不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
契約不適合責任の免責特約でも免責されない場合(2)
Q
私は、事務所や店舗が入居するテナントビル(以下「本ビル」といいます。)を保有しています。本ビルは、築50年以上が経過し、老朽化に伴い管理が困難になっています。私の子供は本ビルの管理を承継するつもりがありません。そこで、私は、自分が元気なうちに、本ビルを売却することにしました。
本ビルは、老朽化に伴い、設備の劣化や壁面のひび割れ等、不具合が多くあります。私は、本ビル売却後、これらの不具合を理由に修繕等の責任を負いたくないため、契約不適合責任を免責とする特約付きで本ビルの売買契約を締結しました。ところが、売買契約締結後、決済・引渡までの間に、本ビル内の排水管が破損し、漏水が生じていることを発見しました。この排水管の破損は、売買契約締結時になかったものです。
私は、買主から、決済・引渡までに、破損した排水管を修繕するよう求められました。私は、買主からの求めに応じなければならないでしょうか。
A
1.何が問題か
本件では、契約不適合責任が免責となっており、かつ、売主が契約締結時に排水管の破損を知らなかった(排水管の破損は売買契約締結時になかった。)ため、売主は買主からの求めに応じる必要がないようにも思えます。排水管の破損が本ビルの引渡後に発見されたのであれば、そのとおりです。
もっとも、排水管の破損は本ビルの引渡前に発見されています。そのため、そう簡単には結論が出ないのです。
2.契約不適合責任について
契約不適合責任とは、売買契約において、売買の対象となった物(目的物)が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない(以下「契約不適合」といいます。)もの」である場合に、売主が負う責任です(民法562条以下)。契約不適合責任を負わない特約(免責特約)は一定の例外(消費者契約法8条・10条、宅建業法40条、品確法95条)を除き有効とされています。ただし、売買契約の対象となった物に契約不適合があり、かつ売主がそのことを知りながら契約までに買主に説明をしなかった場合には、契約不適合責任を負わない特約をしていたとしても、売主は、やはり契約不適合責任を負うことになります(民法572条)。以上の契約不適合責任に関する一般論について、詳しくは前号をご参照ください。
排水管の破損により漏水が生じることは、本ビルの利用に重大な支障を生じさせますので、契約不適合に当たると考えられます。もっとも、本件では、契約不適合責任が免責となっており、かつ、売主は、契約締結時、排水管の破損を知りません(排水管の破損は売買契約締結時にありません。)。そのため、売主は買主に対し契約不適合責任を負わず、排水管の破損を修繕する義務を負わないことになりそうです。
3.契約不適合責任免責特約の射程範囲について
排水管の破損が本ビルの引渡後に発見された場合、契約不適合責任の免責特約により売主が契約不適合責任を負わないことに争いはありません。
問題は、排水管の破損が、契約締結後、引渡前に発見されていることにあります。契約不適合責任は、売主が、買主に対し、特定の目的物を単に引き渡せば足りるのでなく、契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負っているとの考え方を前提にしています。ところが、民法上の契約不適合責任は、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」に生じるとされ、目的物が引き渡された後の責任のように読めます。そうすると、民法上の契約不適合責任を免責にするだけでは、引渡前に発見された契約不適合を修繕して、契約目的物を契約の内容に適合させて引き渡す債務までは免責されていないようにも考えられます。このような考え方を前提としますと、売主は、買主からの、決済・引渡までに、破損した排水管を修繕するようにとの求めに応じなければなりません。
また、売主は、契約締結後、引渡まで、契約目的物を善良な管理者の注意をもって保存しなければならないとされています(民法400条)。そうすると、排水管の破損が、売主の上記注意義務に違反していると、契約不適合責任とは別に、売主は買主に対し上記注意義務違反を理由に責任を負うことになるかもしれません。
もっとも、上記結論は、売主が想定していたものではないかもしれません。売主が本件のような場合に責任を負わないことを明確にするためには、契約不適合責任の免責の効力が引渡前に発見された契約不適合にも及ぶ旨、保存上の善管注意義務も免責させる旨を明らかにしておく必要があるでしょう。
4.まとめ
契約不適合責任を単に免責とするだけでは、契約締結後、引渡前に発見された契約不適合につき当然に免責になるとは限りません。売主が免責の利益を確実に得るためには、契約書の文言に留意する必要があるでしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。