不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
契約不適合責任の免責特約でも免責されない場合(1)
Q
私は、亡くなった父から25年前に相続して以来住んでいた、東京近郊の一戸建てとその敷地を先日売却したものです。
この一戸建ては、今から50年ほど前に父が建築したものでかなり古い建物でした。
そこで、私は、仲介業者さんにお願いして、多少売買価格が安くなっても契約不適合責任を負わない特約を付けることを前提に、売却先を探してもらいました。
その結果、今の古い建物を解体して新しい建物を建てて販売することを予定している開発業者(デベロッパー)さんにこの土地建物を買っていただけることになり、2021年8月2日に売買契約書に調印、2021年9月30日に土地建物を買主の方に引き渡しました。この際、売買契約書には、契約不適合責任を負わない特約を設けてもらいました。
ところが、2021年10月中旬、仲介業者さんを通じて、私の売った土地建物に不具合があったとの連絡を受けました。
開発業者さんが早速建物の解体を開始したところ、土地の地下に約10畳(5坪)の広さの地下室のような空間があることが分かり、その撤去に追加の費用が掛かってしまうそうで、開発業者さんから、その追加の撤去費用は売主である私にて負担してもらいたいとの要求を受けています。
実は、父が建物を建築した当時、この建物のちょうど中心部分に地下室があったのですが、湿気が酷く利用価値もあまりなかったため、私は、父が亡くなった直後に建物をリフォームする際、地下室のスペースを完全に封鎖してしまったのです。私は、そのことを買主の開発業者さんに説明することをすっかり忘れてしまっていました。地下室のスペースは完全に封鎖してしまっていましたので、今の建物を見ても地下室があったとは分からないと思います。
もっとも、先ほど申しましたとおり、契約不適合責任を負わない特約を設けていますので、土地の地下に余計なものがあったとしても、私の責任はないように思うのですが、私は地下室の撤去費用を負担しなければならないのでしょうか。
A
1.契約不適合責任を免責する特約とは
契約不適合責任とは、売買契約において、売買の対象となった物(目的物)が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」である場合に、売主の負う責任です。民法では、その内容として、契約の内容に適合しない欠陥又は不具合(以下「契約不適合」といいます)を修補する責任などが定められています(民法562条以下)。
契約不適合責任を負わない特約(免責特約)とは、仮に目的物(ご相談のケースでは土地建物)に契約不適合が見つかったとしても、売主である相談者様にて契約不適合責任を負わない内容の特約のことをいい、2020年4月号のコラムでも申しましたとおり、こうした特約も、消費者契約法が適用される場合など一定の例外を除き有効と解されています。
2.契約不適合責任を負わない特約でもなお免責されない場合
しかしながら、有効な契約不適合責任を負わない特約が設けられていたとしても、あらゆる場合に売主が契約不適合責任から免責されるとは限りません。
民法では、売主が、契約不適合責任を負わない特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができないと定められています(民法572条)。
そのため、売買契約の対象となった物に契約不適合があり、かつ売主がそのことを知りながら契約までに買主に説明をしなかった場合には、契約不適合責任を負わない特約をしていたとしても、売主は、やはり契約不適合責任を負うことになります。
3.地中の地下室の存在が契約不適合に当たるか
以上のとおり、ご相談のケースでは、契約不適合責任を負わない特約があるからといって当然にご相談者様が地下室の撤去費用を負担する必要がなくなるわけではなく、地中の地下室の存在がこのたびの売買契約の契約不適合に当たれば、ご相談者様は、契約不適合責任を負うことになります。
そこで、地中の地下室の存在が、このたびの売買契約の内容に適合しない不具合や欠陥に当たるかを検討いたします。
目的物に不具合又は欠陥が存したとしても、それが「契約の内容に適合しないもの」かは、「契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる」と解されています。
ご相談のケースにて、買主の開発業者の方は、今の建物を解体して新しい建物を建てて販売する目的でこのたびの土地建物を購入されており、売主であるご相談者様もそれをご存知でした。
建物を建築するためには、通常、基礎を始めとする各種設備を地中に設置することが不可欠であり、それに伴い地盤の整備、改良をする必要も生じます。そのため、これらの作業に支障を生じさせる(通常の作業とは別途の特別の作業、工事を生じさせる)異物が地中に埋設されていた場合、その異物の存在は、新たに建物を建築する目的の不動産の売買契約の内容に適合しない不具合に当たると解されます。
ご相談のケースは、建物の中心部分(土地の中心部分にも当たるものと推測されます)の地下に約10畳(5坪)の広さの地下室設備が存したとのものですから、先ほど申しました建物の建築に必要な地盤の整備、改良に当たり、地下室設備の撤去という特別の作業、工事を生じさせるものに当たると解され、現に、買主の開発業者は、撤去に追加の費用が生じたと主張しています。
そのため、地中の地下室の存在は、新しい建物を建てて販売する目的の下で結ばれた、このたびの土地建物の売買契約の内容に適合しない不具合又は欠陥に該当すると判断される可能性は高いと考えます。
したがいまして、ご相談者様は、このたびの売買契約に基づく契約不適合責任を負う可能性が高く、買主の開発業者から、地下室設備の撤去のために要した追加の費用の負担を求められた場合には、その請求に応じなければいけないおそれが高いかと存じます。
4.まとめ
契約不適合責任を負わない特約を追加したからといって、あらゆる場合に契約不適合責任を免れるとは限りません。
以前のコラムでも申し上げましたが、契約を締結される前の「転ばぬ先の杖」として、売主様としては、欠陥や不具合又はこれらに当たるおそれがある状況がこれから売却される不動産にあるか否かを今一度確認し、仲介される宅地建物取引業者の方にご相談の上で、あらかじめ買受候補者の方に説明を行うべきか否か対応を検討されるのがよろしいでしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。