賃料相場から見た新築マンションの買いやすさはどのように変化しているの? 2018年6月
2013年以降、アベノミクス効果によって実需・投資の両ニーズが喚起されたことや歴史的な低金利などを追い風に、新築マンション価格は上昇傾向で推移してきました。直近ではさすがに天井感が出始めていますが、東京23区や大阪市などの都市部ではミニバブル期のピーク価格を上回ったというニュースをよく見聞きする機会も多くなってきています。販売価格が高騰したとしても、購入層の所得もそれ以上に増えていれば、予算やマインドの面で特に問題とはなりません。しかし、実際のところは実質所得の伸び悩みから販売価格と購入予算との乖離は広がっていますし、中でも一般的な勤労者にとっては新築マンションはもはや“高嶺の花”となりつつあり、購入する住宅の現実的な選択肢には中々入ってこないのが実情のようです。
新築マンションの買いやすさを見る上で役立つデータとしては、前述で触れた購入者の所得水準の他にも分譲マンションの賃料水準などがあります。分譲マンション賃料は販売価格に比べて変動が小さくエリア毎での相場は固有のものですし、住みたい街やブランド住宅地など人気や居住ニーズの高さを表すバロメーターでもあることから、“ものさし”として用いることで新築マンションの買いやすさを推し測ることができるというわけです。このような指標としては、東京カンテイが「マンションPER※」というものを定期的に算出・公表していますが、今回はその推移や傾向から新築マンションの買いやすさにどのような変化が生じているかを見ていきましょう。
※マンションPER[=マンション価格÷(月額賃料×12)]とは、マンション価格が月額賃料の何年分に相当するかを示したもので、今回の改訂版からは価格のみならず賃料についても新築物件に限り対象とした上で、改めて数値を算出しています。
2017年の首都圏平均は24.49、2012年に比べて回収に要する期間が5年ほど長期化
マンションPERは数値が低い(=回収期間が短い)ほど賃料見合いでは価格が割安で買いやすく、反対に高い(=回収期間が長い)ほど割高で買いにくいことを意味しています。また、例えばマンションPERが20であれば表面利回り換算では5%に相当しますが、これまでの推移を見る限りでは概ねこのあたりの水準が買いやすさの境目となっているようです。
首都圏においては、①2008年前後のミニバブル期と②2013年以降の価格高騰期でマンションPERが20ポイントを上回っており、販売価格の上昇に伴って買いやすさが減退している様子がわかります。特に、直近の方がミニバブル期のピーク値に比べて2ポイント以上も上回っていることから、販売価格自体のみならず賃料見合いの観点からも新築マンションが一段と買いにくい状況になっていることが窺えます。価格高騰局面を迎える前の2012年にはマンションPERは19.84と20ポイントを下回っていましたので、相対的に買いやすい時期であったと言えますが、2017年には24.49まで上昇し、回収に要する期間は5年ほど長期化しています。販売価格の高騰は“億ション”の供給が増えている都心部に限った話ではなく、近郊~郊外エリアにおいても大手デベロッパーの寡占化や供給物件の高スペック化(タワー、駅接・駅近)、建設コストの上昇などを受けて価格水準が高まっています。その様子は、マンションPERが24以上と高い数値を示す駅数のシェアが過半数を占めるまでに至っていること、また路線図のドット分布で高いマンションPERを示す赤色や桃色が首都圏全域に渡って拡がっていますことからも確認できます。
マンションPERが2012年→2017年にかけて最も大きく上昇した駅は西武池袋線「練馬」で、5年前に比べて14.65ポイント上昇し、マンションPER自体も30超えとなりました。掲出した20駅はいずれも首都圏平均よりも回収期間が長期化しており、第12位の「鷺沼」までの差分は10ポイント以上とその度合いが顕著となっています。「恵比寿」や「表参道」など都心立地の駅においては高額・高級マンションの供給が増えたために、5年前に比べて販売価格が5,000万円以上も上昇してマンションPERが30前後に達するケースも珍しくはありません。その他、ミニ都心の横浜エリアや城東エリアなどに位置する駅がランキング上位に登場してきていることからも、価格高騰が都心部といった特定のエリアに偏っているわけではなく、首都圏の広範囲に渡って生じていることがわかります。
2017年の近畿圏平均は22.21、「PER24以上」の駅数シェアも3%程度まで急拡大
近畿圏においても、直近ではミニバブル期のピーク値と比べてマンションPERが2ポイント以上も上回っていることから、新築マンションの買いにくさに拍車が掛かっていることに変わりはないようです。2017年のマンションPERは22.21まで上昇しており、2012年当時と比べて回収に要する期間が4年ほど長くなっています。2012年と2017年の路線図を見比べてエリア毎での状況を詳しく見てみますと、芦屋をはじめとする人気住宅地を有する阪神間エリアでは市況に関係なく高級マンションが分譲されていることから、マンションPERは常時高めとなっています。一方、大阪市内や京都市内に位置する多くの駅においてはマンションPERの大幅な上昇が認められます。大阪市内では駅前や街の大規模再開発と併せて数多くのタワーマンションが、また京都市内では国内外の富裕層向けにセカンドニーズの高級マンションが供給され、“地元価格”と乖離した販売価格となったことで賃料見合いでも買いやすさが減じる状況になっています。マンションPERが24以上の駅数シェアは3%程度まで急拡大しており、首都圏とは程度の差こそありますが近畿圏でも大阪市内、京都市内および阪神間エリアを中心に買いにくいエリアが広範囲に渡って拡がりつつあります。
マンションPERが2012年→2017年にかけて最も大きく上昇した駅は大阪市営地下鉄堺筋線「北浜」で、5年前に比べて15.41ポイントも上昇していました。ランキング上位には「心斎橋」や「谷町四丁目」など同じく大阪市内に位置する駅が合計7駅も登場してきており、その他は京都市内や阪神間エリアに位置する駅に大別することができます。強気の値付けにより販売価格が2,000万円以上も高まった結果、マンションPERが30を超える駅も散見されていますが、全体的にはマンションPER自体は首都圏に比べれば小さく、また価格水準自体も低いのが現状です。そのため、最近では価格高騰が行き過ぎて収益性の妙味が薄れた首都圏から近畿圏へと投資先を移す動きも出ているようで、今後もこのような投資ニーズに下支えされる形で価格が上昇し新築マンションの買いやすさが一段と減退する可能性もありそうです。
(データ提供:東京カンテイ)