消費税増税のマンション価格への影響について 2019年12月
今回は2018年~2019年10月のデータを基に、10月1日に行われた消費税の8%から10%への引き上げの影響が不動産市場にあったのか見てみましょう。消費税は基本的に課税業者が商品に課すものなので、新築マンションの建物部分に課税されますが、土地は消費税ではないため非課税です。中古マンションは売主が個人であれば通常、建物部分も非課税になり,売主が法人の場合は課税されます。売主が個人であっても、仲介手数料に課税されます。これらを踏まえた上で、いつものように東京カンテイのデータを基に分析します。
中古マンションの動き
中古マンション平均坪単価の動き(築10年の事例を集計:月次ベース)
三大都市圏の動きをグラフ-1で見ると近畿圏では中古マンション坪単価は上昇していると見られますが、首都圏と中部圏では10月に平均坪単価の下落が見られます。
これを詳しく見てみましょう。首都圏の価格に大きな影響を与える主要エリア・都市別に見ると、東京23区では8月と9月はほぼ横ばいと言ってもいいほどの僅かな変動に留まっていましたが、10月は下落に転じています。横浜市は上昇を続けていますが、一方で、都下は9月から、川崎市は8月から下落が続いています。
中古マンションでは売主が法人であれば新築マンションと同様に建物は課税対象になりますが、売主が個人であれば建物部分にも課税されません(土地部分はもともと非課税)。したがって、新築マンションと比べて影響は小さいものと考えられます。
2019年10月における東京23区平均坪単価の下落について、さらにエリアを3つに分けて分析したものがグラフ-3です。都心6区では9月と10月に連続して下落しています。南西6区は8月~9月と連続下落しましたが10月は上昇に転じています。北東11区は9月まで緩やかに上昇していましたが10月は下落に転じています。このように見ると10月は都心6区と北東11区で下落したために東京23区の平均坪単価が下落したことがわかります。ただこれらの下げトレンドは、川崎市や都下でも見られるように増税前から起こっていたとも見られますし、南西6区ではそれまでのネガティブな動きからポジティブに変化しています。
また近畿圏では中古マンション坪単価の各都市で上昇傾向にあることが、グラフ-4から確認できます。さらに中部圏では下落傾向にありますが名古屋市の平均坪単価は7月以降上昇を維持しています。これらのことから、10月に発生した価格の変動における消費増税の影響は小さいと考えて良いと思います。
新築マンションの動き
では、消費増税の影響が一般的に中古マンションより大きく出ると考えられる新築マンションの平均坪単価を見てみましょう。新築マンションは相対的に中古マンションに比べて供給(流通)数が少ないので4半期ベースで表出しています。2019年10月は独立して集計しています。
グラフ-5は三大都市圏の動きです。2015年7~9月期から2019年10月までの動きを見ることができますが、首都圏は2019年7~9月期と10月では概ね横ばいで推移しました。近畿圏では上昇し、中部圏では下落しています。
同様にグラフ-6で首都圏の主要エリア・都市別動きを確認しましょう。東京23区は10月に上昇を示し、横浜市と川崎市は下落、都下はデータがありません(新築の供給なし)。新築マンションは中古マンションと比べ供給量が減少しているため、エリアや都市ごとに分類すると特定の物件のバイアスが大きくかかりやすいので、4半期ベースでも価格の変動が見られます。ただ、全体の価格水準自体は上昇傾向にあります。また10月の数値がこれらの水準から大きく逸脱する動きもありません。新築マンションは、売主であるデベロッパーが価格を維持しようとする力が中古マンションより大きくかかるため、消費税の影響を判断するには、より多くの時間が必要(半年程度が必要)でしょう。少なくとも現在新規分譲されているマンションでは、消費増税後の市場を悲観的に捉えた価格の動きは見られません。報道では初月契約率の低下が指摘されていますが、この動きは2018年から発生しており、消費増税の影響と結びつけて考えるのは難しいと思います。
グラフ-7で近畿圏・中部圏の主要都市(大阪市、京都市、名古屋市)の動きも確認しますと、新築物件の供給が大きく減少している京都市は、むしろ高額物件が供給できないことによる価格下落が起きており、大阪市と名古屋市は揃って上昇しています。長期的に見ても上昇トレンドが崩れていません。
これらのことから、特に経済環境を比較的早いタイミングで捉える傾向のある中古マンションの動きからも、消費税の増税によるマンション価格(坪単価)への影響は全く見られないと言ってもいいでしょう。まだ増税後僅かな時間が経過した時点ですべてを断言するのは少々乱暴ではありますが、消費者の不動産に対する意識が大きく変わったとも見られないことも事実です。それよりも、世界規模での経済の減速や世界貿易摩擦の悪化など外的要因による変動のほうが大きな影響が出るのではないかと考えます。
少なくとも消費税増税に関しては、依然としてマイナス金利政策が継続し超低金利状態であること、消費増税後の政策を分厚くしたことなどからも、不動産への影響は極めて限定的で、今後急激に影響が出ることはないと考えます。
(データ提供:東京カンテイ)