不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
駐車場の賃貸借契約を解約して売却する際の注意点
Q
私は、持っている土地を整備して月極駐車場として賃貸しておりましたが、ここ数年駐車場の3分の1程度しか借り手がつかず、わずかな収益しか得られないため、土地を売却しようと考えております。
駐車場として売却するよりも更地にしてから売却した方が高く売れることが期待でき、買手も見つかりやすいと聞いたので、売買に先立ち現在の賃借人との賃貸借契約を契約期間の途中で解約しようと考えております。
駐車場の賃貸借契約書には、「当事者は、自らの都合により本契約を解約する場合は、それぞれ1か月前に相手方にその旨を通知するものとする。」との条項を定めておりますので、賃借人に解約をお願いする書面を送り始めたところ、賃借人の1人から、「正当な理由がないので解約には応じない、もし応じて欲しければ立退料を支払え。」と要求されてしまいました。
私は、賃借人に立退料を支払わなければ、駐車場の賃貸借契約の解約には応じてもらえないのでしょうか。
なお、駐車場には屋根はなく、土地には車の出入りを管理する機械設備と、事務所用の2坪ほどのプレハブ製の簡易な小屋があるのみです。
A
1.何が問題か~借地借家法
土地や建物の賃貸借契約には、借地借家法という法律が適用される場合があります。
この借地借家法には、土地や建物の賃借人(借地人、借家人)を保護する内容が定められています。その1つとして、もしその賃貸借契約に借地借家法が適用されると、契約書に賃貸人が契約期間の途中で賃貸借契約を解約できるとの条項があっても、賃貸人がいざその条項に基づき賃貸借契約を解約しようとしても、自由に解約ができるわけではなく、賃貸人に解約をするための「正当事由」が必要となってしまいます(「正当事由」の詳細な内容につきましては、2019年3月号「空室にしてから収益不動産を売却する際の注意点(1)」もご覧ください。)。
なお、いわゆる立退料とは、この借地借家法上の「正当事由」が十分ではない場合に、これを補完することを目的として賃貸人から賃借人に支払われるものです。
それでは、このたびのご相談者の方の駐車場の賃貸借契約に、借地借家法は適用されるのでしょうか。
2.駐車場の賃貸借契約に借地借家法が適用されるか
借地借家法の適用を受けるのは、「建物の所有を目的とする」土地の賃貸借契約とされています。
駐車場としての利用を目的とする土地の賃貸借契約は、「建物の所有」とは関係がありません。
それゆえ、駐車場としての利用を目的とする土地の賃貸借契約には、借地借家法は適用されないと解されています。
土地上に駐車場の設備として事務所や料金所の建物を建設していたとしても、主たる目的が駐車場としての利用であれば、借地借家法は適用されません(特に、ご相談の事案では、設備や建物を設置したのは賃借人ではなく、賃貸人であるご相談者の方ですから尚更です。)。
なお、同じ駐車場でも、立体駐車場の賃貸借契約の場合は、立体駐車場は一見すると建物に見えますので、借地借家法の適用を受ける建物の賃貸借契約に当然に当たるようにも思われますが、必ずしもそうとは解されておらず、ご相談の事案と離れますので詳細は割愛いたしますが、借地借家法の適用を受ける「建物」の賃貸借には当たらないと判断した裁判例も存しますので、注意が必要です。
3.民法上の期間内解約の要件
上記2.のとおり、駐車場としての土地の賃貸借契約は、原則として、借地借家法の適用を受けない賃貸借契約であると解されております。この場合は、民法の原則に従って、解約の申入れすることになります。
民法では、期間の定めのある賃貸借契約は、期間満了によって終了することが原則であり、契約期間の内に解約をする場合は、当事者の一方または双方が契約期間内に解約する権利を留保する特約、言い換えれば、当事者の一方または双方に契約期間内に解約する権利を与える特約(以下「期間内解約の特約」といいます。)を定める必要があります。
期間内解約の特約を定めた場合には、期間の定めのない契約と同様に、土地の賃貸借については解約申入れから1年が経過することによって、契約は終了することになります。
もっとも、これより短い期間で解約の効力を生じさせる特約を定めることも可能であり、その場合は、期間内解約の特約に加えて、「解約申入れから1か月の経過により終了する。」などと解約の効力が発生するまでの期間を具体的に定めた特約が必要となります。
なお、駐車場の賃貸借契約自体は、借地借家法の適用を受けない場合であっても、店舗の運営に不可欠な駐車場やマンションの区分所有者専用の駐車場などのように建物と駐車場を一体として利用することが期待される場合の賃貸借契約については、信義則や権利濫用により解約が制限される場合もありますので注意が必要です。
4.まとめ
ご相談の事案では、土地上にはご相談者が設置された車の出入りを管理する機械設備と簡易な事務所があるのみですから、駐車場としての利用を主たる目的とする土地の賃貸借契約として、借地借家法の適用は受けない契約と考えてよいでしょう。
それゆえ、解約申入れについて借地借家法の正当事由は要求されず、正当事由を補完するために賃借人に対して立退料を支払う必要もありません。
また、店舗に併設された駐車場やマンションの区分所有者専用の駐車場でもありませんので、信義則や権利濫用として解約が制限される場合にもまず該当しないと思われます。
したがいまして、賃貸借契約書に定められた特約に従い、1か月以上前に解約申入れをすれば、賃貸人であるご相談者の方から中途解約することができます。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。