

不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
私道の通行権(2)
Q
私は、先日その所有していた土地を売却した者です(以下、この土地を「本件土地」といいます)。
元々、本件土地の一部は、コンクリートで舗装された通路になっていました(舗装されていたのは、通路部分だけです。以下、この通路を「本件通路」といいます)。
この道路は、私が、本件土地の隣に住んでいる方(以下「隣地の方」といいます)からお願いされて、その方のために、舗装して作ったものです(詳細は割愛しますが、元々隣地の方には恩義がありましたので)。
その後、隣地の方は、本件通路を日常的に通行しており、私は、隣地の方の本件通路の通行を認めていました。もちろん、隣地の方からは通行料は頂いていません。
また、私は、本件通路部分を隣地の方に譲るつもりは一切ありませんでしたし、隣地の方も買われるご予定はありませんでしたので、登記簿に本件通路のことは特に書かれていません。
私は、本件土地を売却するに当たり、特に買主の方から聞かれませんでしたので、今お話しした、本件通路の作った経緯や、隣地の方が本件通路を日常的に通行していることはお話ししていません。
ところが、先日、本件土地の売却と決済も完了した後、買主の方から、「本件通路を廃止しようとしたところ、隣地の方から『通行地役権』が設定されているから本件通路を廃止するなと抗議されている。本件通路の存在は知っていたが、『通行地役権』が設定されていたことは初耳だ」との連絡がありました。
私が調べたところ、「通行地役権」とは、他人の土地を通行することができる権利であって、私が隣地の方に本件通路の通行を認めていたのは、通行地役権の設定に当たるようです。
しかしながら、先ほどお話ししたとおり、本件土地の登記簿には、隣地の方の通行地役権があるなどとは一切書かれていません。登記簿に何も記載がない以上、隣地の方は、買主に対して通行地役権を主張できず、買主が本件通路を廃止することに文句などいえないのではないでしょうか。
A
1 通行地役権とは
地役権とは、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利です。
通行地役権とは、通行のための地役権のことであり、簡単に申し上げれば、他人の土地を通行することができる権利を指します。
ご相談の件では、ご相談者様は、隣地の方からお願いされて、本件通路を舗装してその方の通行を認めたようですので、本件通路に隣地のための通行地役権を設定したものと考えられます。
2 通行地役権の対抗関係の原則
通行地役権は物権ですので、これの取得等について第三者に対抗するためには、登記をする必要があります(民法第177条)。
本件通路の通行地役権は登記されていないとのことで、隣地の方は買主にこの通行地役権を主張できません。
3 判例の考え
もっとも、判例(最判平成10年2月13日)は、例外的に、登記がなされていない通行地役権を買主に主張できる場合があることを明らかにしています。
すなわち、この判例は、「通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である」として、買主が第三者に当たらず、買主に対し通行地役権を主張するために登記の必要が無い場合を明らかにしているのです。
※要役地:便益を受ける土地。ご相談の件においては隣地を指します。
※承役地:便益に供される土地。ご相談の件においては本件通路を指します。
本件通路はアスファルトで舗装されており、通路として使用されていることが比較的明らかな状況にあります。また、買主は本件通路の存在を知っていたようですから、本件通路が通路として使用されていることを認識可能であったと思われます。
このように考えると、ご相談の件では、買主との関係で、隣地の方が通行地役権に基づき今後も本件通路を通行できる可能性が十分存します。
4 ご相談の件のまとめ
買主が隣地の方の通行を認めざるを得なくなった場合、ご相談者様は、買主から通行地役権について説明していなかったことの責任も問われる事態となりかねません。
不動産の売却に当たっては、後のトラブルを避けるため、慎重に進める必要があるでしょう。
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長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。