など高めの価格設定になりやすい新築マンションの目立った供給がなかったために、2013年時点のマンションPERは神奈川県平均を下回って良好な収益性を維持しています。大規模タワーマンションが林立する「武蔵小杉」や、人気住宅地である「茅ケ崎」では高額な新築マンションが供給されており、一般的に割高なイメージを抱かれがちですが、2013年のマンションPER を見る限りでは神奈川県平均と大きな差がなく、賃料見合いでは適切な価格帯で分譲されているようです。「たまプラーザ」のマンションPERは2009年以降いずれも神奈川県平均を上回っており、特に2013年には駅近に新築マンションが供給されたことで、マンション価格は1,400万円超も上昇し、賃料換算で約9年分も収益性が悪化しています。
(4)埼玉県
埼玉県 主要駅別新築マンションPERの推移
沿線名 | 駅名 | 2009年 PER |
2010年 PER |
2011年 PER |
2012年 PER |
2013年 | ||
新築マンション PER |
70m²
価格 (万円) |
70m²
賃料 (円/月) |
||||||
JR埼京線 | 戸田公園 | 23.68 | 18.98 | 25.28 | 22.50 | 26.60 | 3,819 | 119,634 |
JR京浜東北線 | 大宮 | 24.89 | 27.05 | 25.93 | 26.21 | 29.34 | 4,955 | 140,718 |
JR京浜東北線 | 浦和 | 27.61 | 25.92 | 22.37 | 24.85 | 24.93 | 4,359 | 145,739 |
東武東上線 | 志木 | 27.14 | 29.42 | 22.33 | 22.11 | 22.52 | 3,346 | 123,798 |
JR京浜東北線 | 川口 | 25.59 | 26.61 | 20.96 | 21.31 | 25.46 | 4,165 | 136,347 |
「大宮」は埼玉県下で最もターミナル性が高い駅であることから、月額賃料も14万円強と高い水準となっていますが、2013年に坪単価200~250万円の駅近&大規模タワーマンションが分譲された影響で、新築マンション価格が600万円超上昇し、マンションPERは主要駅の中で唯一埼玉県平均を上回っています。その結果、同じ賃料水準である「浦和」に比べて賃料見合いでの割高感が強まっていることが確認できます。「大宮」以外の4駅のマンションPERは、2011年以降埼玉県平均を下回っていることから、県内における賃料換算に限って見れば概ね妥当な価格で新築マンションが分譲されているようです。しかし、2013年時点で首都圏平均のマンションPER(23.98)を下回っているのは「志木」のみで、都心への交通アクセスが良好なマンション適地がある駅では、賃料見合いでやや割高な価格設定がされやすい傾向が出ています。
仮に、今お住まいの駅周辺でタワーマンションの分譲が始まり、その分譲価格が高額であったり周辺相場から見てやや高い場合、価格や坪単価ばかり見ていると、確かに値ごろ感や割安感が損なわれているように思われるかも知れません。しかし、今回のように賃料を物差しにして割安か割高かを見てみると、例えばタワーマンション開発が盛んな「豊洲」や「勝どき」はまだまだ割安な価格水準であることや、分譲価格が都心に比べて安価な周辺3県にはむしろ賃料換算で割高な駅があることを知ることができます。
マンションPERは“マンションの価値”を判断する指標の一つであり、現時点の収益性をそのまま表していますので、これから購入を検討する新築マンションが割安か割高か、また将来売却することになった時でも収益物件としてのポテンシャルを持っているのかどうかを調べることができます。つまり出口に“売る”だけでなく“貸す”という選択肢が増えることになります。マンションを買う前にマンションの実力を調べておくことが、将来に備えることに繋がるのです。
※データ提供:東京カンテイ